報道発表の後で新たな情報が次々明らかになり、大炎上。事態はさらに悪い方向へ……。政治、ビジネス、芸能界に至るまで、現在の日本は広報対応のまずさが目に余ります。しかし、あらかじめ「こうなること」が分かっていれば適切な対応をとれたのでしょうか。そんな疑問に対し、日本史の大事件を題材に「プレスリリース」を作成するという奇想天外なアプローチで答えを出したのが、2021年12月20日発売の『もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』です。

『もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』
『もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』(鈴木正義 著)

もし、あの時代に「広報」がいたら、本当に日本の歴史は大きく変わっていたかもしれない――。

 本書で扱うのは「大政奉還」「本能寺の変」「関ケ原の戦い」「武田信玄の死」といった日本史に登場するおなじみの大事件。これを題材にリスクマネジメント、制度改革、マーケティング、広報テクニック、リーダーシップという5つの観点からマスコミ向けの報道発表資料である「プレスリリース」を作成し、情報発信の重要性や広報という仕事の面白さ、難しさについて解説します。

 著者の鈴木正義氏はスティーブ・ジョブズ時代のアップルで広報を務め、現在はNECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパンで広報部門を率いる、第一線の現役広報マン。日経クロストレンドの連載「風雲! 広報の日常と非日常」の執筆者でもあります。鈴木氏は、日々、手ごわいマスコミの記者を相手にする熟練の広報テクニックを武器に、本書で歴史の斬新な見方についても私たちに提示してくれます。

 例えば、「本能寺の変」ではプレスリリースを出すのは織田家や明智家ではなく本能寺。寺院に火を放たれ、何も悪いことをしていないのに近隣住民に迷惑をかけてしまった本能寺のリリースには、企業が知っておくべき危機対応の原則が盛り込まれています。また、赤穂浪士の討ち入りを感動ともに描いた「忠臣蔵」では、討たれた吉良家側の広報担当者として、いかに現代に伝わる“ストーリー”が一方的であるかを理路整然と訴えます。「池田屋事件」ではプライバシー保護の甘さを指摘し、薩英戦争の引き金となった「生麦事件」で無礼斬りをされしまった英国人については「ワーケーション中の事故だったのでは?」との疑問から、従業員に対する企業の安全配慮義務について問題提起します。

 筆者の手にかかれば、大仏造立に貢献した行基はインフルエンサー、「おくのほそ道」の松尾芭蕉は超人気の旅行系ユーチューバー。つまり、本書に収められた42本のエピソードとプレスリリースは、すべて現代に生きる我々のビジネスや生活における関心事に着地するよう仕組まれているのです。

 さらに今回、歴史コメンテーターで東進ハイスクールのカリスマ日本史講師として知られる金谷俊一郎氏が監修を務めました。本書に登場するプレスリリース自体はどれもフィクションですが、史実に裏打ちされた表現と文章運びから著者と監修者のこだわりが伝わってきます。広報の実務書、ビジネス書、教養・エンターテインメント本など多彩な側面を持つ本書は、歴史本としても説得力のある内容に仕上がっています。

『もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』
著者:鈴木正義
監修:金谷俊一郎
価格:1870円(税込み)
体裁:A5版、260ページ

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【目次】

まえがき

第1章 リスクマネジメント
 ●武田信玄の死を広報的にごまかしてみる
 ●元寇に失敗した元軍の言い訳を広報する
 ●一方的な「忠臣蔵」を吉良家側から情報発信
 ●「本能寺の変」に学ぶ危機対応の原則
 ●顧客プライバシー保護が甘かった「池田屋事件」
 ●「金印」を紛失した役人はどうなった?
 ●弁慶が義経の広報官だったら
 ●「生麦事件」はワーケーション中の事故だった?
 ●「関ケ原の戦い」にはらむリスクを広報する
 ●日本初“バ美肉おじさん”紀貫之は謝罪すべき?
 ●混乱の室町時代は『北斗の拳』とソックリ

第2章 制度改革
 ●人にはどれだけの土地が必要か
 ●エグい「武家諸法度」はソフト路線で発表する
 ●お手本のような負のループ「徳政令」
 ●「生類憐みの令」は本当に悪法だったのか
 ●「大政奉還」の発表で幕府広報の葛藤を追体験
 ●「明治14年の政変」をミュージカルにしてみた
 ●「廃藩置県」よくあるご質問
 ●200年早過ぎた貨幣政策の天才

第3章 マーケティング
 ●源頼朝が編み出したエンゲージメント強化策
 ●超優良コンテンツ『古事記』で『ワンピース』超え
 ●松尾芭蕉を旅行系の人気ユーチューバーに
 ●「行基」は奈良時代のインフルエンサーだった
 ●遣唐使を現代流で募集するとこうなった
 ●求む、長篠方面に住む鉄砲に興味のある若い方
 ●仏教ブームの仕掛け人が豪族にアンケート
 ●大化の改新の記念事業で“謎の巨石”を大胆広報
 ●学習塾風に松下村塾の生徒を大募集!
 ●縄文人が米を食べた瞬間がイノベーションだ

第4章 広報テクニック
 ●「刀狩」にプレスが同行したらどうなるか
 ●江戸幕府が一揆について意識調査をしてみたら
 ●ヤマタノオロチ伝説でリリースの書き方を復習
 ●戦国武将の「ベストドレッサー賞」は誰の手に?
 ●社内広報で幕臣の心に「鎖国」を響かせる
 ●是が非でも『源氏物語』を売りたい出版社へ
 ●聖徳太子をメディアに売り込む最高の方法
 ●伊能忠敬に関する報道発表が簡素過ぎる問題

第5章 リーダーシップ
 ●井伊直弼、命懸けのコンプライアンス違反
 ●板垣退助“最期の言葉”を広めたのは誰?
 ●坂本龍馬が150年後に向けたプレスリリース
 ●上杉鷹山が発した名言にJFKが触発?
 ●「聚楽第」に未練無し、豊臣秀吉バブリー人生

監修者あとがき 日本の歴史はプレスリリースの歴史である
プレスリリース年表
参考資料

【著者プロフィール】

鈴木 正義(すずき まさよし)氏
NECパーソナルコンピュータ、レノボ・ジャパン広報 部長

1987年國學院大学文学部卒。鈴鹿サーキットランド(現モビリティランド)、ボッシュ、古舘プロジェクト、メンター・グラフィックスを経て、2004年よりアップルにて本格的に広報専門職のキャリアをスタート。Final Cut ProやiPhoneの広報を担当。11年レノボと日本電気の合弁事業NECパーソナルコンピュータの設立を機にレノボ・ジャパン入社、同時にNECパーソナルコンピュータへ出向。14年よりレノボ・ジャパン広報も兼務。社会人ラグビーチーム・クリーンファイターズ山梨でも広報を担当。日経クロストレンドで「風雲!広報の日常と非日常」を連載

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