デジタルメディアを使ったブランディング戦略やそのための効果的な情報発信が商品の販売促進やウェブ閲覧数アップの鍵を握る現代社会。「知名度=ブランディングではない! VOCEが購買行動を起こすメディアになった理由(ワケ)」と題して、講談社の美容メディア、『VOCE』のブランドを構築する過程での施策の実例などが紹介された。さらに同社の取り組みを支援するunerryは、ブランディング戦略として購買者のネット行動とリアル行動を多面的に理解する重要性を示し、次世代の商品購買の在り方を提示した。
協力/unerry

メディアを整理し、各“住人”に寄り添う
美容雑誌のパイオニア講談社『VOCE』は今年創刊20周年を迎えたが、VOCEウェブサイト編集長の三好さやか氏によると、これまでの道のりは決して順風満帆ではなく、2015年ごろ低迷期にあったという。当時の『VOCE』は「同ブランドで展開していた様々なメディアの役割が曖昧」「編集部内で『VOCEらしさ』の捉え方がバラバラ」「読者・ユーザー目線から微妙なズレが生じていた」などの課題があった。
「メディアに関してはウェブ、アプリ、SNS、ユーチューブなど様々なチャネルを持っていましたが、それぞれが内容的に棲み分けされておらず、雑誌との効果的な連携もできていなかった」と三好氏は言う。
こうした状況を打破するため、編集部ではそれまで抱いてきた「VOCEらしさ」に対する“思い込み”を捨て、読者座談会や営業部員も参加した意見交換、書店での購買者調査などを積極的に実施。得られた知見を元に「それぞれのデジタルメディアの“住人特性”に配慮する多面的な顧客理解」「各メディアと雑誌との棲み分けをはっきりさせた上での共存と連携」などの新しい方針を決めた。
この戦略は奏功し、『VOCE』は順調に販売部数を拡大。デジタルチャネルでも、2017年度のウェブ・アプリのPV数が2015年度の13倍となり、ウェブの広告収入も右肩上がりで伸びている。
次なる展開として、三好氏は「今年秋『コスメLOVERSクラブ』というコミュニティを立ち上げ、既存のVOCEブランドの各メディアに集っている“美容好きさん”たちが濃密な交流行うことで“美容愛”をより深められる仕組みにしたい」と話した。

鍵を握る位置情報を活かした情報配信の最適化
続いてunerry 代表取締役CEOの内山英俊氏が登壇。unerryは『VOCE』の新しいブランディングをアプリやWEBの開発・運営などを通じて支援している。
内山氏は、『VOCE』の顧客によるネット行動(ウェブ、アプリ)とリアル行動(雑誌、日常行動)それぞれの細分化されたカテゴリーで活用されるメディアや技術の違いを例に挙げ、「ブランディングされたメディアでの多面的な顧客理解」の重要性に言及。その上で、unerryが取り組んでいる「位置情報を活用した日常的な顧客行動情報の価値化」について説明した(図参照)。

内山氏は「お客様に新たに自社製品・サービスを購入してもらうという“行動変容”を促すのは容易ではない。そこで顧客の日常行動というリアルデータを解析することでお客様の行動特徴を理解した上で、リアルやネットにおける効果的なコミュニケーションをすることが重要となる。当社が提供している。
“Beacon Bank(R)”(ビーコンバンク)というのはそのためのプラットフォーム」と話した。
このプラットフォームでは、関連アプリがダウンロードされたスマホを介してユーザーが位置情報にかかわるサービスを活用する際にそのデータを蓄積・解析している。データは、屋外ではGPS、屋内では自販機などに設置されたブルートゥースデバイス「Beacon」を利用している。現在、プラットフォームを活用しているアプリのダウンロード数は1700万件、Beacon拠点は全国で71万か所に上る。
ポイントはBeaconネットワークによって、滞在階の区別も含む屋内でのきめ細かい行動・嗜好分析が可能になること。九州・博多での解析例では、あるファストフード来店者は、ピザ店、他ファストフード店、酒類量販店に、一般的なユーザーと比べて10倍以上の確率で行っていたという相関性が明らかになった。
内山氏は「この仕組みをSNSやデジタルサイネージなどとも連携して、どの場所・タイミングで商品情報などを配信するべきかという『情報配信の最適化』を図ることで、最小コスト・最大売り上げを実現できる。またお客様の行動特徴を理解し、活用する方法としては、ネットだけのコミュニケーションに限定して考えず、イベントや屋外広告なども含めたユーザーとのリアル行動の接点においても統合的に活かすことが大切だ」と語った。
協力/unerry