
あらゆる企業にとっての命題である、持続可能な社会への貢献。それを本業で実現しているのが、フリマアプリの「メルカリ」だ。同社の狙いをコミュニケーションの視点から探っていく。
協力:メルカリ

株式会社メルカリ
マーケティング
マネージャー シニアマーケティングスペシャリスト
新たな挑戦や自己実現を「メルカリ」が後押しする
──コロナ禍により、生活者の消費行動も大きく変わりました。この変化をどうご覧になっていますか。
星氏(以下略) おうち時間が主流になったことで、驚きや価値あるものと偶発的に出会える機会が減っています。その反動として、セレンディピティーを求める傾向が増しているように感じます。これが消費行動にも表れ、以前だったらAIDMAやAISASといったマーケティングプロセスに従って購買意思決定がされていたのに対し、何か突発的なトリガーによって消費アクションを起こすという例が増えつつある。そのトリガーとなるのが、「自分ごと化」や「共感」というキーワードです。
──何か好奇心をくすぐられるものに出会い、共感し、自分もやってみようと思い立つ。そんな衝動に応えてくれる市場として注目されるのが、「メルカリ」です。
新しいチャレンジをメルカリで始めようという人は多いですね。「メルカリ」があることによって、心理的なハードルが下がるのだと思います。たとえば、流行りのソロキャンプに挑戦しようとしても、道具を一から新品で買い揃えるのは大変です。そこでまずは中古で安く揃えてから実践してみる。やってみてハマれば、次は自分に合う道具を新品で購入する、というステップに進むこともできます。
──初期投資が抑えられれば新しいことを始めるのも簡単だし、もし飽きてしまっても、買ったものはまた「メルカリ」で売ることができる。選択肢が増えることによって、自己実現の幅も広がりそうです。
売ることを前提にモノを購入するシーンは増えていくでしょうね。所有するのではなく、みんなでシェアしていくという発想です。購入の選択肢が広がることで、モノを大切にしようという気持ちも生まれます。購買における心理的ハードルも下がるため、1次流通市場の潜在顧客層を掘り起こし、活性化を促すことにもつながっていくのだと思います。実際、「メルカリ」のような2次流通市場が経済にもたらすインパクトはかなり大きく、1次流通市場にも波及するポジティブなサイクルを生み出しています。
──「メルカリ」をはじめとするフリマアプリの利用増加により、小売業全体にも好影響がもたらされているようですね。
フリマアプリの利用には、年間約484億円にもおよぶ新品への消費喚起効果があるとされています(※1)。またフリマアプリ出品経験者は、新品購入時にも販売価格の影響を受けにくいことも調査で明らかになりました。これも、売ることを前提としているからに他なりません。この調査結果により、2次流通市場の存在が1次流通市場における購買を後押しし、同時に顧客単価の上昇にも寄与していることがわかります。
・メルカリ、「フリマアプリ利用による新品商品への消費喚起効果」の実態調査を発表
・フリマアプリで売れる価格が新品の購買意思決定に与える影響を調査
上図は、コンジョイント分析によりメルカリで取引量が多い「ジーンズ」「タブレット端末」の販売価格別の部分効用値を算出したもの。0を起点に、グラフが上に伸びるほど購入意向が高まり、下に伸びるほど購入意向が低下する。フリマアプリ出品経験者・非利用者別にグラフを見ると、以下のことを示す。
- 5000円の場合、フリマアプリ出品経験者は非利用者に比べ購入意向が上がらない
- 2万円の場合、フリマアプリ出品経験者は非利用者に比べ購入意向が低下しない
一般に、商品が高額であるほど購入意向は低下していくが、フリマアプリ出品経験者は非利用者に比べてその低下率が低い。また低価格帯においても、出品経験者の購入意向は非利用者ほどには上がらない。つまり、販売価格の影響を受けにくい傾向にあるといえる。
「メルカリ」を利用することが、サステナブルな行動につながる
──貴社は、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」ことをミッションに掲げています。期待される「新たな価値」についてお聞かせください。
モノの価値は所有者によって変化します。自分にはもう必要なくなったものでも、他の誰かにとっては必要で価値あるものだったりする。そうしてモノが循環していくことによって、「新しい価値」が生まれると考えています。たとえば、2次流通市場でも人気の高いアンティークの着物などはわかりやすいですよね。もう自分では着ることのない着物も、誰かが着ることでまたその価値もアップデートする。このように限りある資源が大切に使われ、誰もが新たな価値を生み出せる社会を実現したいと思っています。

──サービスの成り立ち自体が、サステナブルな社会に寄与していることがうかがえます。実際に「メルカリ」ではどのように価値が循環していくのか、事例をご紹介いただけますか。
冠婚葬祭にまつわるものなど、一度しか使わないものは「メルカリ」でシェアしようという機運はすでに浸透しつつあります。そのうえで、また別の価値も注目されています。ウエディングドレスなどがいい例で、別の誰かに渡すことにより、モノだけでなく「幸せな体験」をつないでいくという側面があるわけです。このような取引をされた方たちの間では、この売買行為を「幸せバトン」と呼んでいます。また、志望校に合格した人の赤本も、「願掛け」という意味で人気が高いですね。こんなふうに情緒的な価値が循環していくのも、CtoCの2次流通市場ならではの魅力だと思います。
──人が介在することによって、売買そのものが価値ある体験につながるのですね。
売る人にも買う人にも、それぞれストーリーがある。取引することによってコミュニケーションも生まれる。そうした気づきをあらためて発信していきたいですね。そのためにも様々な価値観に応えられるよう、生活者に寄り添ったサービスやコミュニケーションを展開していく必要があると考えています。その一つが、オフライン施策の強化です。現在メルカリでは、全国各地に「メルカリステーション」を設置し、「はじメルサポート」や「メルカリ教室」で初心者の方を応援しています。
生活者のインサイトに寄り添うプロモーション展開
──メゾンメルカリを舞台としたテレビCMや、「それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」と謳った広告キャンペーンも印象的です。
メゾンメルカリのCMは、1年ほど前から展開しています。以前は、毎月新たなコミュニケーションを異なるキャストで発信していたのですが、それでは中長期的なブランド資産や企業成長にはつながりにくい。そこで、もっと誰もが当たり前に「メルカリ」を利用する世界観が醸成できるよう、本シリーズを制作しました。一見して「メルカリ」だとわかる刷り込み効果も期待でき、かつ戦略により柔軟にコントロール可能なフレームを構築しています。また、生活者の価値観がますます多様化するなか、新たな選択肢として気づきを提案しているのが、「それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」というメッセージです。
──キャンプ用品やギター、ゴルフクラブといった具体的な商品も挙げられていて、より納得感が増しますね。
もちろん新品のほうがいい場合もあるけれど、シチュエーションによっては「まずは『メルカリ』で試してみよう」とか「ストーリー性のあるモノを買いたい」というニーズも存在します。そういう人たちが共感し、自分ごと化できるきっかけをつくりたいと考えています。それが結果的にモノの循環を促し、持続可能な社会の実現につながっていくのではないでしょうか。
──「メルカリ」というサービスを通じて目指す社会、それに向けた今後の展開についてお聞かせください。
生活者の価値観はかつてないほどに多様化しています。100人いたら100通りの考えや生き方があるわけです。メルカリが目指すのは、そのどれもが肯定され、自己実現の選択肢が広がっている社会。多様な価値観を持つ人々にしっかりと応えていくためにも、CMや広告、SNSなどにおける施策はもちろん、「メルカリステーション」などのリアルなタッチポイントも増やしていきたいと考えています。今後も生活者に共感いただけるような、思いやりを持ったマーケティングを意識し、多様な選択肢が広がっていく結果として循環型社会への貢献を考えていきたいと思います。
