革新的かつ高性能なEVを武器とする自動車メーカー「テスラ」の業界内での存在感は大きく、世界的にも「モデル3」の発売により販売シェアは拡大を続けている。その一方で、日本における自動車ブランドとしてはニッチな高級EVメーカーとして認知されている。そこでテスラ・ジャパンは、ユーザー層の拡大を狙ったエントリーモデル「モデル3」の投入をきっかけに、新たなマーケティング・PR活動に乗り出した。そのサポート役となるのが、WEBを中心としたPRやマーケティングコミュニケーション活動を得意とする「PR TIMES」である。この両者の協力関係が生んだPR効果について、担当者に伺った。
協力:PR TIMES
企業ミッションを正しく伝えたいテスラ
テスラは、2003年に創業した電気自動車の製造販売を主とするベンチャー企業である。創業者の1人で、現CEOであるイーロン・マスクが中心となり、固定概念にとらわれない革新的なEVを世に送り出してきた。日本でも2010年に法人が設立され、EVスポーツカーの「ロードスター」を皮切りに、セダンの「モデルS」、SUVの「モデルX」と、新型モデルを展開してきた。どれも高価格であったが、その先進的かつ優れた環境性能を支持する感度の高い日本の富裕層に選ばれてきた。
次のステップとなったのは、2018年11月に日本で初めて実車が発表されたセダンの「モデル3」の存在だ。モデル3は、テスラの中ではコンパクトなため、日本でも扱いやすいサイズに入る。さらに価格も500万円台からと、まさにテスラエントリーと呼ぶべきモデル。このため、国産高級車や輸入車中型セダンのユーザーを含めたより多くの人がターゲットとなる。
そこでテスラ・ジャパンでは、より多くの日本の消費者に、テスラのプロダクトだけでなく、企業ミッションやブランドなども正しく理解してもらう必要性を感じたという。しかしながら、テスラには、TVCMや雑誌広告などコストをかけた宣伝は一切行わないというポリシーがある。これは利益を製品開発や充電インフラ整備に投資することで、より良い製品の提供と電気自動車の普及を目指す合理的かつユーザー優先の企業方針なのだ。
しかしながら、シリコンバレー発のブランド発信のみでは、一部の感度の高いユーザーにしかリーチできない。そのため専門家の協力は得たい。そこでテスラ・ジャパンは、自動車を得意とする一般的なPR会社ではなく、このようなテスラの企業スタンスを理解できるPR会社と手を組む必要性があった。そこで白羽の矢が立ったのが、「PR TIMES」だったのだ。
テスラ・ジャパンの前田氏は、「米国では、イーロン・マスクがTwitterなどでテスラの情報発信を積極的に行っているが、これが通用するのは英語を理解できる人たちのみ。日本での情報源となるメディアが取り上げるのは、米メディアが話題としたニュースだけ。つまり一度フィルターにかけられた情報であり、その多くはテスラのブランドを正しく伝えきれていない。よく誤解されるが、テスラは「持続可能なエネルギー社会へ世界の移行を加速する」というミッションを持った真面目な企業であり、将来的な自動運転技術の実現など製品開発にもしっかり取り組んでいる。日本でも製品だけでなく、その企業姿勢を正しく伝えていくことが重要だと考えている」と話す。


では、PR TIMESは、テスラの想いをどのようにPRへと落とし込んでいったのだろうか。PR TIMESでテスラを担当する小林氏は、「オーソドックスな手法だが、メディア向けのイベントが基本。メディアを招待し、露出を図るだけでなく、テスラとメディアを結びつける役割まで担う。これにより自動車メディアだけでなく、ITやガジェット、ライフスタイルまで幅広い分野のメディアと接点を作ることができた。このようなシンプルな方法が効果的と考えるのは、それだけプロダクトに魅力があるから。現時点でテスラは、プロダクトや企業ミッションなどについて理解してもらうことが第一目的。だから、例えばタレントを起用して華やかなイベントにするのではなく、テスラという企業や事業内容についてのプレゼン時間や試乗の時間、専門家のトークなどをしっかりと確保したイベントにして、シンプルだが意図が正しくメディアに伝わる内容を意識している」と説明する。
PR TIMESならではの情報収集、そして発信
単にシンプルにイベント中心のPR展開と聞くと、他のPR会社と変わらないようにも思える。それでは、PR TIMESの強みはどこにあるのだろうか。
小林氏によれば、それはWEB展開される「PR TIMES」というプラットフォームにあるという。PR TIMESは、様々な企業のプレスリリースが掲載されるWEBサイトで、企業の広報担当者やメディアの人間なら、一度は目にしたことがあるはずだ。ここには、年間10万本を超えるプレスリリースが集まる。
これだけの情報を保有しているのは、PR TIMESだけというが、真の強みは他にある。PR TIMESでは、そのプレスリリースを分析することで、リリースの時期や傾向、よく読まれる内容、さらにはどの部分が特に読まれているかなど、まさにプレスリリースをビッグデータ化して保有しているのだ。
さらに独自にWEBクリッピングまで行うので、メディアがどのタイミングでどんな記事をアップしているのかも、遡って調べることができる。こうしたデータを基に、ベストなタイミングでの効果の高い企画や異なる視点での企画を提案することができるという。
またPR TIMESには、約1万6000人のメディア会員がおり、彼らの希望する情報を登録してもらっているので、関心があるメディアにダイレクトにアプローチすることもできる。これらはPR TIMESというプラットフォームがあるからこそ実現できる方法なのである。
テスラの場合だと、効果的なプレス向け情報の配信タイミングや内容に加え、WEBクリッピングで、掲載メディアの扱い有無や論調の違いなどを分析し、理解を深めてもらうために、メディアにどのようにアプローチするかなど、細やかな提案ができるそうだ。
テスラの前田氏も、有効なプレス向け情報の配信の仕方や非掲載のメディアへのアプローチなどのバックアップに期待している。またPR TIMESの分析力も評価しており、「これまでPRについては効果測定が行えていなかったので、メディアでの掲載の有無を、しっかりと把握できていなかった。しかし、調査結果をみれば、アプローチすべきメディアが浮き彫りになる。次のステップが明確となった。また消費者の視点についても、競合は、高級輸入車かと思っていたら、同じ電気自動車の日産リーフと比べられることが多いのも分かった。これはまだ電気自動車がよく知られていないともいえるので、EVの仕組みなど基本的なことについてもより理解が深まるようにPRしていきたい」とPR活動の着実な一歩へと繋がる手応えを感じているようであった。
PR TIMESの小林氏もテスラのプロダクトの魅力をより伝えるためには、他の電気自動車を含め、競合の壁を越えて自動車業界全体で盛り上げていくイベントも効果的と提案する。これはテスラのサポート活動を通じて、電気自動車の情報流通と理解が圧倒的に少ないと感じるためだ。このようなフレキシブルな考えを提案できるのも、多くのデータによる蓄積と分析。そして何よりも小林氏のような現場の担当者が、真摯にクライアントと向き合っているからだろう。
現在、PR TIMESを利用する企業と団体は3万を超え、その中身も食品、自動車、スタートアップ、IT、地方自治体、官公庁、非営利団体など実に様々だ。彼らに共通するのは、世の中に向けて、積極的に自らの情報を発信したいということだ。しかし、情報が増えるほど、内容が重要になるほど、悩みが増える傾向にあるという。その部分が曖昧となると、結果的には、誰にも想いを届けることができないという残念な結果を招くこともある。そうした企業や団体のアドバイザーとしても、PR TIMESは活躍している。最後に小林氏は、「私たちはPR会社に依存してほしいとは思っていない。最終的には、自分たちの会社のことは自分たちで行えることがベストだと思う。でも現実的には、ノウハウやリソースがなく手が止まってしまうなどの問題に直面することが多い。足りない部分は、伴走者として我々をうまく使ってほしい」と、PRに悩む企業や団体を応援していくことで社会貢献していきたいと話を締めくくった。
プラットフォームに象徴されるように、PR TIMESは、WEB展開が得意ではあるが、それは単なる一面に過ぎない。その情報能力を活かしつつ、現場の担当者がフレキシブルな対応をすることで、クライアント側のPR担当者と二人三脚でプロジェクトを進めているのだ。まさに縁の下の力持ちといった印象である。今後ますますWEB活用した分析は重要度を増していくが、そこを支えるのは、やはり人の力であることも実感できた。その点、PR TIMESは、PRに悩む担当者にとって、良きパートナーとなり得るのではないだろうか。
協力:株式会社PR TIMES