5Gの普及とともにモバイル通信はさらに高速化し、人々はあらゆるデバイスからさまざまな情報にアクセス可能になる。そうした時代に企業がパーソナライズ化された良質な顧客体験を提供し続けるための課題とは何か? 2019年12月5日に開催された電通デジタル、ハートコア、電通国際情報サービス、トレジャーデータの共催セミナー「2020年に迎えるカスタマーエクスペリエンスのあり方の変化と、その対策とは?」の内容から探った。

協力:電通デジタル

事業のサービス化で顧客との関係性を継続的に保つ

 セミナー第1部の前半では、電通デジタル デジタルトランスフォーメーション部門 サービスプロセスデザイン事業部長の魚住高志氏が「カスタマーサクセス志向マーケティング -ジャーニーオーケストレーションによる顧客体験の最適化-」と題する講演を行った。

 魚住氏はまず、今後あらゆる製造業に起こり得る危機として「サブスクリプション型ビジネスなどを中心とした提供者(サービサー)に顧客接点を奪われ、長年培ってきたブランドを喪失する可能性があります」と問題提起し、「大手自動車メーカーが自動車製造販売からモビリティカンパニーへ、大手通信キャリアが移動体通信からライフデザインへと事業転換を進めているように、すべての製造業にとって『事業のサービス化』は避けて通れない道になるでしょう」と指摘した。

「すべての製造業にとって『事業のサービス化』は避けて通れない道にな る」と魚住氏。それに対応していくためには、「カスタマーサクセスを促す マーケティングが不可欠だ」と語った
「すべての製造業にとって『事業のサービス化』は避けて通れない道にな る」と魚住氏。それに対応していくためには、「カスタマーサクセスを促す マーケティングが不可欠だ」と語った

 魚住氏は「事業のサービス化」のために必要な変革として、「買ってもらうためのマーケティングよりも、買ったものをよりよく使ってもらい、カスタマーサクセスを促すマーケティングが求められています。そのためには、社内だけでなく、外部に蓄積されている顧客の行動データも積極的に収集・分析しながら、次の購買に結び付きそうな行動の変化をリアルタイムに察知し、タイムリーに施策を打っていかなければなりません」と語った。

 変化を察知するための仕掛けとして、魚住氏は「スマートフォンアプリなど各種サービス・コンテンツの提供によって、顧客と継続的かつ、緩いつながり(関係性)を保っておくこと」を提案。コンテンツマーケティングサイトで100万人規模の会員を獲得し、生活コンテンツの提供で寄り添いながらタイムリーなアプローチを試みている自動車メーカーの例を挙げ、「つながっている顧客の中から、承諾を得ている外部データを含む行動データに変化の兆しが表れた顧客にタイミングよくメールなどのアプローチをかけることで、反応率や成約率は大きく高まります。逆に、変化の有無にかかわらず、すべての顧客に大量のメールを送ってしまうと、離反を招いてしまう恐れもあります。あくまでも、変化に応じた適切なアプローチが重要なのです」とアドバイスした。

「事業のサービス化」が進むと、「商品を買った後、いかによりよく活用してもらうか」が重要となる。そのためには、顧客の生活上の変化を察知するデータを活用したカスタマーサクセス志向のマーケティングが必須だ
「事業のサービス化」が進むと、「商品を買った後、いかによりよく活用してもらうか」が重要となる。そのためには、顧客の生活上の変化を察知するデータを活用したカスタマーサクセス志向のマーケティングが必須だ

 さらに魚住氏は、「マーケティングの精度を上げるためには、変化を察知するために必要なデータがどれだけ多く集められ、タイムリーに有効な施策が打てる仕組みを作れるかが重要なポイントとなります」と指摘。

 また、カスタマーサクセス志向マーケティングへの変革を推進するためには、全社で明確なKPIやKGIを共有し、その実現のためのプロセスをしっかり組み上げること、必要な機能は外部からもオープンに調達すること、試行の繰り返しによって「小さな成功」を積み上げていくことなどが有効であると語った。

“指揮者”の概念でカスタマーサクセスを実現

 セミナー第1部の後半には、電通国際情報サービス(ISID)コミュニケーションIT事業部 デジタルマーケティンググループ マネージャーの宗宮大輔氏が登壇。「ジャーニーオーケストレーションによる新たな顧客体験の実現と最適化 -カスタマージャーニー実践のネクストステップ-」と題し、前半に魚住氏が語ったカスタマーサクセス志向マーケティングを実践するための仕組みやテクノロジーのあり方について語った。

 宗宮氏は、カスタマーサクセスを実現するうえでの仕組み上の課題として、「理想的なカスタマージャーニーマップを描くことはできるが、実際のマーケティング施策の実行やコントロールに多くのマーケターが悩まされているようです」と指摘。

「80%の顧客は、企業が提供するエクスペリエンスを、その企業の製品・サービスと同じくらい重要だと考えている」と宗宮氏。カスタマーサクセスを促す取り組みの重要性も、ますます高まっていると言える
「80%の顧客は、企業が提供するエクスペリエンスを、その企業の製品・サービスと同じくらい重要だと考えている」と宗宮氏。カスタマーサクセスを促す取り組みの重要性も、ますます高まっていると言える

 その原因として、顧客データを収集・分析するデータマネジメント領域においては、(1)自社内の必要なデータが散在し、十分に活用されていない、(2)外部データが柔軟に取り込めていない、(3)IoT(モノのインターネット)によってさまざまな機器から新たなデータが収集されているが活用に至っていない、などが挙げられる。

 また、顧客データを基にメールやWebなどで情報発信するコミュニケーションマネジメント領域においては、(1)多岐にわたるチャネルを横断した施策が打てていない、(2)チャネルごとの機能の変化や深化に対応しきれていない、(3)最適なカスタマージャーニーが選択されず、機が熟していない顧客にアプローチをかけるなど逆効果をもたらす施策が打たれている、などの問題だと宗宮氏は話す。

 そのうえで、「これらの問題を解決するには、データマネジメント領域とコミュニケーションマネジメント領域の中間に『ジャーニーオーケストレーション』という概念の仕組みを取り入れ、文字通り“指揮者”の役割を担わせることで、各種データの統合に加え、チャネルごとの顧客行動をリアルタイムに収集・分析し、タイムリーな意思決定と施策の自動実行を支援させることが有効です」と語る。ただし、「残念ながら、現時点では『ジャーニーオーケストレーション』を実現するプロダクトが国内では存在せず、複数のプロダクトを組み合わせて仕組み化することが求められています」と締めくくった。

データマネジメント領域とコミュニケーションマネジメント領域の中間に「ジャーニーオーケストレーション」の仕組みを取り入れれば、顧客の変化をリアルタイムに感知し、タイムリーに施策を打てるようになる
データマネジメント領域とコミュニケーションマネジメント領域の中間に「ジャーニーオーケストレーション」の仕組みを取り入れれば、顧客の変化をリアルタイムに感知し、タイムリーに施策を打てるようになる

パーソナライズ基盤を固め、カスタマー志向マーケティングを実践

 セミナー第2部では、第1部で行われたカスタマーサクセス志向マーケティングに関する魚住氏、宗宮氏の講演を受け、「2020年に向けて備えるべきパーソナライズ基盤とは?」と題するトークセッションが行われた。宗宮氏が提案した「ジャーニーオーケストレーション」のうち、データマネジメント領域を支援するCDP(カスタマーデータプラットフォーム)の開発企業であるトレジャーデータ マーケティング担当ディレクターの堀内健后氏がファシリテーターを務め、コミュニケーションマネジメント領域を支援するCMS(コンテンツマネジメントシステム)を開発するハートコア 代表取締役社長 兼 CEOの神野純孝氏、両社のユーザー企業である中古車販売大手IDOMデジタルマーケティングセクション 221616ユニットの村田創氏とトークを繰り広げた。

堀内:まずは、CDP、CMSのユーザー企業としてカスタマーサクセス志向マーケティングを実践しているIDOMの村田さんに、事業の概要と簡単な自己紹介をお願いします。

村田:当社は「ガリバー」のブランドで中古車の販売・買取店を全国に展開しているほか、自動車サブスクリプションサービスの「NOREL」、個人間自動車売買サービスの「ガリバーフリマ」、個人間カーシェアアプリの「GO2GO」など、自動車に関する多彩なサービスを提供しています。私自身は、オウンド集客サイトの責任者として、主にWebサイトの運用などに携わっています。

堀内:IDOMは、ハートコアのCMSをパーソナライズされたコンテンツ配信に活用されているそうですね。どんな点が魅力なのでしょうか。

村田:「HeartCore CXM」を活用して4年、そしてこの秋に「HeartCore CXM Cloud」を導入しましたが、コンテンツが非常に作りやすく、パーソナライズされた情報を、大量かつタイムリーに配信できるのが大きな魅力の一つですね。使いやすさや、コンテンツの作りやすさは、カスタマー志向マーケティングを実践するうえで欠かせない基本条件だと思います。

神野:ありがとうございます。弊社の「HeartCore CXM Cloud」は、使いやすさを徹底追求しているだけでなく、トレジャーデータのCDPである「Arm Treasure Data CDP」等、お客様が既に構築をされているCDPと連携し、収集・分析したデータを基に、最適にパーソナライズされたコンテンツをタイムリーに配信できる機能を備えています。しかもメールやWebのみならず、SNSをはじめとするあらゆるメディアや、スマートフォン、スマートウオッチ、情報家電、店舗の情報端末など、パソコン以外のあらゆる端末に配信できる、今やCMSのスタンダードとなりつつあるヘッドレス機能を備えた「HeartCore CMS」を中核に開発されたパーソナライズプラットフォームであることが大きな特徴です。

本格的な「5G時代」が到来する前に準備を

堀内:当社が提供する「Arm Treasure Data CDP」は、企業が保有するさまざまな自社データを収集・分析し、外部データと連携したり、その結果を各種施策ツールにシームレスに連携する機能を持っています。当社の「Arm Treasure Data CDP」とハートコアの「HeartCore CXM Cloud」を組み合わせることで、先ほど宗宮さんがおっしゃっていた「ジャーニーオーケストレーション」が実現するわけです。

 また、当社は2018年8月に半導体設計やIoTプラットフォームを手がける英国Arm社のグループ会社となり、パソコンやスマートフォンだけでなく、さまざまなIoT機器からデータを取り込む技術に関する大きなアドバンテージを得ました。今後、5Gの普及とともにIoT経由のデータ収集はますます活発化するはずですが、より幅広いチャネルからデータが集まることによって、パーソナライズされたマーケティングの精度もさらに上がっていくはずです。

神野:私は既に5Gサービスが始まった米国に住んでいますが、技術的な課題があるようで、サービス展開は当初の予定よりもかなり遅れています。5Gが本格的に普及するまでには、まだ時間がかかりそうですね。

左からハートコアの神野氏、IDOMの村田氏、トレジャーデータの堀内氏。「ジャーニーオーケストレーション」に関する3人のトークセッションは終始、熱気に満ちあふれていた
左からハートコアの神野氏、IDOMの村田氏、トレジャーデータの堀内氏。「ジャーニーオーケストレーション」に関する3人のトークセッションは終始、熱気に満ちあふれていた

堀内:見方を変えれば、それはチャンスと言えるかもしれません。まだ変革のための時間的猶予があるということですからね。今のうちに「ジャーニーオーケストレーション」のような仕組みや基盤を整え、5G時代のマーケティングの変化に備えておきたいものです。

 ところで、IDOMは「ジャーニーオーケストレーション」によって、どのようなマーケティングの変革を目指しておられるのですか。

村田:チャット履歴などの自社データや、パーソナライズを軸とした顧客ロイヤルティの向上やデジタルによるビジネス変革を可能とするプラットフォーム「Arm Treasure Data CDP」が収集する外部データをリアルタイムで巧みに組み合わせながら、顧客がそのとき、本当に求めている自動車が、タイムリーにWebのトップページの最上段に表示されるような仕組みを作りたいですね。また、ヘッドレスである「HeartCore CXM Cloud」の機能を活用して、そうした情報を実店舗の端末や営業担当者のスマートウオッチにも表示し、クロージングに役立ててもらえるような仕組みも考えています。

堀内:より多くのデータ、多様なチャネルが活用できる基盤を整えることが、パーソナライズされたマーケティングを実践するうえでのカギを握るわけですね。本日はありがとうございました。

 セミナー全体を通じて、5G時代にパーソナライズされたマーケティングを実践するには、「ジャーニーオーケストレーション」の概念に沿ったデータ活用とコンテンツ運用の基盤づくりが欠かせないということが明らかになった。2020年代に向けていち早く変革に取り組む企業だけが、サブスクリプション型ビジネスへの転換に柔軟に対応しながら生き残っていけるのだろう。

協力:電通デジタル