テーブルに置けば、まるで花を飾るように光を飾ることができる。パイロット・ラボラトリーの研究室長・チーフデザイナーの山中佑允氏が製造するLEDテーブルランプ「Flumie(フルミエ)」は、LEDの特徴を生かし、花の形をしたコードレスのテーブルランプだ。山中氏はたった1人でFlumieを開発製造する、いわゆる「1人メーカー」で、それを支えているのがプロトラブズだ。10/9~10/11に開催された日経クロストレンドEXPOの「ものづくり未来会議」で語られた、山中氏の新たなものづくりへの挑戦を紹介しよう。
協力:プロトラブズ
きっかけは母への唯一無二のプレゼント
世界で唯一無二のプレゼントを母へ――。Flumieの開発の裏側には、山中氏の母への想いと、エンジニアとしてのものづくりへのこだわりがあった。「母が歳を取ってきて手元が見えづらくなってきたようで、ある時、LEDライトが欲しいと言ったんです。プレゼントしようと、インテリアショップやデパートをいろいろ見て探したのですが、エンジニアの私の感性を満足させてくれる製品がなかったのです。それなら、自分で作ろうと思いました」と山中氏はきっかけを明かす。
多くのLED照明は白熱電球や蛍光灯の形をしていて、せっかく新しい光源なのに、なぜLEDでしかできない形状、デザインの照明が少ないのか違和感があったという。山中氏は自動車メーカーで、ハイブリッドや燃料電池で走るオートバイの研究に携わってきた電気系エンジニアだ。「世界一とか世界初が好きなメーカーで、私は社会人1年生のときから、それをたたき込まれました。なので、作るなら今までにないような世界初の構造を作ろうと思いました」と笑顔を見せた。
納屋からスタートした、たった1人の挑戦
山中氏は実家の農家を継ぐため、自動車メーカーを退職し、ふるさとの徳島県へ戻った。サツマイモ農家の傍ら、実家の納屋でFlumieの開発製造をスタートした。
なぜ、農家の納屋で製造ができたのか。実は、山中氏の父もかつては機械系のエンジニアを経て農家を継いでいた。「エンジンで自走するサツマイモを掘る機械や、出荷用の段ボール箱を組み立てる機械など、何でも自分で作っていました」と山中氏は話す。このため、納屋には町工場のように切削用のフライス盤や旋盤、溶接機などの工作機械がそろっていたという。
エンジニアとして誰かのために作る喜びを実感
Flumieの開発では、必要最低限の構成でLED照明を作ったらどうなるのかを突き詰めたという。「配線はステンレスチューブの中に入れて見えないようにし、LEDチップの特徴を生かした非常に薄い灯体の照明が出来上がりました。これは世界中のどこにもないぞと思いました」と山中氏は語る。Flumieの完成を喜ぶ母の姿を見て、山中氏は誰かのために作るエンジニアとしての喜びを実感したという。
山中氏はプレゼント用に頼まれた場合のみ製造していたが、Flumieの評判はどんどん広がっていった。徳島県の補助で、ドイツで2年に1度開催される世界最大の照明の展示会に持ち込むと、海外のメーカーもうならせる高評価を得た。
量産化の壁を超えるプロトラブズとの出会い
本格的にビジネス展開の検討を始めた時、「1人メーカー」の大きな課題、量産化の壁が立ちふさがる。Flumieの電源は、台座の軸の部分に単3電池2本を入れる。その電池を入れる樹脂ケースを山中氏は工作機械で丸棒から削り出すという。「1本1本削り出していたら、途方もない手間がかかります。1人でできることには限界があります」と山中氏。
量産化するにはどうすればいいのか悩んでいた時、プロトラブズのサービスと出会い、射出成形で樹脂ケースの製造を依頼した。「私のような個人の製造業者では、普通の町工場に頼むのはハードルが高いというか、頼みにくいところがあります。プロトラブズのホームページには、射出成形や切削加工に関する疑問に対しての答えが分かりやすく書いてあり、見積り回答も非常に早く、個人でも1個から発注できるという柔軟な対応力が助かりました。営業担当者も丁寧にフォローやケアをしてくれますので、非常に頼みやすかったです」と山中氏は最初の印象を語った。
プロトラブズによって、1個作るのに半日を要していた部品も、注文後数日のうちに数百個単位で製造できるようになり、生産可能数量は従来の10倍を見込めるようになった。正式なリリースに向け二人三脚で進めているという。母へのプレゼントからスタートしたFlumieは、エンジニアの父から受け継いだこだわりのDNAにより、大輪の花を咲かせようとしている。
ものづくりは自分の感性を信じて逆風を跳ね返す
最後に、山中氏は自身の想いも合わせ次のようなメッセージを送った。「Flumieのような斬新で先進的な構造を企業内で提案すると、量産性があるのかとか、本当に売れるのかといった声が必ず挙がります。そういった声に対して、それぞれ理解してもらえるよう説得するのは時間もエネルギーも必要で、なかなか思い通りのものは実現できないと思います。しかし、本当に良いものをみなさんに届けたいと思えば、『これには世に出す価値があるんだ』という自分の感性を信じてものづくりをしていくしかないと思います。特に、世界一や世界初のものは従来のものとは異なっているので、絶対に逆風がありますが、そこは自信を持って、リスクを背負ってでもやるべきです」。
従来のものづくりの考え方から飛び出して開発製造された山中氏のFlumieが、これからのものづくりの道筋を照らしているといえるだろう。
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