デジタル領域での顧客エンゲージメント強化は、今やブランドメッセージの普及に欠かせない取り組みだ。パナソニックはエアコンブランド「Eolia(エオリア)」を深く訴求するために、総合情報サイトを手掛けるオールアバウトと協働しブランドサイト上にオウンドメディアを開設。ターゲットとする層のニーズを分析し、生活者の「価値観」を創造する情報を届けるべく、多くのコンテンツを展開している。「日経クロストレンド FORUM 2019」では、両社の担当者が、今取り組むべきメディア活用の方法について語った。
協力:パナソニック/オールアバウト
ブランドとしてメッセージを発信するだけでは限界がある
「人が1日に吸う空気の量は、実は18kgあります。水を飲む量は、多い人で1日2Lぐらいといわれています。つまりその9倍です。水や食べ物は選んでいるのに、空気は選ばないでよいのでしょうか」。そう語るのは、パナソニック コミュニケーション部の清水孝志氏だ。
パナソニックのエアコンブランド「Eolia」は、2016年より「健康な空気と暮らそう。」をブランドメッセージに掲げてきた。「空気清浄機能」をはじめ、エアコン内部を清潔に保つ「オートクリーンシステム」、吹き出す風までキレイにするための「ナノイーX」など、空気の質にこだわった機能を特徴とする。
他方で、「Eolia」には、センサー機能や高い省エネ性能など、多彩な機能を搭載する。そうした中で、なぜ「空気へのこだわり」を打ち出すのか。その答えは、パナソニックが定期的に行っている、消費者がエアコンを購入する基準に関する独自調査に見ることができる。
近年の調査では、1位に冷房機能、2位に省エネ、3位に暖房機能と定番のニーズに続いて、4位にはエアコン内部の除菌(清潔性)が浮上している。「最近のトレンドは清潔性です。そこで『Eolia』も、数ある機能の中から、『空気へのこだわり』にフォーカスしたコミュニケーションを進めています」と清水氏は説明する。
ここで課題となるのが、どのようにして顧客に「空気へのこだわり」を市場で啓発し、「空気の質」を重視した製品であることを伝えていくかだ。清水氏は「ブランドとして発信するメッセージだけでは、お客様へ届けるには限界があります。よりメッセージを受け取ってもらう方法として、顧客接点の高いメディアを立ち上げ、詳細な情報を伝えていくことが大切だと感じました」と語る。
そこで、パナソニックが支援を求めたのがオールアバウトだった。同社が手掛ける総合情報サイト「All About」では、約900人の専門家がガイドとなり、信頼性の高い情報を発信。就職から結婚、出産、老後といったライフイベントに関するコンテンツを幅広く展開する。他方で企業のオウンドメディアなどのコンテンツマーケティング支援事業も積極的に手掛けており、累計で約3500社を支援してきた。
2017年11月9日、「いい空気」と読めるこの日付に合わせて、「Eolia」のブランドサイト上にオウンドメディア「Air Letter <エアレター>」をオープンした。2019年8月現在までに掲載された56本の記事はいずれも、顧客とのエンゲージメント強化のために、メディアとしての強みを生かした様々な手法が施されている。次項で詳細を紹介したい。
メディアの強みをフル活用して生活者の「価値観」に寄り添う
「Air Letter」が戦略的に狙う読者ターゲットは、子育て世代(30~40代)の女性だ。パナソニックの独自調査では、白物家電の購入決裁者のほとんどが女性だが、エアコンの購入決裁の場合では男女比が半々になる傾向がある。意思を持って購入している人も決して多くはない。「『いい空気を選ぶ』という価値観を伝えることができれば、他の白物家電同様に、女性により興味を持っていただけるのではないかと考えました」と語るのは、オールアバウト プラットフォーム開発部 マネジャーの大和田誠氏だ。
そもそもエアコンを購入するタイミングの多くは、結婚や出産、住宅購入など人生のターニングポイントだという。「そこできちんと選んでもらうには、お客様に必要と思ってもらえる寄り添った情報を発信し、エンゲージメントを築いていくことが大事だと考えました」と清水氏は強調する。さらに季節要因も大きく、「エアコン」というキーワードの検索数は、6~7月に急上昇し山型のグラフを描く。需要が高まる時期を前に、特に関心を持ってもらうことも大切だ。
ターゲットとなる子育て世代の女性に、「いい空気を選ぶ」ことを自分ごと化してもらいたい、ライフステージに合わせてよい製品として思い出してもらいたい、需要期前にアプローチを強化したい。そうした細かなセグメントに応えられるのが、メディア活用の強みの一つだ。大和田氏は「メディアはユーザーがどのような行動で閲覧するかのログを収集することができます。オールアバウトの場合、18万本の記事すべてで、読者がどのようにサイト内を回遊するのかを把握しています。恣意的な調査では見られない、自然なインサイトを見ることができるため、ご提案につなげられることが可能です」と言う。
生活者の「価値観」を捉えるために、インサイト解析を軸に記事を制作
こうした戦略により「Air Letter」のアクセスは女性比率が60%と男性を上回った。さらにブランドサイト全体でも約5%女性が増えており、総流入数は2017年度から2018年度にかけて約25%増加。「もともとブランドサイトは他の商品に比べて、商品名から検索されてきた男性の流入が非常に多かったのですが、『Air Letter』からの流入が合わさることで、女性の比率を大幅に増やすことができました」と清水氏は話す。
続いて大和田氏は、どのようなコンテンツがエンゲージメントを得られたかを紹介。集客数が多く反響があった記事として、「産後、生活環境で気を付けたいこと」を取り上げた。子どもが生まれるタイミングには、家庭内で価値観の変化が起きること、産後に生活環境が変わることを解説。「その結果、子育て室内環境はキレイな空気がよいことを訴求しました。記事の読了率も高かったです」と大和田氏は言う。
さらにこの記事について、オールアバウトのどの関連ページからの流入が多かったのか、タイトルや本文からキーワードを抽出してインサイト分析を実施。すると、産後の女性が(1)「貯蓄」「保険」「経済状況」など将来的なお金に関する情報収集を行っていること、(2)「友人や交流関係、コミュニケーション」に課題感を持っていること、(3)「身体」に関する情報や「睡眠」への課題感を持っていること、が分かったという。このような調査結果はその後コンテンツの制作にも反映されており、「お金」や「睡眠」に関する記事を増やしている。
「最近の『Eolia』のCMで訴求しているのは、『ナノイーX』がエアコンの中やお部屋に浮遊するカビ菌を抑制していること。一見するとキレイな部屋でもカビの危険があります。空気は目に見えませんが、カビは意外なところに潜んでいるのです。カビに強いという側面を発信し、エアコンの中を少し気にしてみませんか? とメッセージを発信しています」と清水氏は説明する。これを受けて、オールアバウトでは、メディアの読者の閲覧履歴やコンテンツ内容から「カビ」にひも付くキーワードを抽出し、分析中だという。
さらなるエンゲージメント強化を目指して、新たな取り組みを推進
現在、ブランドと生活者のエンゲージメント施策のさらなる拡大のために「Air Letter」の施策の延長として推進するのが、オールアバウトが提供するコンテンツマーケティングプラットフォーム「All About PrimeAd(プライムアド)」の活用である。
「PrimeAd」では、オールアバウトが主体となり、信頼性の高い90以上の一次情報メディアと連携してコンテンツを制作・配信する “メディアオーケストレーション”と呼ばれる取り組みを行っている。提携メディアの中から、企画ピッチにより選ばれた数メディアが強みを生かした共感性の高いコンテンツを制作し、これを提携メディアネットワークへ配信。統一指標のリポートから総合的に施策の効果を評価できる仕組みだ。
これにより、クライアント企業は、メディアの選定や組み合わせ、コンテンツ設計といった難題をオールアバウトに一任しながら、効率的に横断的なプロモーションを実施することができる。制作進行にかかる工程の大幅な削減とともに、一貫性のあるタイアップ広告を打ち出すことで、情報取得感度が高まっている生活者の「価値観」を効果的に醸成する、最適なアプローチが可能だ。
「生活者には多様な価値観があります。ブランドメッセージを、生活者に自分ごと化してもらうためには、これを把握しているメディアを活用してメッセージを作り伝えていくことが重要です。メディアが持っている資産や価値に改めて注目していただき、有効活用していただければと思います」と大和田氏は語り、講演を締めくくった。