2019年、ファッション業界やビジネス界の話題をさらったワークマン。新規顧客層を掴みヒットした背景には、インフルエンサーやSNSの活用があったという。ワークマンのマーケティングを担う土屋哲雄氏とインフルエンサーマーケティングのリーディング企業LIDDELLの代表を務める福田晃一氏の対談から、消費者とのコミュニケーションで変わっていくマーケティングの展望を読み解く。

協力:LIDDELL

2019年の話題をさらったワークマン

 日経トレンディが選ぶ「2019年ヒット商品ベスト30」(日経トレンディ2019年12月号)で1位に輝いたワークマン。新業態であるワークマンプラスは開始から1年強で100店舗を超え、アイテムをオシャレに着こなすワークマン女子という言葉も誕生し、2019年4~9月期の単独営業利益は前年同期比5割増という好決算にもつながった。

 この大躍進を支えたのが、独自のマーケティング戦略だ。長年、質の高い作業服で職人をはじめとしたプロフェッショナルから絶大な信頼を得ていたワークマンは、なぜ新しい客層を取り込むことができたのだろうか。

土屋氏:お陰様で、2019年はワークマンにとって躍進の年になりました。さまざまなことに挑戦してまいりましたが、今年は特に3つの取り組みに力を入れました。

 1つ目は、ワークマン製品を愛用してくださっている方々とコラボし、彼らの意見を取り入れた製品を開発する「製品開発アンバサダー制度」。2つ目は、ランウェイに雨や雪、暴風を再現した演出やアスレチック設備を活用したショーを開催し、防水、防雪、防風などの機能性の高さと動きやすさを実演した「過酷ファッションショー」。そして3つ目は、店内に設置したQRコード付きのPOPで製品を実際に使っているアンバサダーのサイトに誘導し、製品評価で訴求を図る「ネット評価連携ショップ」です。

福田氏:「過酷ファッションショー」は、私がこれまで見たなかで、最もユニークなファッションショーだと思いました。インフルエンサーが思わず紹介したくなる工夫に満ちていましたね。

 一般的な企業は、インフルエンサーをやっとメディアとして捉えられるようになった段階であり、自社製品を紹介してもらう広告媒体として付き合っていることが多い印象です。私たちは常々、インフルエンサーとの関係を大切に、PRや宣伝だけでなく、製品開発や接客にまで生かすべきだと伝え続けてきました。それは、広告出稿先として見るのではなく、パートナーとして付き合うということ。「製品開発アンバサダー制度」や「ネット評価連携ショップ」は、まさにそれを実行されていると思います。

ワークマン 専務取締役 開発本部 情報システム部 ロジスティクス部担当 土屋哲雄氏
ワークマン 専務取締役 開発本部 情報システム部 ロジスティクス部担当 土屋哲雄氏

新規ファンが伴走してくれたことが力に

福田氏:私の知る限り、ワークマンはSNSやインフルエンサーを最も上手く活用されている企業だと思います。理論的に分析されているのだと思うのですが、それを感じさせないほどナチュラルでスムーズ。以前、土屋さんが講演会で「商品をPRするよりも、インフルエンサーをPRすると売れる」とおっしゃっているのをうかがって、衝撃を受けたのを覚えています。

土屋氏:実は、私は福田さんの著書『影響力を数値化 ヒットを生み出す 共感マーケティングのすすめ』(日経BP社、2018年)でSNSマーケティングを勉強させてもらいました。この1~2年で最も影響を受けた本ですね。社員にも薦めています。

福田氏:ありがとうございます。社員のみなさんに薦めていただいているのは嬉しいですね。最終的には、企業もユーザーもより多くの“共感”を獲得することがひとつの到達点ですが、企業の担当者がSNSで良いインフルエンサーを見つけても、それは個人の好みや意見によるところも大きく、属人的になりがちです。そこで私たちは、経験則や個人の裁量に頼らない共通の指標「共感指数」を開発しました。影響力を可視化することで、SNSにおけるKPIとして示すことができるし、自分たちの製品に合った影響力を持つインフルエンサーにアプローチすることもできます。

土屋氏:ワークマンは39年間、作業服を作り続けてきました。プロユースの品質には自信を持っています。しかし、一般のユーザーが何を求めているのかは、正直分からない。だからこそ、インフルエンサーやお客様に教えを乞うという姿勢なのです。

 例えば、もともとは作業用レインシューズを購入したバイク乗りの方々からの、「足元の裾を絞れれば、水が入らず、よりいい」といった意見から製品を改善してライダーも満足するアウトドアブランド「AEGIS(イージス)」が2016年に生まれました。「高速道路で走行しても水が入らないようにしてほしい」など、常にユーザーの声を受けてひとつひとつ改善を続けた2017年モデルは、ブランドが誕生した2016年モデルの倍ほど売れました。お客様に教えてもらったとおりにしたら、売れたんです。

 ワークマン躍進の鍵となった新規ファン開拓と新市場への進出は、ユーザーの声と真摯に向き合う姿勢から始まったようだ。次章では、このムーブメントを加速させるため、ワークマンがどのような戦略を採ったのかに迫る。

LIDDELL 代表取締役CEO 福田晃一氏
LIDDELL 代表取締役CEO 福田晃一氏

サステナブルな生産・販売体制

 スポーツウェアやアウドドアウェアを普段着っぽく着こなすコーディネート、「アスレチック」と「レジャー」を組み合わせた造語「アスレジャー」が定着して久しい。日本のアパレル市場において、低価格&高機能のウェアブランドとして切り込んだのがワークマンプラスだ。新市場でなぜ一人勝ちができるのか。そこには、ワークマンが39年間プロユースにこだわり、培った強みがあった。

土屋氏:ワークマンの強みは、10年という長期間に渡りその製品を販売できること。そもそも作業着は、流行り廃りがない。昨年のモデルだからといって、値引きをする必要もなく、売れるまで在庫として置いておけばいいのです。

 ワークマンプラスも、基本的な考え方は同じ。我々が製品開発を行うときの需要予測は少し変わっていて、商品部、営業部、ロジスティクスのそれぞれが予測を立てます。それを突き合わせて、議論して製造数を決めます。もし、そこで作りすぎても、10年売る覚悟があるから、別に困らない。

福田氏:アパレル業界のトレンドに「サステナビリティ(持続可能性)」があります。アパレルメーカーは、エコ素材を使用するなど、さまざまな方法で取り組んでいます。しかし、10年間売り続けるというのは、まさにサステナブルですね。サステナビリティは経営における重要課題として、各社とも戦略的に取り組んでいますが、ワークマンの場合、最初からサステナブルであったということだと思います。

土屋氏:今までサステナビリティという表現はしていませんでした。売りとしては「10年保証」。職人さんは気に入った作業着を長く使ってくれますからね。製造をやめると申し訳ない。その思想で、ワークマンプラスの製品も作っています。

福田氏:サステナビリティだけでなく、アフターデジタルの感覚も今の時代に合っていると感じました。オンラインのなかにオフラインが、オフラインのなかにオンラインが含まれている時代。ワークマンオンラインストアが店舗受け取りにも力を入れているのは、まさにそれです。

土屋氏:ワークマンもワークマンプラスも、基本的にはネットで宣伝して店舗で買っていただく。店舗に足を運んでもらえれば、職人さんなら9割が常連に、一般客なら7割が年4回はリピートしてくれる固定客になるからです。1回につき3000円の買い物を年に4回、30年続けてもらえれば、LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)に換算すると非常に効率が良い。

 2025年に向けて、ワークマンとワークマンプラスは、現状の850店舗から1000店舗を目指します。これによって、店舗在庫を活用した店舗通販、要するにオーダーバイイングのような予約制度も充実させる考えです。

ソーシャルリレーションマーケティングを当たり前に

福田氏:ワークマンが凄いところは、リアルとデジタル、オンラインとオフラインという垣根を作らず、それが融合するビジネスを当たり前のようにやっていること。リアルとデジタルの垣根なく、顧客との関係構築を大事にしているのでしょう。

 今、私たちLIDDELLは「インフルエンサーマーケティング」という表現を使っていますが、これからは「ソーシャルリレーションマーケティング」という表現のほうが正しくなるのかもしれません。ワークマンの取り組みを見て、ソーシャルメディアやリアルでの関係構築こそがマーケティングにとって重要になると感じました。

土屋氏:確かに、お客様の意見を取り入れ続けています。そのなかで、熱心なお客様との関係が生まれ、製品開発に協力してもらったり、実際に使った人ならではの製品紹介を書いてもらえるようになりました。

福田氏:まさに、究極のマーケットイン発想ですね。究極というのは、本当にマーケットにどっぷりと自ら入っていっているという意味です。顧客に教えを乞い、そこから自社製品の新しい価値を見つけて、プロユースで培った技術でプロダクトアウトする。従来の顧客第一主義とも違い、顧客から真摯に学んでいるからできることです。インフルエンサーマーケティングやSNSマーケティングの完璧な状態と言ってもいいでしょう。

 成熟市場と思われているアパレル業界で、驚異的な躍進を見せたワークマン。そのヒントは、インフルエンサーやSNSを活用し、顧客と真摯に向き合い関係構築を続け、オンラインとオフラインの両方で当たり前のようにソーシャルリレーションマーケティングを進めてきたことにありそうだ。後編では、さらなる成長に向けたワークマンの戦略について迫る。


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