ものづくりは「匠の技」とイメージする人は多いだろう。しかし、今はデジタルイノベーションによりカジュアルなものづくりが実現している。10/9~10/11に開催された日経クロストレンドEXPOの「ものづくり未来会議」では、エムテド代表取締役デザイナーの田子學氏をモデレーターに、プロトラブズの横田哲哉氏、オートデスクの藤村祐爾氏が3DCADの視点で「ものづくり」へのメッセージを送った。
協力:プロトラブズ
受け付けたCADデータを解析し、課題などをフィードバック
試作品や部品製造のハードルを一気に下げたのが、デジタルマニュファクチャリングを実現する、オンデマンド受託製造会社のプロトラブズだ。インターネットを通じて送られた3DCADデータを瞬時に解析し、見積りを3時間で返信している。同社の見積りの大きな特長は、データの提供を受けてから3時間で返信するスピードに加え、解析も行うことだ。「値段や納期だけではなく、受け取ったCADデータを解析した上で実際にどのように部品を製造すれば良いか、どのような課題があるかをお客様にフィードバックしています」と語るのは、プロトラブズの横田哲哉氏だ。
顧客は同社のホームページ画面から3DCADデータをアップロードした後、メールで同社のサーバーにアクセスできるURLを受け取り、表示された見積り画面でより品質の良い部品にするための解析結果や修正内容を共有するという。しかし、顧客の設計意図によっては、提案された修正を受け入れられない場合もある。「カスタマーサービスのエンジニアが、お客様とお互いに見積り画面を見ながら電話で技術的なやり取りをして、最終的にはお客様に判断してもらう対応を行っています」と横田氏は話す。
製造業の競争力強化は「Time to Market」
近年、製品のライフサイクルは非常に速くなってきている。いち早く、市場に製品を投入することは製造業の競争力強化には欠かせない。その中で、同社は時間を重要視して「Time to Market」を掲げる。実際、CADデータを受けてから見積りまで3時間、切削加工なら標準3日、射出成形なら標準10日の納期を実現している。例えば、射出成形の場合、一般的な納期は20日から60日かかるという。
「部品の納期が短いことによるお客様の最大のメリットは、最終の仕様まで何度も検討する時間を得ることです。製造スケジュールに追われている中で、一般的な納期では部品に問題が発生して手戻りとなった場合、より多くの時間とコストが生じてしまいます。スピードが求められる時代、より効率よく部品を完成させ、予定通り市場に投入することが大切です。試作品や部品の製造に関して、お客様のストレスをなくす仕組みも私たちの目指すところです」と横田氏は強調する。
革新的なものづくりの場合、従来の仕組みが必ずしも当てはまらないケースがある。どの市場で受け入れられるのかまだ分からない製品やカスタマイゼーション、パーソナライゼーションなど、小ロット多品種生産の部分では同社のサービスは大きな力を発揮する。
AIが提案するジェネレーティブデザイン
プロトラブズがものづくりの出口なら、設計やデザインのために必要な3DCADは入り口となる。3DCADと聞くと、エンジニアだけが扱う難しいツールと感じ人もいるだろう。しかし、クラウドベースの3DCADソフトを提供するオートデスクの藤村氏は次のように語る。「今は、3DCADが標準化されて取り組みやすくなりました。そのため、多くの人が自分にあったものづくりの形を見つけて、そこにデザインを入れ込むことによって、革新が生まれるようになると考えます」
今の3DCADはどのように取り組みやすくなっているのか。藤村氏は、そのキーワードとして、ジェネレーティブデザインを挙げる。「ぜひ覚えてほしい単語です。今までのCADは自分が作りたいものを設計していくツールだったのに対し、コンピュータが形を提案する機能です。今後はAI(人工知能)がどんどんものづくりに投入されていき、コンピュータが提案するようになるでしょう。その先駆けがジェネレーティブデザインなのです」
ものづくりの入り口を広げる3DCAD
今、ジェネレーティブデザインは1つの大きな波といえる。同社の3DCADソフト「Fusion 360」は設計案をすばやく生成する機能を持つ。さらに、今までの構造計算や解析計算などはプロが行う領域だったが、Fusion 360はどちらの機能も搭載されている。分かりやすく言うと、部屋に合う椅子を自分で作りたいと思った場合、体重に対して椅子は何本必要なのか自動で計算する。構造とデザインがすでにコンピュータ上で完結できるため、ものづくりの入り口に誰もが立ちやすくなった。「誰でも、いつでも、どこでも、この3点が非常に大切だと思います。3DCADとか、ものづくりとかに抱く匠のイメージを壊して入り口を広げることを目指しています。ものづくりの次のステージは、ソフトがいかにサポートできるかにかかっています」と藤村氏は主張する。
オートデスクは、プロトラブズと同じく米国に本社を置く企業だ。米国では既に、Fusion 360で設計・デザインしたデータの見積り依頼をプロトラブズに送信する機能もあるという。「ものづくりをする上で、プロトラブズやFusion 360を知らないのはもったいないです。知っていれば、自分でものを作りたいと思ったときに、利用できます。製造する側のハードルも下がっていますので、後は第一歩を踏み出すかどうかです」と藤村氏は訴えた。
自分たちの創造性をコンピュータに向けて発信する
少し前まで3DCADはエンジニアだけが使える特殊なツールだった。しかし、インターネットとつながることで圧倒的な低コストとなり、解析ツールも搭載され、誰にでも設計とデザインを可能にする進化を遂げている。
最後に、田子氏が「これからのものづくりは、クリエイティビティを発揮した上で、それをどう表現に変えていくかです。今、デジタルインベーションによって、そのためのツールは十分そろっていますし、ものづくりの入り口と出口のハードルは下がり、誰でも経験できる時代に入っています。後は、自分たちの創造性をコンピュータに向けて発信するかどうか、その一歩を踏み出す意識があるか、自分の創造力を試すかどうかで大きく変わります。ものづくりをもう一度見直して、自分の表現力を発揮してほしいといつも思っています」と熱いエールを送った。
プロトラブズ「短納期サービス」の概要と具体的なメリットを紹介した10分解説動画は こちら
協力:プロトラブズ