市場競争が激化する現在、日本でもデジタルチャネルを駆使して効率的・効果的にカスタマーエクスペリエンスを高めながら、顧客ロイヤリティを向上させる取り組みが始まっている。本講演の前半では、CRMとロイヤリティマーケティングに特化したサービスプロバイダー、ブライアリー・アンド・パートナーズ・ジャパンのトップ、川津 のり氏が、今後日本でも重要度を増すロイヤリティマーケティングの在り方を解説。後半では、実際にロイヤリティマーケティングを実践し成功を収めるサッポロライオンの仁平 和重氏が、スマートフォンのアプリを駆使した実例を示した。

協力/ブライアリー・アンド・パートナーズ・ジャパン

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ポイント還元だけで顧客ロイヤリティは向上しない

 「顧客維持率が5%向上すれば利益は2倍になります」。冒頭登壇した川津氏は、このように強調する。1985年に創業した米ブライアリー・アンド・パートナーズは、米国の大手調査会社であるフォレスター社からロイヤリティマーケティングの第一人者であり業界No.1のプロバイダーとして評価を受ける企業だ(※1)。その後、野村総合研究所が同社のサービスやソリューションの将来性に着目し、2015年に米国本社を100%子会社化、2016年に設立されたのがブライアリー・アンド・パートナーズ・ジャパン(以下、ブライアリー・ジャパン)。それだけに、同社のロイヤリティマーケティングにおける実績とノウハウは他社から抜きん出ている。

 そんな同社の日本代表である川津氏が強調するのは「ロイヤリティプログラム≠ポイントプログラム」という点だ。日本ではこの点が混同されがちだが、それでは結果は出ないと言い切る。

 ロイヤリティマーケティングとは、顧客をステータスに応じ特典を通じて優遇し、購買継続・拡大を促す取り組みである。日本企業の多くが顧客の囲い込みのために、購買額に応じてポイントを還元して値引きを行うマーケティング活動を展開しているが、川津氏は「ポイントプログラムでは顧客ロイヤリティを高めることはできない」と指摘する。新規の顧客とロイヤリティの高い顧客に待遇の差がなく特別感がないことに加え、割引や還元が当たり前という状況になってインセンティブ(特典)の価値が低下するからだ。「競合他社と差異化できないので、価格競争に陥ることになるでしょう」と語る。

 効果的なロイヤリティプログラムでは、顧客のステータスに応じてインセンティブを変えることが特徴。それぞれのステータスの顧客が求めるカスタマーエクスペリエンス(CX)を提供するのだ。自社の業績に対する貢献度が高い顧客を増やすことが大きな目的である。さらに、ステータスが上下するごとにコミュニケーションの機会を設定し、顧客の休眠や離反を防ぐ。川津氏は次のように指摘する。

 「いくら頑張って新規顧客を獲得しても、休眠・離反してしまっては投資がムダになってしまいます。既存顧客のライフ・タイム・バリューを高めることが大切です。既存の顧客は、新規の顧客よりも購入額が67%高いという調査結果もあります」

 同氏はロイヤリティプログラムのことを「プログラムに参加すればするほど、すなわちお金を使えば使うほど『特別扱いしてもらえる』『より良いカスタマーエクスペリエンスが得られる』『競合他社にお金を使うと損をする』と顧客に思ってもらうような仕組み」だと説明する。

※1 フォレスター社「2017 Forrester Wave(TM): Customer Loyalty Solutions For Large Organizations」による評価
日本では、ロイヤリティプログラムがポイントプログラムと混同されがちな点を指摘した上で、成果の出るロイヤリティ施策を語ったブライアリー・アンド・パートナーズ・ジャパン日本代表の川津のり氏
日本では、ロイヤリティプログラムがポイントプログラムと混同されがちな点を指摘した上で、成果の出るロイヤリティ施策を語ったブライアリー・アンド・パートナーズ・ジャパン日本代表の川津のり氏

デジタル技術を活用する巧拙が成否を左右

 欧米に比べて、日本はロイヤリティプログラムの取り組みで後れをとっているという。同社が2018年5月に実施した調査によると、日本企業が設定している会員制度に満足している顧客は平均で30%強にとどまっている。満足度が低調な理由を川津氏は「日本では古くから、どのようなお客様でも平等に対応することが良いといった考え方があるからでしょう」と分析する。

 企業がロイヤリティプログラムに取り組む際には、(1)会員制度にエントリーしたが購買・利用が定着していない「一般顧客」、(2)リピート経験はあるが継続的ではない「ミドル顧客」、(3)継続的に購買・利用があり、ブランドへの愛着が定着している「ロイヤル顧客」――といったようにステータスを定義し、どのステータスにどれだけの顧客がいるかを把握することが第一歩だという。その上でそれぞれのステータス間でステータスを引き上げるための施策と、ミドル顧客やロイヤル顧客の休眠・離反を防ぐための施策を設計する。ここで、どのような施策を設計するかが成否の鍵を握ることになる。川津氏は「施策をうまく設計しないとロイヤリティが高まるどころか満足度が下がってしまい、顧客の離反を招く恐れもあります」と警鐘を鳴らす。

 同社では、こうした取り組みを支援するためにコンサルティングサービスやITソリューションを提供。同社の顧客企業では、いずれも顧客価値(購買額)や購買頻度が大きく向上しているという。例えば、アパレル業界の顧客では顧客価値、購買頻度それぞれの平均が2.7倍と2.6倍に、旅行・サービス業界では同2.5倍と3.8倍、専門小売業界では同2.2倍と2.3倍に向上している。

 IoT(モノのインターネット)やクラウド、AI(人工知能)、モバイルデバイスなどのデジタルテクノロジーが急速に進化している現在、最新のテクノロジーをいかに活用するかが重要な課題になってきているという。これについて、川津氏は次のように語る。

 「一昔前に比べて、顧客から得られるデータが膨大に増えました。これを分析するテクノロジーも急速に進化しています。一方で、ロイヤリティプログラムに取り組む企業も増えつつあり、現在は米国では1世帯当たり平均で14ものプログラムに参加しているというデータもあります。企業側はプログラムを通じて収集したロイヤルカスタマーのデータを、どのように活用するかでプログラムとロイヤリティ施策の成否が大きく左右されることになります」

スマホアプリの電子スタンププログラムでロイヤリティ向上

 講演の後半には、同社の支援でロイヤリティプログラムを導入したサッポロライオンの仁平 和重氏が登壇し、プログラムの詳細を説明した。サッポロライオンは、サッポロホールディングス傘下の外食事業者。ビアホール「銀座ライオン」や「YEBISU BAR」などを運営する。

2018年5月からヱビスバーで提供を開始し、好評を得る「YEBISU BAR アプリ」の施策について語るサッポロライオンの仁平和重氏
2018年5月からヱビスバーで提供を開始し、好評を得る「YEBISU BAR アプリ」の施策について語るサッポロライオンの仁平和重氏

 同社は以前から「club LION」というロイヤリティプログラムを実施していた。これは会計時に会員カードを提示すると値引きクーポンを発行するプログラム。顧客の維持という観点では一定の成果は上げていたものの、グループで訪れた顧客の中でも会計に携わった幹事からしか情報を収集できないという悩みを抱えていた。

 そこで、ブライアリー・ジャパンにプログラムの設計支援およびテクノロジーの導入を依頼して新たなロイヤリティプログラムを実現。それが2018年5月からヱビスバーで提供を開始した「YEBISU BAR アプリ」である。スマートフォンのアプリと電子スタンプを活用して、ロイヤリティプログラムを提供。アプリを起動すると、ヱビスバーで提供しているビールとビアカクテルの一覧が表示され、注文ごとにそのメニューに店員が専用の機器でスタンプを押すというもの。顧客全員が参加できる点がclub LIONとの大きな違いだ。

 スタンプが0~9個で「ビギナー」、10~29個で「テイスター」、30個以上で「マイスター」というステータスを設定しており、スタンプ数に応じた特典を提供する。新商品を告知する仕組みや会員からアンケートの収集、獲得したスタンプ数のランキング表示なども備えている。このアプリのウェブサイトや宣伝チラシでは、マイスターよりも上位の「幻の称号」があることも示唆し、利用者の興味を引く努力がなされている。また、初回登録時にビールを1杯プレゼントするという施策も好評だ。

 仁平氏によると、会員数はプログラムの提供開始直後から順調に増加中だ。これまでは注文頻度が少なかったメニューにも引き合いが増えるといった効果も生まれている。顧客アンケートには「おもてなし最高で、ビールもおいしく頂けて大満足しました。まわりにもススメています」「スタンプを全部集めたくなりました」といった声が届き、評判が良い。

 同社では、このアプリを通して収集した顧客情報をマーケティング活動に活用している。顧客属性別のビール購買趣向を分析したり、アンケートから得た情報を同社の新メニューやサッポロビールの新商品の開発に活かす。今後は、ヱビスバー以外の他ブランドやサッポログループの他事業に展開していく予定だという。

「YEBISU BARアプリの特徴」
「YEBISU BARアプリの特徴」
YEBIS BARアプリは、注文し、ビールがきたらスタンプが押されるというシンプルさが好評を得た。ただし、満足度を高めるためには、顧客の動向にあわせて随時プログラムを変更していくという
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協力/ブライアリー・アンド・パートナーズ・ジャパン