1905年に創刊した「婦人画報」をルーツに持つハースト婦人画報社は、他社に先駆け1996年にデジタルメディア『エル・デジタル』をリリース。次いで2009年にEコマ―スサイト『ELLE SHOP』をローンチし、以来CRM(Customer Relationship Management)の知見を獲得し、デジタルコンテンツの制作とデータ活用においてノウハウを蓄積してきた。それらを生かしたクライアント企業へのマーケティング支援はユニークだ。メディア企業だからこそ提供できるソリューションとは何なのか、ハーストメディアソリューションズ本部長の山口大介氏とハーストメディアソリューションズ ハーストメイド ビジネスディベロップメント シニアマネージャー 須藤摩耶氏に話を聞いた。

協力/ハースト婦人画報社

 ハーストメディアソリューションズは、2020年4月、広告営業部門である広告本部の名称を変更して発足した新たな組織だ。単なる「広告枠」の提供にとどまらず、クライアント企業の課題解決を実現する「ソリューション」を提供することを目的とする。

 「これまでのメディア運営を通して、感度が高く裕福なユーザー層との深いつながりがあることが強みですね。興味関心の分析はもちろん、Eコマースでの売れ行きといったコンテンツのパフォーマンスまですべてデータとして蓄積していますから、ターゲット層を同じくするクライアント企業の様々なニーズに対してご提案が可能です」と山口氏は語る。

ハースト婦人画報社 ハーストメディアソリューションズ本部長 山口大介氏
ハースト婦人画報社 ハーストメディアソリューションズ本部長 山口大介氏

 同社は、14の雑誌メディアのほか、14のデジタルメディア、3つのEコマースを運営する。これらは、今も成長を続けており、実際にこうしたメディアを運営するスタッフがプロジェクトに参加することも特色と言えるだろう。自社メディアでつかんだ、最先端のクリエイティブの表現方法やSNSの運営の手法などをクライアント企業に即時提供できるのだ。

 「動画制作やイベント企画運営、グローバルキャンペーンまで対応できる布陣をしいています。案件に応じて、メディアを実際に運営している社内のあらゆる専任スタッフを有機的に編成しているのも特徴です。『ハーストメイド』というチームでは、クライアント企業のオウンドメディア制作から運営、ユーザーとのコミュニケーション設計までマーケティング支援を行いますが、自社メディアの編集長経験者など、ストーリーテリングに優れたプロフェッショナルをアサインすることで高いクリエイティブを実現しています。デジタルメディアを統括する部署からプロデューサーが、CRMの部門からはリサーチメンバーなどが参加することもあります」と山口氏は説明する。

データ活用の意識を全社員で醸成し、提案の精度を高める

 同社の持つデータとして注目すべきなのは、読者やイベント参加者、Eコマ―ス購買者などハーストのメディア運営で取得した「ハーストID」と呼ばれるユーザーデータだ。その数は100万IDにも及び、年率約15%で伸びているという。

 「我々は『婦人画報』のコアな読者である成熟した大人世代から、『ELLEgirl(エル・ガール)』や『Cosmopolitan(コスポリタン)』のZ世代まで幅広い年齢層の読者とつながっていますが、媒体ごとにターゲットの人格がはっきりしているという特性があります。感度が高くアートが好きであるとか、着物などの趣味嗜好を通してコミュニティが形成されているとかですね。なかでも女性富裕層にリーチできるのは強みです。世帯主である男性が会員、という富裕層向けサービスが一般的であるなかで、女性にリーチできる独自のポジションを構築していると思います」と山口氏。

 ハーストIDを持つユーザーには、事前に許可を得た範囲で、同社のリサーチチームが定期的にアンケートを実施。回答から一人ひとりのユーザーの生活を想像し、メディアのコンテンツ企画に反映することもある。こうして生み出したコンテンツには必ず目的(パーパス)を設定。アクセス数や読了率、遷移率など、さまざまな指標がある中で、そのパーパスに合ったKPIを決め、各メディアの記事を評価しているという。

 「こうしたメディアの運営から取得したデータを『オーディエンスデータ』と呼び、定量評価に使っています。そこからひもとくのは、ターゲットの定性的な活動であり、ペルソナです。ハーストIDユーザーのアンケートデータと組み合わせることでより精度の高い提案もできますし、編集者やハーストメディアソリューションズのメンバーはこうした能力にたけています。メディアを運営する我々の強みを生かしたデータの使い方だと言えるでしょう」と須藤氏。

ハーストメディアソリューションズ ハーストメイド ビジネスディベロップメント シニアマネージャー 須藤摩耶氏
ハーストメディアソリューションズ ハーストメイド ビジネスディベロップメント シニアマネージャー 須藤摩耶氏

 これらのデータはBIツールで全社員が見られる体制になっている。データアナリストや編集者だけでなく、営業担当者までが見ることができるため、データ活用の意識が社内全体に広がっているという。

 「ナレッジはたまってきていますが、終わりはありません。キャンペーンのように短期間で確実に結果が求められる場合もありますが、オウンドメディアなど長期に渡って運用する場合は、新たなナレッジを得るためにもチャレンジングな施策を提案することもあります。こうした時にはクライアント企業に『一緒に学びましょう』とお伝えしています。目的に合わせて提案していくことを大切にしています」と須藤氏は語る。

クリエイティブまで見据えたコンサルティング力が強み

 具体的な好事例として挙げられるのが、銀座4丁目の時計塔で知られ、ハイエンドな商品を取り扱う専門店「和光」との取り組みだ。従来の顧客を大切にしながら次世代に向けてコミュニケーションをデジタル化していくタイミングでサポートに加わった。

「最初に和光さまの全社員にアンケートを実施して、自社の素晴らしいと思うところを聞いたのです。時計のメンテナンスや宝飾品のリフォームなど、昔から続けてこられたことも、今の価値と照らし合わせると非常に新鮮に映ることがあります。社員アンケートと、私たち外部の目線を掛け合わせ、和光さまの魅力を改めてとらえなおしたのです。それをもとに、ブライダル事業のリブランディングから始まり、コーポレートサイトのリニューアルまで、トータルでソリューションを提供させていただきました」(須藤氏)

ハースト婦人画報社が手掛けた「和光」のブライダル事業キービジュアル
ハースト婦人画報社が手掛けた「和光」のブライダル事業キービジュアル

 ハースト婦人画報社の強みは、データ分析を含めたコンサルティングだけにとどまらず、最終的なアウトプットであるクリエイティブまで見据えた提案ができることにもある。

「我々のクリエイティブを通してデジタルコンテンツとして発信した商品が、オンラインストアだけでなくそれに呼応して店舗での反応も良くなるなど、好評をいただいています。自社で戦略までは決められても、その手段のところで迷うこともありますよね。その戦略に沿って、メールやSNSなど、段階的にコミュニケーションを支援し、効果を評価いただいています」(須藤氏)

 データから見えてくるユーザー像とクライアントが考えるユーザー像のギャップは何か、そしてそのギャップを埋めるために何をすればいいのか。メディア企業であるハースト婦人画報社だからこそ、その最適な手段が見えてくるのだろう。

 「たとえば、お客様にはご家族がいるけれども、世代によって店舗の利用率が違っていたとします。その場合、親子で買い物を楽しめるようにするにはどうしたらいいのか、というようなイメージでコンテンツを考える。我々のような第三者が、ニュートラルな視点で俯瞰(ふかん)しながらトータルサポートすることが大切だと思います」と須藤氏。

 こうした取り組みは、商品のプロモーションだけに限らない。企業イメージを上げるという意味でも、ストーリーテリングやコンテンツの重要度は、今後さらに増していくだろう。企業の採用力にも影響してくるに違いない。

 「我々はクライアント企業の価値を上げ、顧客とのエンゲージメントを高めるお手伝いをしたいと考えています。メディア企業ですから、コンテンツを通してユーザーとのエンゲージメントを高めるのは得意分野です。戦略設計の部分から、コンテンツ制作、プロモーションに至るまで幅広く対応できるのが、我々の売りと言えるのではないでしょうか」(山口氏)

広告プランも、温室効果ガス実質ゼロへ 業界をリード

 ハースト婦人画報社はサスティナビリティー活動に対しても積極的に取り組んでいる。外資系のクライアントも多く、グローバル企業は環境問題をはじめとするサスティナビリティー活動への関心が非常に高い。そのためメディアブランドでの宣伝、イベント活動から排出される温室効果ガスを実質ゼロにする広告プランを3年以内に広告主に対し提供することを視野にいれ、さまざまな施策を始めている。

「まずは当社が排出する温室効果ガスの排出量を算定し、当社が発刊する14の全ての定期刊行誌をグリーン電力で印刷や製本する取り組みを始めました。近い将来、クライアント企業の広告活動においてもCO2排出量の開示が求められるようになるでしょう。そうした企業の支援の受け皿となるべく、業界をリードしていきたいと考えています」(山口氏)

 SDGsに関連したイベントを『ELLE(エル)』や『Esquire(エスクァイア)』などの各メディアで主催するなど、読者とも定期的にコミュニケーションを取り、そのニーズを引き出している。

 「若い世代のサスティナビリティーへの意識の高さは、メディア運営している立場として肌身で感じています。ユーザーが求めているものと、企業が発信したいものとの間を取り持ち、コミュニケーションの接点となるようなメディア企業を目指していきたいと考えています」と山口氏は語った。

協力/ハースト婦人画報社

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