今、ミルク市場に激変が起こっている。「第3のミルク」として植物由来ミルクが世界的に急伸長しているのだ。なかでも突出しているのが、アーモンドと水などを原料とするアーモンドミルク。江崎グリコのマーケティング本部 健康事業・新規事業マーケティング部 部長 木村幸生氏と日経BP総研の西沢邦浩が、日本でもブレークスルーを迎えつつあるアーモンドミルク急成長の背景と可能性を探った。
協力:江崎グリコ
健康や環境意識の高まりで動物性から植物性へ
西沢邦浩客員研究員(以下、西沢):近年、世界的に植物由来ミルクの市場が拡大傾向にあります。そのマーケットリーダーがアーモンドミルクという国も多く、ヨーロッパはもちろん、豆乳となじみ深いアジア圏でも伸長しています。特にアメリカでは過去5年で145%もの成長を示していますね。乳代替飲料マーケットの65%がアーモンドミルクという数字は驚きました。
木村幸生部長(以下、木村):世界の潮流として動物性からプラントベース(植物由来)の乳代替製品への意識が高まっているためでしょう。環境負荷が少ない飲料ということも背景の一つですが、アーモンドミルクは栄養面からも人気が高い。ビタミンEや食物繊維などを豊富に含むアーモンドの栄養を手軽に丸ごと取れるからです。牛乳の代わりに飲む人も増えているようですね。
西沢:アーモンドミルクは日本市場でも拡大し、2019年には前年比で販売量30%増※と順調に伸びています。グリコから14年に発売された「アーモンド効果」は、今やシェア9割以上と国内市場をけん引する存在ですが、そもそもなぜアーモンドと深く関わるようになったのでしょうか。
木村:実は日本にアーモンドを広めたのはグリコなのです。創業者である江崎利一がアメリカで出合ったアーモンドのおいしさと栄養価の高さに着目して作ったのが「アーモンドグリコ」でした。それまで日本ではほぼ知られておらず、漢方薬に使用する程度にしか輸入もされていなかったと聞いています。
西沢:栄養価というお話が出ましたが、社名もエネルギー源である「グリコーゲン」由来ですよね。
木村:そうですね。弊社は製菓会社のイメージが強いですが、実は大正時代から健康を意識し続けてきました。創業のきっかけとなったグリコーゲンの入った栄養菓子「グリコ」も、子どもたちの健康促進を図ったものです。当時、人々の栄養不足は社会問題化しており、より多くの人の手にとってもらいやすいよう、薬ではなくお菓子として製品化されたのです。それが現代まで「おいしさと健康」を届けるという企業理念として受け継がれています。
予防医学的な観点に立ち、食から健康づくりに貢献
西沢:薬ではなくお菓子やおいしさで社会問題を解決しようという姿勢はとてもユーザーフレンドリーですね。アーモンドのパイオニアが「アーモンドミルク」という新機軸を打ち出したのは、どのような理由からなのでしょうか。
木村:アーモンドは現代人に不足しがちな成分が豊富に含まれた栄養食品で、「おいしさと健康」を実現するのに最適な素材です。しかし粒のままだと細かくかみ砕く必要があり、お年寄りや子どもは食べにくい。その点、液状にすれば摂取しやすく、毎日続けやすいという利点があります。
西沢:狙いとして、アーモンドミルクの習慣化があったのですね。
木村:そうですね、製品開発の際に創業の原点に立ち返って見えてきたのが、予防医学的な観点に立った「ポピュレーションアプローチ」でした。弊社は高リスクな人に商品を提供する「ハイリスクアプローチ」ではなく、より広く、多くの人々の健康増進に寄与することをミッションとしています。この考えを引き継ぎ、おいしく手軽に栄養補給できるものとして「アーモンド効果」を開発しました。
西沢:一般的に楽しいお菓子のメーカーというイメージが強いグリコが、「予防医学的な観点」からアプローチしていく意義をどうお考えですか。
木村:昨今、企業の健康経営では、病気で欠勤する「アブセンティズム」だけでなく、出社しても体調不良により十分なパフォーマンスを発揮できない「プレゼンティズム」への取り組みも重視されていますよね。おいしさと健康を届けることをミッションとする弊社は、本業を通じて長年そのサポートをしてきたといえます。人の体は食べたもので作られますから、お菓子だけでなく食全体に視座を広げ、普段の食事から健康づくりに貢献することが我々の役割だと考えています。
密なコミュニケーションでファンを増やすことに注力
西沢:まったく新しい商品を市場に定着させるためには越えなければならないハードルも多いかと思います。これまでどのようなマーケティング活動を行ってきたのでしょうか。
木村:まず、アーモンドの栄養を生かしながら、「健康」「おいしさ」「続けやすさ」を両立させる製品設計を追求しました。また、コミュニケーションの方法も徹底的に考えました。
西沢:どのようなチャネルでコミュニケーションを展開しているのですか。
木村:弊社の思いを直接届けるために、ファンミーティングを行っています。参加者も10~20人と小規模にして、「アーモンド効果」を使ったレシピ提案やセミナーなど商品理解につながる綿密なコミュニケーションでファンを増やすことに注力しています。
西沢:単純な口コミマーケティングではなく、地道にファンを作り、その方が思いを伝えることで、またファンが生まれるというイメージですね。
木村:はい。ファンを作るには、まずおいしさを実感してもらうことが大事です。ただ、昨今は新型コロナの影響により買い物時間が短くなり、店頭でのコミュニケーションを密にできない状況のため、Webなどのチャネルでタッチポイントを増やすことに注力しています。例えば、SNS上の「プロテインはアーモンドミルクで割ると断然おいしい」という書き込みをもとに、インターネット通販などでプロテインと「アーモンド効果」をセット販売するようにしたのもそのひとつです。
食材として提案し、習慣化を目指す
西沢:「アーモンド効果」のコアなユーザーは、やはり女性でしょうか。
木村:広告ターゲットは20代~50代の女性ですが、実は購入者の約4割が男性であり、一人当たりの購入金額が高い。その傾向は特に、20代男性に顕著で「体を気遣ってコーヒー代わりに飲んでいる」「お腹がゆるくなりにくい」「味が飲みやすいので続けている」といった声が寄せられています。なじみのあるコーヒー味をはじめ、多彩な味のラインアップも手に取りやすさにつながっているようです。また、40、50代男性の購入者はリピート率が高く、インタビュー調査で「妻の化粧品を使って自分の肌を整えるような意識の高い人」というプロファイルが浮かび上がってきました。この層はターゲットとして、まだ可能性があると考えています。
西沢:それは面白いですね。さらなる需要拡大につながりそうです。一方、商品ラインも拡充されていますね。
木村:その一つが「アーモンド効果 TASTY」です。通常は皮をむいて粉砕するところを、皮ごと凍結粉砕したアーモンドをアーモンド中100%使用しています。商品の成長のため、コストはかかりますが、アーモンドの魅力をホールごと味わえることを優先しました。また、「アーモンド効果」はトライアルしやすい200mlサイズで主に展開していましたが、後から1000mlサイズを加えました。この1000mlサイズが好調で、対前年比140%超えで伸長しています。これは、たくさん飲みたい、家族で飲みたいという理由で購入すると思われ、ファン化の表れとして捉えています。
西沢:最後に、今後のマーケティング戦略についてお聞かせください。
木村:牛乳の市場を見ると、飲料用と料理用が半々の割合となっています。一方、アーモンドミルクは朝食のグラノーラにかけたり、コーヒーに入れたりと使用用途が多少広がっていますが、そのまま飲むことがほとんどです。牛乳のように料理などに使用されるようになれば、おいしく体にいい素材がより身近になると考え、レストランとのコラボなど接触ポイントを増やしてきました。今後も、食材としての提案を推進し、アーモンドミルクの習慣化を目指したいと考えています。
■問い合わせ先
江崎グリコ株式会社 アーモンド効果
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