広告、商品開発、コミュニケーションなど、多岐にわたるマーケティング活動の中で、顧客との関係性をどう築くか。マーケターは今、自身が顧客に向き合う姿勢を再点検すべきときを迎えている。高岡浩三氏、小々馬敦氏、田中信哉氏、音部大輔氏、鹿毛康司氏、嶋浩一郎氏、佐藤尚之(さとなお)氏、並河進氏ら、第一人者たちが登場し、専門メディア・日経クロストレンドで反響を呼んだ特集を書籍化した。
今、あなたやあなたが所属する部署が背負っているKPI(重要業績指標)は何でしょうか。広告の「インプレッション数(表示回数)」や「CTR(クリック率)」「CVR(コンバージョン率)」「新顧客獲得数」「解約率」など、マーケティングに関わる「数字」はいくつもあります。
マーケターの皆さんは、これらの数字を追って日々悪戦苦闘していると思いますが、いったん全て忘れてください。なぜなら、企業都合の数字だけを注視することが、あなたの大切な顧客を遠ざける要因の一つになっているからです。
本書は、目先のKPIを達成するための小手先のテクニックではなく、それ以前にマーケターが考えるべき「顧客との向き合い方」をテーマにしています。マーケターが本来見るべきは数字ではなく、「人」です。どんな顧客にどんな価値を感じてもらい、どうやって喜んでもらうか。そんなラバブル(Lovable=愛されるべき存在)な活動が、マーケティングの本義であるはずです。
なぜ今、このような「そもそも論」が必要なのか。きっかけは近年、企業のマーケティング姿勢を疑うような事例が相次いだことです。企業が自らまたは第三者に依頼して、消費者に商品・サービスの宣伝と気づかれないように行う宣伝行為である「ステルスマーケティング」や、いいかげんな調査に基づくランキング結果を過大にアピールする「NO・1広告」、実際は買えない商品を訴求する「おとり広告」など、生活者をだます意図を含んだ施策が横行しています。
これらはマーケティングへの信頼を根本から揺るがす出来事で、マーケティング実務者向けのデジタルメディアである我々「日経クロストレンド」も強い危機感を抱きました。そうして立ち上げたのが、本書のベースになっている「愛される広告、好かれる広告」(22年2月)、「『マーケの危機』今、再考すべきこと」(22年9月公開)という2つの特集です。
いずれも読者からの反響が大きく、日経クロストレンド編集部としても自らを振り返り、改めて「伝えていくべきマーケティング」を明確化するよい機会になりました。ここで得られた知見をより多くの方々に共有したい。そう考えて出版に至ったのが本書です。
本書でも、ネスレ日本の元社長兼CEO(最高経営責任者)で現ケイアンドカンパニー代表の高岡浩三氏、ファンベースカンパニー会長でファンベースディレクターの佐藤尚之(さとなお)氏、博報堂執行役員・エグゼクティブクリエイティブディレクターで博報堂ケトル(東京・港)取締役・編集者の嶋浩一郎氏など、そうそうたる面々が「マーケティングの本質」を余すことなく語っています。また、日清食品や大王製紙、ヤッホーブルーイング、ピエトロなど、顧客に愛されるマーケティングを実践している企業の事例も多く収録しています。
マーケターという肩書ではなくとも、顧客と関わるすべてのビジネスパーソンに読んでいただきたい。そして、経験豊富なマーケターの方には自らの顧客と向き合う姿勢を再点検するツールとして、新人の方にはあるべきマーケティングの姿を理解し、今後のベースとなる思考を手に入れる機会になればと願っています。
≪目次≫
1 マーケ炎上事件簿
● キリンビバ、スシロー、吉野家… 矜持はどこに?マーケ炎上事件簿
● 「おとり広告」に喝 スシロー親会社社外取締役、元ネスレ高岡氏
2 マーケの誤解 嫌われるマーケ
● 「うざいリタゲ広告」撲滅 LINEMOの技あり広告で契約獲得8倍
● マーケターは軍事用語をいつまで使うのか? 顧客は標的ではない
● 元P&G・音部氏が語るマーケの誤解 購入は「経由地点」にすぎない
3 顧客とどう関係を築くか
● 榮太樓總本鋪に届いたクレーム 全パッケージを変更した心意気
● ピエトロはテレビCMをなぜやめたのか 工場動画にファンが歓喜
● ありがとうと言われる広告のつくり方 北欧、暮らしの道具店直伝
● 好調な広告に数件の厳しい意見 即対応した総菜宅配サービスの決断
● 鹿毛康司氏 マーケターは人間を見よ
4 マーケの新しいかたち
● 日清「チベットスナギツネ」ツイートの内幕 遭遇率6%を“衝撃化”
● 2万4955字の長すぎる商品サイト公開 ヤッホー新製品の仰天販促
● 「オモコロ」面白広告の極意 若者に高確率で拡散、炎上も回避
● UGC広告への突っ込みに「本人」が反論 愛犬家の支持で販売数434%
● 広告炎上防ぐチェックシートを公開 「愛される広告」の答えとは
5 愛されるマーケ
● 「愛される広告」の4条件 企業の本気・本音・本質が問われる
● 草彅剛「オムツじゃなくてパンツと呼ぼう」 広告でパーパス実現へ
● 博報堂ケトル嶋氏 愛されるブランドの条件は「余白とエンパシー」
6 顧客は「人」なんだ 対談:さとなお、並河進
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書名:『愛されるマーケ 嫌われるマーケ』(日経プレミアシリーズ:日経BP 日本経済新聞出版)
著者:日経クロストレンド編集部
定価:990円(税込み)
発売日:2023年3月9日
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