Eコマース(EC)向けのマーケティングテクノロジーを提供するRokt(ロクト、東京・港)は、消費者がECで「買い物を完了した瞬間」に最も幸福を感じ、受容性が高まることに着目。AI(人工知能)/機械学習を活用して、消費者一人ひとりに最適化したメッセージやオファーを「買い物直後」(ポスト・パーチェス)に提示し、EC事業者の収益性向上をサポートする。Rokt 日本代表の山中理恵氏に、なぜ「ポスト・パーチェス」なのか、具体的なメリットは何かなどについて聞いた。
協力/Rokt
ユニコーン企業に成長した米Rokt
――米Roktは、企業価値が10億ドル以上ある「ユニコーン企業」としても注目されています。事業内容やその特徴を教えてください。
山中 理恵氏(以下、山中) Roktは、ECに特化したマーケティングテクノロジーを提供する企業です。AIと機械学習を活用し、ECで「買い物が完了した直後」のタイミングで、消費者一人ひとりにパーソナライズした「次の行動」を喚起する提案を行います。Roktの創業は2012年ですが、初期からこうした買い物直後のベストアクションをユーザーに提案するソリューションを展開してきました。Roktの従業員数は現在約350人。2021年12月、シリーズEで3.25億ドル(約374億円)の資金調達を行いました。Roktの評価額は19.5億ドル(約2480億円)となり、米国ではユニコーン企業として知られています。来年には上場を予定しています。
創業者で最高経営責任者(CEO)のブルース・ブキャナン(Bruce Buchanan)はボストン・コンサルティング・グループを経て、2003年にJetstar Airwaysの設立に関わり、同社のCEOも務めました。ジェットスター・ジャパン設立にも尽力しました。

――Roktが日本へ進出したのは2018年ですね。
山中 2018年から日本法人の設立準備を始め、ビジネスがスタートしたのは19年6月です。それ以来、ECに特化したアドネットワークを構築するというユニークなポジションを築き上げてきました。
我々はECの買い物データ、決済データなどを基にAI/機械学習を活用し、パーソナライズされたメッセージやオファーを購入完了後(Roktが「トランザクション・モーメント」と呼ぶ瞬間)に提示することで、トランザクションあたりの価値を向上させるお手伝いをしています。
「購入確認ページ」に最適なメッセージをパーソナライズして表示
――トランザクション・モーメントに注目するのはなぜですか。
山中 トランザクション・モーメント、つまりお客様が買い物を完了された直後というのは気持ちが盛り上がった瞬間です。Roktが2018年に実施した調査では、オンラインで買い物をする消費者の約86%が「購入完了のタイミングが一番ハッピーな気分になる」と回答しています。また、「関連性の高いコンテンツにポジティブにエンゲージする可能性」が7倍に高まるといったデータがあります。
つまり、お客様とのエンゲージメント向上を目指すのであれば、トランザクション・モーメントが絶好の機会となるわけです。
もうひとつ理由があり、ユーザーのデモグラデータや実際の買い物データに基づいて、AI/機械学習が最適なメッセージやオファーを選択しますので、これは非常に精度の高い、言わばレレバンシーの高い提案になります。たとえば、お客様が関心を持ちそうな広告を表示すれば、一般的なディスプレイ広告に比べて50~100倍の確度でクリックしてもらうことも可能です。
――ポストパーチェスの最も熱いタイミングが「購入確認ページ」が表示された瞬間ですね。どんな内容が表示されるのですか。
山中 お客様にとってレレバンシー(関連性)の高いNext Actionをご提案します。具体的にはおすすめの広告を表示したり、メーリングリストへの登録、アプリのダウンロード、クーポン券の提供などをご提案します。
RoktはAI/機械学習を活用することで、お客様一人ひとりに対して最適なメッセージやオファーをパーソナライズして提供し、より高い成功を引き出すようにしています。ファーストパーティーデータを活用した科学的なアプローチを採用していると言っていいと思います。
パートナーネットワークの強化が優先
――Roktは、広告を表示するEC事業者サイトを束ねた配信ネットワークと、広告主のネットワーク両方を独自に持っていますが、現時点ではどちらの強化が必要だとお考えですか。
山中 サプライとデマンドは言わば卵と鶏の関係です。ただし、契約に必要な時間を比較するとサプライ(配信ネットワーク)が優先されるべきでしょう。
また、単にトランザクションが多ければ良いということだけではなく、オーディエンス(ECの利用者)の多様性を高めることも非常に重要です。様々なタイプのオーディエンスがいることで、多様な広告主のニーズに対応することができるためです。
――どんなEC事業者にパートナーネットワークへ参加してもらいたいと考えていますか。
山中 ECの業種は問いません。ネット上で製品やサービスを販売・提供されている事業者様であれば、Roktがマーケティングのお手伝いをさせていただけます。...ただ実感として、Roktのソリューションを導入いただいてメリットが得られるのは、月間のトランザクション数が1万5000~2万以上のECサイトかと思います。1日に商品が500以上売れているサイトということになりますね。
ECサイトは第三者広告で収益力をアップ
――ようやくコロナ禍での行動制限が緩和されるようになってきましたが、EC事業者は今どんな課題を抱えていますか。
山中 やはり利益率に対するコストプレッシャー(コロナでの人員不足、円安や物価高騰)だと思います。もうひとつは、世界的なセキュリティやプライバシーに対する意識の高まりから、ITP(Intelligent Tracking Privention)やサードパーティクッキーの廃止といった潮流につながり、従来可能であったターゲティングやCV検知が非常に難しくなってきているということです。その結果、広告のパフォーマンスの低下や広告費の増大という影響が生じています。
そんな中、Roktのソリューションを使うことで、広告主にとってはより効率的に顧客獲得ができたり、EC事業者にとっては購入確認ページで第三者広告を表示して新たな収益源にしていただいたりすることができる。つまり、Roktを活用したデジタルトランスフォーメーションや自社の業務改革にもつなげていただくことが可能です。
――例えば、新たな収益の可能性を考えた際、金額が気になります。どのくらいが期待できるのでしょうか。
山中 メディアの世界ではeCPMという指標が一般に使われます。これは、1000回表示あたり売上を指します。Roktの場合、平均して5000円から1万円と、商品が1000回売れて数千円の収益になります。パートナーによっては数万円というところもあります。ケースバイケースですが、平均して5000円から1万円とお考えいただいていいと思います。
セキュリティーに配慮しつつ、改正個人情報保護法に準拠
――AI/機械学習を活用し、パーソナライズして一人ひとりに最適な提案を行うためには、どんな情報が必要になりますか。
山中 Roktでは、EC事業者が保有する「ファーストパーティデータ」の中から、ユーザーのデモグラフィックな特性(性別・年齢・居住地域など)と、買い物に関わるコンテキストを含む情報(何を、どの程度、どうやって購入したのか など)を活用することが一般的です。 昨今、プライバシーに関してはどの国でも非常にセンシティブになってきていると思いますが、Roktではサービスを提供しているすべての国で、プライバシーおよびセキュリティの要件を確実に満たすよう対応させていただいています。
例えば、厳しいことで有名な「一般データ保護規則(GDPR)」を持つ欧州や米国のCCUP、日本の改正個人情報保護法に対応すべく、各国のデータ&プライバシーに関わるエキスパート弁護士事務所と連携し、確実な対応をさせていただいています。
――7月20日の「日経クロストレンドフォーラム2022」に登壇されます。どんなことを講演されますか。
山中 カスタマー・エクスペリエンス(CX)とプライバシーの関係を中心に述べようと思います。昨今、リテールメディアの急成長がよく話題になりますが、リテールメディアの台頭の裏にはプライバシー問題があります。非常に単純化して言えば、広告主が従来と同様に正確なターゲティングを求めた結果、ファーストパーティデータを活用できるリテールメディアに殺到した、ということです。
Roktは、ECに特化して、ECをメディア化するお手伝いをいたします。ファーストパーティデータにおけるプライバシー情報を保護しながら、お客様一人ひとりに最適化したサービスを提供し、CXを向上させることが重要と考えています。
EC事業者の皆様にはいろんな要望があると思いますが、それぞれの状況に応じたサービスを提供する。そのお手伝いをできるのがRoktだと思っています。

Rokt日本代表の山中理恵氏が「日経クロストレンドフォーラム2022」に登壇します。