なんとなく体がだるい、イライラする、胃腸の調子が悪い……。こうした現代人の多くが抱える「軽度不調」を“食”で改善する道筋が、最新の研究によって見えてきた。2022年12月17日に開催されたセミナー「食を通じた健康寿命の延伸を考える~QOL、生産性を下げる『軽度不調』とは?」から、研究者の方々の講演やパネルトークの一部を紹介。軽度不調とそれを改善する食の役割について考えたい。

協力/SIP「スマートバイオ産業・農業基盤技術」食によるヘルスケア産業創出コンソーシアム(代表:農研機構)

心身の不調が労働生産性の低下を招く!?

 日本の労働生産性はOECD加盟国38カ国中27位(※1)と、国際的に低い。

「その要因として、出勤はしているけれど頭痛や倦怠(けんたい)感、イライラなどの心身の不調によって仕事のパフォーマンスが低下する“プレゼンティーイズム”が近年注目されています。就業者が抱えるさまざまな不調への適切な対処は、本人だけでなく企業にとっても重要な課題の一つといえるでしょう」と、京都府立医科大学大学院 医学研究科生体免疫栄養学講座 教授の内藤裕二さんは話す。

基調講演を行った内藤裕二さん(京都府立医科大学大学院 医学研究科生体免疫栄養学講座 教授)。本セミナーには、約1500人が登録し、会場とウェブで参加視聴した
基調講演を行った内藤裕二さん(京都府立医科大学大学院 医学研究科生体免疫栄養学講座 教授)。本セミナーには、約1500人が登録し、会場とウェブで参加視聴した

 最初は小さな不調でも、放っておけば悪化する可能性もある。

「日本人の平均寿命は伸びていますが、一方で健康寿命との差は開いたままです。健康に長生きするためにも、病気になる前の段階で防いだり、不調を改善したりする対策が必要です」と話すのは、京都大学大学院医学研究科 特命教授の稲垣暢也さん。

ビデオメッセージを寄せた稲垣暢也さん(公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院 理事長、京都大学名誉教授/京都大学大学院医学研究科 特命教授)
ビデオメッセージを寄せた稲垣暢也さん(公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院 理事長、京都大学名誉教授/京都大学大学院医学研究科 特命教授)

健康と未病の間にある「軽度不調」と栄養の関係

 いわゆる“未病”は、血液検査などの値に異常が見られるが、発病していない状態を指す。一方、血液検査などの値は正常な範囲であるにもかかわらず、不調を感じる状態もある。

「こうした健康と未病の間の状態を“軽度不調”と定義しました」と話すのは、農研機構 食品研究部門エグゼクティブリサーチャーの山本(前田)万里さん。科学的根拠による軽度不調の“見える化”と、改善に向けた取り組みが、山本さんらの研究コンソーシアム(SIP「スマートバイオ産業・農業基盤技術:食によるヘルスケア産業創出コンソーシアム」)で進められている。

会場ではパネルトークも開催された。写真右から、西平 順さん(北海道情報大学 学長)、内藤裕二さん(京都府立医科大学大学院 医学研究科生体免疫栄養学講座 教授)、山本(前田)万里さん(農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 エグゼクティブリサーチャー 一般社団法人セルフケアフード協議会 代表理事)、細川モモさん(一般社団法人ラブテリ代表理事 予防医療コンサルタント 2011~2015 ミス・ユニバース・ジャパン オフィシャルトレーナー)
会場ではパネルトークも開催された。写真右から、西平 順さん(北海道情報大学 学長)、内藤裕二さん(京都府立医科大学大学院 医学研究科生体免疫栄養学講座 教授)、山本(前田)万里さん(農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 エグゼクティブリサーチャー 一般社団法人セルフケアフード協議会 代表理事)、細川モモさん(一般社団法人ラブテリ代表理事 予防医療コンサルタント 2011~2015 ミス・ユニバース・ジャパン オフィシャルトレーナー)

 「『すこやか健康調査』として健常な日本人男女1000人を対象に、栄養調査や血液・尿、腸内細菌、遺伝子などのデータを収集し、データ分析やデータベースの構築などを行っています。

 被験者609人分の食物摂取頻度調査(※2)では、軽度不調の一つである睡眠不足やストレスを感じている人は、ビタミンB、ビタミンD、ビオチンの摂取量が少なく、炭水化物や肉類の摂取量が増える傾向があることがわかりました。一方、睡眠がよくとれていて、活力がある人は野菜の摂取量が多いこともわかっています」と、北海道情報大学 学長の西平 順さんは説明する。

 食品や栄養の摂取状況は年齢や性別によっても異なる。

男女の栄養状態の違いについて解説する細川モモさん(写真左)、軽度不調に関する研究コンソーシアムをけん引する山本(前田)万里さん(同右)
男女の栄養状態の違いについて解説する細川モモさん(写真左)、軽度不調に関する研究コンソーシアムをけん引する山本(前田)万里さん(同右)

「日本では男性はメタボ、女性はやせすぎのリスクが高く、特に20~40代の女性は摂取エネルギー量も栄養も全体的に不足していることが、7000人を対象に実施した私たちの調査でわかっています。中でも食物繊維や葉酸、鉄などのミネラル類、たんぱく質の慢性的な不足が体調に及ぼす影響は大きいと懸念しています」と、一般社団法人ラブテリ代表理事の細川モモさん。

自分の体に適した食の選択で軽度不調の緩和につなげる

 軽度不調の予防・改善のカギを握るのは“食”。神奈川県立保健福祉大学 学長の中村丁次さんは「1日3食、栄養バランスのとれた食事をとるのが理想的ですが、難しい場合は市販の食品などを活用するのも良いでしょう」

ビデオメッセージを寄せた中村丁次さん(日本栄養士会 代表理事会長 神奈川県立保健福祉大学 学長)
ビデオメッセージを寄せた中村丁次さん(日本栄養士会 代表理事会長 神奈川県立保健福祉大学 学長)

 「自分の体調や健康診断の結果、食生活などを考え、健康の維持や増進、病気予防のために適した食品を選択することが大切です」とアドバイスする。

 食の新たな選択肢の一つとして期待されるのが、農研機構と島津製作所が設立した「一般社団法人セルフケアフード協議会」が展開を進める統合健康栄養食品「ジープラス(G-Plus)食品」(下のコラム参照)。単体の成分ではなく、複数の成分をバランスよく摂取することで軽度不調の改善を目指す。2023年度に『ジープラス(G-Plus)』マークを表示して販売できるよう、開発を進めている。

 また、同協議会ホームページでは軽度不調の緩和に期待ができる成分をしっかりとれるよう考えられたレシピも公開されている。栄養バランスのとれた食事とはどういうものか、ぜひ参考にしたい。

(※1)公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2022」
(※2)FFQ(食物摂取頻度質問票)を用いた調査
食からセルフケアを実現する「G-Plus食品」誕生!
セルフケアフード協議会独自の認証スキームによる民間認証食品。これまでの研究でわかってきた、軽度不調と深く関係する栄養成分(ビタミンB6、ビオチン、パントテン酸、葉酸、β-クリプトキサンチン、カリウム、マグネシウム、不溶性食物繊維等)のうち、3成分以上で必要量を含有する、会員企業の製品が対象。

同協議会の「統合健康栄養食品委員会」が定義した基準に従い、第三者機関が認証を行う。認証された製品には「ジープラス(G-Plus)マーク」が表示される。

保健効能成分や機能性関与成分により、特定の症状に対する効能や機能を持つ「特定保健用食品(トクホ)」や「機能性表示食品」とは異なり、複数の成分で栄養バランスを整え、軽度不調を改善し、自然と健康になっていくことを目指している。

■問い合わせ
SIP「スマートバイオ産業・農業基盤技術」食によるヘルスケア産業創出コンソーシアム(代表:農研機構)
事務局(SIP2-2B-Healthcare@ml.affrc.go.jp)

セルフケアフード協議会ではレシピも公開中
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