AIを活用してデジタルマーケティングを高度化する――。このチャレンジに積極的に取り組んでいるのが、電通グループの電通デジタルだ。高いパフォーマンスが見込める動的なクリエイティブを短期間で大量に自動生成する「ADVANCED CREATIVE MAKER(アドバンストクリエーティブメーカー)」を開発した。クリエーターはAIと協働することで、新しい表現の可能性にチャレンジしたり、より創造的な仕事に注力できるようになる。デジタルマーケティングを革新する新たな試みは、多方面から大きな注目を集めている。

協力/電通デジタル

【PR】クリエーターがAIと協働、バナー広告で高パフォーマンスを狙う(画像)

クリエーターもAIとのタッグ戦

 AIが人の仕事を奪うのではないか。AIに対する期待が高まる一方、漠然とした不安も広がりつつある。「『そういう仕事は、いずれAIがやるようになる』。そんな言葉を耳にしますが、私はそこに違和感を抱いています」。こう語るのは、電通デジタルで執行役員を務める並河進氏だ。

 人とAIが協働する未来があるのではないのだろうか。その可能性を提示してくれたのが、チェスの競技の1つである「アドバンスト・チェス」だ。これは棋士同士が対局中にコンピュータで指し手を調べながら戦う、いわば「人とAIのタッグ戦」。AIは得意の検索能力で最善の指し手を導き出し、棋士はそれを参考にして直観的な能力と創造力を発揮する。

 人対AIで対局すれば、AIの方が圧倒的に強いが、それをもってAIが人を凌駕したと考えるのは早計だ。人とAI双方の強みを組み合わせた方が、AI単独で戦うよりも強いのだという。

 並河氏は、「人はもっと主体的にAIやテクノロジーと協働できるはず。そしてクリエイティビティをもっと進化させることができるはず」と語る。こうした期待を込めて、電通デジタルは2017年4月に「アドバンストクリエーティブセンター」を新設。並河氏が部門長となり、現在70名体制で、AI・データと人とのクリエイティビティの融合を目指している。

 「この十数年でデジタルマーケティングは大きく進化したものの、『認知・興味喚起』から『意向醸成』『検討』『購買』に至るマーケティングプロセスには“分断”が生じています」と並河氏は指摘する。認知・興味喚起は主にテレビCMを中心とするマス広告、その後の検討や購買段階にはバナーやリスティング広告を使うやり方が多いからだ。

 スマートフォンが爆発的に普及した今、顧客は認知・興味喚起の段階からネットの情報を活用する。マーケティングプロセスに“分断”があると、働きかけるべき顧客に的確にアプローチできずミスマッチが生まれる。「これからはマーケティングプロセスの“上流”から“下流”まで、AIやデータを使ったデジタルマーケティングを展開することが重要です」と並河氏は訴える。

クリエイティビティを変革する3つの視点

 この実現に向け、同センターでは3つの視点で変革に取り組んだ。

 1つ目は「クリエイティブの最適化」である。例えば、バナー広告はクリック率の正確な把握が可能だが、これまでは何が評価されたのかは正確には分からなかった。

 「そこで構成する要素を一つひとつ分解して比較検証し、反応が高い要素を見極めることで、何が消費者の心に響いたかを研究。さらに、ここに機械学習を活用し広告想起率やクリック率を推定する予測モデルを構築しました」(並河氏)。大量のデータを細かく分析し、クリエーターが培った経験知を集合知へ昇華させ、より最適なクリエイティブの制作に役立てている。

 2つ目は「クリエイティブの変動化」だ。通常のバナー広告は、あらかじめ決められた表現を制作・配信する、いわば静的なクリエイティブ。しかし、人の興味・関心は時間帯や天気などでも変わり、常に一様とは限らない。

 柔軟な広告配信を実現するため、閲覧する時間帯に合わせて表現が変化するバナー、インタラクティブに反応するバナー、商品の人気投票ができるバナー、リアルタイムで情報を更新できるバナーなど動的に表現を変化させるツールを開発した。「これからは、世の中のあらゆることが表現の“変数”になります。例えば、特定のワードのつぶやきの頻度が上限を超えたら広告を出すといった動的な広告配信も可能です」(並河氏)。

 そして3つ目が「クリエイティブの大量化」である。多様な顧客の属性や条件にマッチしたクリエイティブを配信するためには、ある程度の“量”が必要になる。これまでの手作業による制作では、この“量”を確保することが困難だった。特に動画は手間も時間もコストもかかる。

 課題解決のため、複数パターンの動画レイヤーを準備すると、順列組み合わせで大量パターンの動画を自動生成するツールを開発した。「すでにいくつかの案件で、1000パターン以上の動画を制作・配信し、クリエイティブ要素と視聴率の関係性を分析。最初に大量パターンをテスト配信し、その後、パフォーマンスが良かったものを順次配信していくというフローを進めています」と並河氏は述べる。

AIやデータを使ったデジタルマーケティング展開の重要性を訴える電通デジタルの並河進氏
AIやデータを使ったデジタルマーケティング展開の重要性を訴える電通デジタルの並河進氏

5秒に1枚バナーを作成、未来のクリエイティブディレクター

 電通デジタルはアドバンストクリエーティブセンターが中心となり、電通およびマーケティングへのAI活用を支援するグループ会社のデータアーティストなどと協業し、この3つの変革の成果を統合したソリューションを開発した。それが2018年5月に発表した、AIを活用したバナーの自動生成ツール「ADVANCED CREATIVE MAKER(アドバンストクリエーティブメーカー)」(β版)である。

 最大の特徴は設計・生成・シミュレーションのプロセスを一貫して行えることだ。まず「業種」「キーワード」「訴求軸」などを入力すると、過去に配信されたバナー広告の表現やクリック率実績などをディープラーニングによって学習した予測モデルが、パフォーマンスが高いと考えられるクリエイティブ要素を割り出す。その候補に基づき、自動作成ツールが最適なビジュアル素材やムービー素材を自動で組み合わせ、バナーをデザインする。コピーは、電通オリジナルのAIコピーライター「AICO(アイコ)」が生成する。さらに出来上がったクリエイティブについて精緻にクリック率をシミュレーションし、効果が高いと予測されるものを選別していく(図参照)。

 設計とシミュレーションに用いるAI予測モデルは異なるもの。「実績が増えれば増えるほど学習データも厚みを増し、予測モデルの精度が向上していきます」と並河氏は語る。

 およそ5秒間に1枚のバナーを生成することが可能で、短時間に候補となり得るバナーを1000枚以上生成できるという。「集合知の共有を加速し、即時性を高め、クリエイティブの大量生成とトライアルを可能にします。ADVANCED CREATIVE MAKERは、新しいデジタルマーケティングを推進する『未来のクリエイティブファクトリー』です」と並河氏は強調する。

 ただし、クリエイティブ業務をすべてこれに置き換えるわけではない。メインの用途は、クリエーターの業務支援だ。設計・生成・シミュレーションのプロセスを経て得られた優れたクリエイティブをお客様に提案していく。「制作に係る手間とコストを削減することで、クリエーターは、戦略の立案や、新たな表現手法の開発に、より多くの時間を割くことができる。これこそがADVANCED CREATIVE MAKERの真の価値です。新しいアイデアを発見したり、最終判断を下すのがクリエーターの仕事です」と話す並河氏。

 AIをビジネスに活用したからといって、人の能力は何1つ失われない。むしろAIは人間の能力を拡張するツールとなる。電通デジタルはADVANCED CREATIVE MAKERを1つの軸に、人とAIの協働による“最強”のクリエイティブ制作とデジタルマーケティングの高度化を推進し、顧客への提供価値の最大化に貢献する考えだ。

「ADVANCED CREATIVE MAKER」によるクリエイティブ生成の仕組み
「ADVANCED CREATIVE MAKER」によるクリエイティブ生成の仕組み
キーワードや訴求軸などを入力するだけで、高パフォーマンスが期待できるバナークリエイティブを自動生成する。データの集合知を元に、AIを駆使して、クリエイティブ制作をすることが可能だ
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協力/電通デジタル