CVR(Conversion Rate)で最大21.4倍、ROAS(Return On Advertising Spend)で最大13.8倍という驚異的な成果をもたらしたデジタルマーケティングがあった。2017年末に富士フイルムによって展開された年賀状キャンペーンだ。それを支えたのが、富士フイルム、富士フイルムビジネスエキスパート、そしてアユダンテが一体となって構築したGoogle アナリティクス 360を活用したプラットフォームである。その背景にあった課題や工夫について3社の担当者が当時を振り返る。
協力:アユダンテ

アユダンテと革新したリピーター獲得の方策
山浦氏:富士フイルム様は、パソコンやスマートフォンに入っている写真を豊富なテンプレートに組み合わせるだけで簡単にオリジナル年賀状を作れるサービスを展開するなど、写真入り年賀状という文化を築き、根付かせてきました。ただ、社会環境の変化もあって、課題も抱えていたそうですね。

一色氏:年賀状を出す人が年々減っています。日本郵便によると、2017年は総発行枚数29億6526万6000枚が発行されましたが、7年連続で、年率10%ほどのペースで減少が続いているという現状です。そんな中でも写真年賀状は一般的な年賀状よりも制作にコストがかかりますから、どうやって多くのお客様に当社のサービスを選び、リピートしていただくかが大きな課題になっていました。同時に、例年新規のお客様が約6割であるのに対し、リピーターのお客様が約4割にとどまっていることも問題視しており、継続的に当社のサービスをご利用いただく方法を模索していました。


五井氏:我々富士フイルムビジネスエキスパートもハウスエージェンシーの立場として、リピート比率をいかにして上げるかに苦心し、毎年のように新しい取り組みにチャレンジしてきました。
山浦氏:そこで、富士フイルム直販ECサービスの『Fotonoma』会員情報とGoogle アナリティクス 360のデータを組み合わせて、2017年末に新しいキャンペーンを展開されたわけですね。そのご提案をし、実際にデータ分析をお手伝いすることになった当社からすると、当時、御社はとても“もったいない”状況にありました。というのも、ECサイトの種々データ、広告運用データ、そしてCRM等のデータを自社でお持ちだったからです。かつ、導入済みのGoogle アナリティクス 360とBigQueryも使い込んでいて、プラットフォームとしてのポテンシャルを最大限に引き出す環境が整っていました。
一色氏:もともと、私の所属するe戦略推進室というのは、データに基づき、事業本部やエリアを横断したデジタルマーケティングをすることを目的としている部署です。ですから、いつでもやれる環境は整えてきたつもりです。
五井氏:そうした背景があるので、山浦さんの提案を聞いたときにはワクワクしましたし、前進する速度が上がると直感しました。
一色氏:五井さんとは、以前、化粧品「アスタリフト」のEC事業再構築を担当していた際にも二人三脚の取り組みをしてきたのですが、そのときから、かなりスピード感は意識していました。また、社外の方と組むなら、我々よりも情報感度が高く、先進的な提案ができる方に限ると思っていました。
山浦氏:私としても、受け身のサポートをするのではなく、データと組織をつないだ強固なパートナーシップに参画し、成果に結びつけたいという思いがあって提案をさせていただきました。
一色氏:あの提案には驚きました。我々には、会員様に対して広告でリテンションをかけるという発想がなかったからです。しかし、何らかの理由でメールマガジンが届かなくなってしまっているお客様にDMを送って態度変容を促すという実績があったので、すぐに実行に移すことにしました。

データ分析時、すぐに感じた手応え
山浦氏:具体的に行ったのは、過去2年分の、すでにBigQueryへエクスポートし蓄積されていたFotonoma会員の購入実績をもとにしたLTV(Life Time Value)分析と、購入実績ベースでの会員ランク分けに基づいた、キャンペーンターゲティングのための元データ作成です。メルマガ読者のパーミッションの有無も考慮しています。こうしてBigQueryを活用して作成した分析データをGoogle アナリティクス 360へインポートし、リマーケティングキャンペーン用のユーザーリストを作成、AdWordsによる広告メッセージの出し分けを実施しました。この過程で、富士フイルム様のマーケターが今回のプロセスで非常に重要なLTV分析を自社でされていることは大きなポイントです。
一色氏:どういうデータが欲しいのか、どう分析したいのかを一番わかっているのはマーケターなので、まずは自力で、もし難しければ誰かの手を借りるというスタンスを取っています。担当したマーケターは、分析の途中ですでにかなりの手応えを感じていたようです。
山浦氏:その分析を受けて、どのように広告メッセージを出し分けるかなど、キャンペーンの設計を行ったのが五井さんのチームでしたね。年賀状キャンペーンには動かせないタイムリミットがあるので、ご苦労もあったと思います。
五井氏:年賀状はその年最後の最大のイベントでもありますし、関係部署とよく議論した上で、ここで結果が出れば他の案件にも必ず展開できると考えて設計したのですが、実際に運用をスタートさせてみると、すぐに手応えが得られました。
山浦氏:具体的には、約1カ月間のキャンペーンにより、CVRは最大で21.4倍、ROASは最大13.8倍にまでなりました。環境と体制が整っていたこともあり成功を期待してはいましたが、それを上回る結果に驚きましたし、新しい可能性を知りえてうれしく思っています。
一色氏:年賀状を出す人が年々減る中、追加料金が必要な写真年賀状を前年よりも多くの方に選んでもらうことは高いハードルなので、この成果は社内でも評価され、いい事例になりました。また、今回構築したプラットフォームは、Googleの多くのサービスがそうであるように、ユーザー目線になっています。そこが、市場を見てビジネスを展開したい、一人ひとりのお客様に合わせた運用をできるだけタイムラグのない形で進めたいという我々の考えと、うまくフィットしたと感じています。
五井氏:Google アナリティクス 360を使うと関係者間の認識のブレがなくなるという話は担当者ともよくしています。リアルタイムの数字を見て判断し、すぐに行動に移せるからです。リカバリーについても同様です。今回我々は、技術を熟知し何と何を組み合わせたら何ができるのかは理解しておく必要があると改めて実感しましたし、山浦さんのようなスペシャリストと連携すること、また、一色さんのようなクライアントに適切な判断をしてもらうことの重要性も強く感じました。

富士フイルム
e戦略推進室
角田 旬氏
今回、データ分析と管理を担当しましたが、ユーザーの行動が多様化している中で、一気通貫で分析からアウトプットまでできるプラットフォームは有効だと思います。そういったデジタルツールを扱うときにわからないことを、現場レベルでアユダンテさんにサポートいただいたことが力強かったなと思います。

富士フイルムビジネスエキスパート
マーケティングコミュニケーション本部
第1センター コミュニケーション1グループ
佐藤 裕介氏
キャンペーン運用と管理に携わった今回の取り組みは、期待以上の結果が出たので、週1の頻度でもポジティブなレポートが書けました。今後は同じような座組みで、別のお客様にも良いものを届けるのが使命だと考えています。山浦さんのようなプロフェッショナルが多く在籍しているアユダンテさんにサポートしていただきながら進んでいきたいと思います。
成功の鍵は外部パートナーの深い理解
山浦氏:今回は年賀状という商材が対象でしたが、今後は、どのような展開をしていくご予定ですか。
一色氏:まずは、富士フイルム直販EC事業最大の商材であるフォトブック、それから、別の事業部の商品についても横展開をしていきたいです。 現場担当者からは、データを軸にお客様へのさまざまなアプローチをしたいという声が上がっています。
五井氏:これまではテレビCMが担ってきた潜在顧客層の取り込みを、今はウェブで一気通貫のマーケティングを行っているということになります。私はそこに多くの可能性を感じていて、態度変容の数値化などもできるのではないかと期待しています。
一色氏:もっと早くアユダンテさんと組んでおけば良かったなと思っています。我々のような課題を持っている企業は多いはずです。そうした企業が求めているのは、自分たちの事業課題を深く理解し、何をどう使うかを的確に提案してくれるパートナーです。そうしたパートナーがいなくては、いくら蓄積したデータやGoogle アナリティクス 360のようにいいツールがあっても使いこなせず、成果も出せません。
五井氏:まだまだ我々にはさまざまなデータがあるので、何を持っているのかの洗い出しも含め、何をどのように活用できるかを、一緒に一枚の大きな絵を描くつもりで相談しながら進められればと思っています。
山浦氏:我々も、今後もデータをつなぎいい成果を出すため、お役に立ちたいと考えています。本日はありがとうございました。
富士フイルム e戦略推進室 マネージャー
富士フイルムビジネスエキスパート マーケティングコミュニケーション本部 マネージャー
アユダンテ データソリューション推進統括部 統括部長 チーフ エグゼクティブ コンサルタント
協力/アユダンテ
https://ayudante.jp