超高齢化社会に挑むAMED

 岩本氏は、自身が所属する日本医療研究開発機構(AMED)の取り組みも紹介した。AMEDは、医学研究と開発を目的とした資金提供機関(ファンディング・エージェンシー)として2015年に設立された機関。内閣官房・健康医療戦略推進本部に直属し、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の関連予算がAMEDに集約される。AMEDのミッションは、「医療分野の成果を一刻も早く実用化し、患者さんやご家族に届けること」である。

 AMEDは以下の9つの統合プロジェクトを持つ。(1)オールジャパンでの医薬品創出プロジェクト、(2)オールジャパンでの医療機器開発プロジェクト、(3)革新的医療技術創出拠点プロジェクト、(4)再生医療実現プロジェクト、(5)疾病克服に向けたゲノム医療実現化プロジェクト、(6)ジャパン・キャンサーリサーチ・プロジェクト、(7)脳とこころの健康大国実現プロジェクト、(8)新興・再興感染症制御プロジェクト、(9)難病克服プロジェクト――の9つである。

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AMEDの9プロジェクト

 日本は、出生数が減少する一方、65歳以上の人口が着実に増加している(2018年で28.1%)超高齢化社会である。現在約500万人の認知症の患者が生活しており、2050年までに700万人に増加すると推定されている。超高齢化社会への対応が、AMEDの重要な使命である。

 今回のシンポジウムにおいて、岩本氏が強調したのは3点。まず第1に、AMEDの研究基盤としてのゲノム研究とバイオバンク、第2に病院連携に基づいた希少未診断疾患研究イニシアティブ(IRUD)、第3に認知症の診断や治療開発の試みである。

独自のプロジェクト管理手法で5割以上の成功率を実現

 創薬、機器開発をはじめとして、膨大な開発費がかかると言われる医療の世界では、開発プロジェクトをどれだけ効率化して成功に導くことができるかどうかは世界的なテーマである。このテーマに挑んでいるのが、スタンフォード大学医学部のSPARKでディレクターを務めるダリア・モックリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen)医師だ。2006年にSPARK を創設し、現在も所長を務めている。

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スタンフォード大学医学部 スタンフォード大学SPARK ディレクターのダリア・モックリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen) 医師

 SPARKは、アカデミアにおける医学を効率的、効果的に継承していくためのプログラムである。ローゼン医師からは、独自のプロジェクト管理手法を採用し、実に51%という成功率を実現したとの報告があった。これは産業界の5~10%と比べて驚異的に高い水準である。

 産業界の専門家を巻き込む近年「トランスレーショナル医療」、つまり研究室での基礎研究成果を臨床に応用するためのプロセスが注目を集めている。SPARKはそのために、研究者を育成し、医療、医薬品開発、臨床試験、知的財産法、補助金調達、プロジェクト管理などの産業界の専門家をアドバイザーとして迎えるという独自の方法論を編み出し、現在はそれを世界中の大学と共有するまでになっている。

 具体的にSPARKが研究を支援するために教え、提供しているのは、以下のようなことだ。

(1)最終的に目標とする製品を設定した上で研究を進める
(2)マイルストーン達成ごとに研究資金を与える
(3)プロジェクト管理のスキルを教える
(4)製品開発に焦点を当てた教育を提供する
(5)産業界のベテランによるメンターシップを提供する
(6)協力者、コントラクター、関連会社、投資家の紹介
(7)アントレプレナーシップの教育

 SPARKのようなプログラムでは、活動を効果的に進めるために成果をモニターすることが重要になる。モックリー=ローゼン氏によると、SPARKでは「プロジェクトが臨床試験に入ったか、あるいは既存の医薬品会社やスタートアップにIPがライセンスされた」ことを成功として位置付けている。

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プロジェクトの成功率は51%で、106件の研究プロジェクトが次の段階へ

 このSPARK の方法論は世界中の大学に広められ、現在20カ国で同様のプログラムが進んでいる。日本では、京都大学、東京大学、筑波大学、大阪大学、山梨大学などにSPARKプログラムが設置されている。台湾でも、現在6大学で228 プロジェクトが進行中である。

 今回のシンポジウムはスタンフォード大学医学部内の組織であるStanford Laboratory for Drug, Device Development & Regulatory Science (SLDDDRS)が事務局を務めて主催した。SLDDDRSはスタンフォード創薬医療機器開発ラボとも呼ばれ、2015年4月に設立された。母体は238人の教授を抱える麻酔科であり、初代所長を同科チェアマンであるロナルド・G・パール教授、共同所長を西村俊彦氏が務めている。

スタンフォード大学 医学部の西村俊彦氏。Stanford Laboratory for Drug, Device Development & Regulatory Science(SLDDDRS)の共同所長を務める
スタンフォード大学 医学部の西村俊彦氏。Stanford Laboratory for Drug, Device Development & Regulatory Science(SLDDDRS)の共同所長を務める
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 SLDDDRSのミッションについて、西村氏は「革新的な創薬や医療機器開発の最適化だ。法令対応が必要なレギュラトリーサイエンスによって出口を実現するための戦略を推進している。そのために、独自・共同研究、教育と訓練、外部機関や企業とのオープンイノベーションに取り組んでいる」と説明する。

 推進に必要なスタンフォード学内の他の組織や外部団体や企業との交渉や連携もSLDDDRSの役割である。「スタンフォード大学医学部麻酔科を中心に、医学部内の他科研究室や医学部以外のスタンフォード6学部の最先端の研究と技術を探索し最適な組み合わせを構築し連携している」(西村氏)。

 西村氏は「今回のシンポジウムでも多くの団体や企業、学生などの皆様に参加いただき、新たな貴重なネットワークが構築された。関係者の皆様に感謝したい」と述べた。

 シンポジウムは基本的にスタンフォード大学と日本の神奈川県で年間1回ずつ開催している。2020年11月には、スタンフォード大学で第5回のシンポジウムを開催する予定である。

協力:スタンフォード大学 SLDDDRS