2015年も、残すところあとわずか。この1年、さまざまな飲食店や飲食施設がオープンし、大きな注目を集めてきた。今改めて振り返ると、そこには3つの大きな流れが見える。今年1年の流れを追ってみた。
【第一のトレンド】空前の“日本初上陸”ラッシュ!
食に関する2015年最初のビッグニュースといえば、2015年2月6日、東京・清澄白河に“コーヒー界のアップル”とも呼ばれているブルーボトルコーヒーが日本初上陸したことだろう(関連記事「“コーヒー界のアップル”上陸! 「ブルーボトルコーヒー」のルーツは日本!?」)。これを口火に、さまざまな国から、話題の人気店が日本に次々とやってくる。2015年の食のトレンドを表す言葉に、「日本初上陸」を選びたいほどだ。
特に目立ったのが、ベーカリー系ショップの初出店。なかでも大きな話題になったのが2015年6月20日にオープンした、米ニューヨークのペストリーショップ「ドミニクアンセルベーカリートウキョウ」(関連記事「日本初上陸! ドミニクアンセルベーカリーの“本家クロナッツ”をミスドと徹底比較)」。またフランスのグルメ誌やグルメガイドで数々の賞を受賞し、パリ随一のブーランジェ(パン職人)と評判のクリストフ・ヴァスール氏が2015年8月21日、世界初となる“ヴィエノワズリー”専門店「リチュエル パー クリストフ・ヴァスール」を自由が丘にオープンしたことも話題となった(関連記事「パリ随一のパン職人が“菓子パン専門店”で日本初上陸!?」)。
そのほか、パリで“最高のブーランジェリー賞”を受賞した「メゾン・ランドゥメンヌ トーキョー」(関連記事「パリで“最高パン屋賞”を獲得した日本人女性のベーカリー「メゾン・ランドゥメンヌ」が日本に! 松丸アナがオーナーの石川芳美さんに直撃」)、スペイン王室御用達の老舗グルメブランド「マヨルカ」(関連記事「「二子玉川ライズ」は第2期エリアこそが“本当の姿”!?」)、オレゴン州ポートランドで行列ができるドーナツ店「カムデンズブルー☆スタードーナツ」(関連記事「松丸アナが『大人の○○』に夢中!?」)と、続々と日本初上陸を果たす。
ハプスブルク家御用達「ホーフベッカライ エーデッガー・タックス」(マーチエキュート神田万世橋/2015年9月)も日本初出店となった。
またアップルパイ専門店「グラニースミス」や焼きたてパイ専門店「リトル・パイ・ファクトリー」など、パイ専門店人気がじわじわ高まるなか、10月には世界で約60店舗を展開するオーストラリア発祥のパイ専門店「パイフェイス」が日本に初進出(関連記事「ドーナツの次はパイ専門店!? ダスキンが手がける日本初上陸「パイフェイス」の実力」)。同じく10月には、新商業施設「カスケード原宿」に、英国ロンドンで1日に1万5000個も売れているというカップケーキの専門店「ローラズ・カップケーキ」がオープン(関連記事「日本初上陸が勢ぞろい! “原宿食戦争”を激化させる新施設「カスケード原宿」とは?」)。
さらに、米国で人気の高級バーガーチェーン2店が相次いで日本初上陸したことも大きな話題となった。米国ニューヨークで大人気のオーガニックハンバーガー店「ベアバーガー(bare burger)」が2015年7月19日に、日本1号店となる「ベアバーガー 自由が丘店」をオープン(関連記事「NYで人気の高級バーガー「ベアバーガー」日本上陸、2000円以上でも人気になるか」)。3カ月後の2015年11月13日、同じくニューヨークで新しいスタイルのハンバーガーショップとして人気を集め、世界9カ国で78店舗を展開している「シェイク シャック」が1店舗目を明治神宮外苑内にオープンしている(関連記事「【体験レポ】“ハンバーガー界のスタバ”「シェイク シャック」日本初上陸」)。
メキシコ料理、シンガポール料理…新勢力も続々出店
米国では人気が高いのに、なぜか日本にはあまり浸透していなかったメキシコ料理。2015年はついに、その大本命2店が日本に出店した。1990年代前半に一度撤退しているので“再上陸”にはなるが、巨大メキシカンファストフードチェーン「タコベル」日本1号店が4月、渋谷にオープン(関連記事「日本再上陸の「タコベル」で“タコスよりうまいメニュー”を発見!?」)。メキシコ料理は苦戦するファストフード業界の“新たな黒船”になり得るのか、注目が集まった。
翌月には、オーストラリアだけでも57店舗あるというメキシカン・プレミアムファストフード「グズマン イー ゴメズ」が、「ラフォーレ原宿」内の新フードコート「GOOD MEAL MARKET」にオープン(関連記事「原宿に“プレミアムフードコート”出現!? 新感覚メキシカン、高級フレンチフライの行列店も」)。基本メニューの組み合わせだけでも56種類、本国のショップでは1万種類以上の組み合わせが可能だというカスタマイズの自由度、レストランの一品料理のようなクオリティで大人気となった。
また2015年はシンガポール独立50周年、2016年は日・シンガポール外交関係樹立50 周年にあたることから、シンガポールからの出店も盛んだった。シンガポール政府公認のシーフードレストラン「シンガポール・シーフード・リパブリック」や、8種類の小籠包が人気の「パラダイスダイナシティ」など、シンガポールの人気料理店がひしめく銀座に2015年2月16日オープンしたのが、シンガポールで28店舗を展開している人気カフェ「tcc」(関連記事「シンガポールの人気カフェ「tcc」が日本上陸、ウリは“何でもあり”!?」)。
ここ数年、エスニック料理店のメニューでよく見かけるようになったハイナンチキンライス(海南鶏飯)。その本家ともいえるシンガポールの専門店「ウィーナムキーハイナンチキンライス(威南記海南鶏飯)」が2015年7月28日、「田町グランパークプラザ」にオープン。(関連記事「シンガポールナンバーワンの「海南鶏飯」が日本上陸! “国賓をもてなすチキンライス”の実力は?」)。シンガポール人が選ぶナンバーワンであり、政府高官やセレブの間でも人気が高く、政府が正式に国賓をもてなすときにも同店のハイナンチキンライスが振る舞われていることから、オープン早々人気を集めた。2015年10月には早くも銀座に2号店を出店している(関連記事「生まれ変わった銀座「ニューメルサ」は“個性派雑貨店”が大集合!」)。
【第二のトレンド】”食の原宿戦争”が勃発!?
これまで食の選択肢があまり豊富とはいえなかった原宿エリアに食をメインにした商業施設が相次いで開業。“食の原宿戦争”勃発の様相を呈している。
まず2015年3月に、渋谷と表参道をつなぐ明治通り沿いに新施設「キュープラザ原宿」がオープン(関連記事「原宿の真ん中に“朝食ビル”!? テラス席も豊富な商業施設「キュープラザ原宿」」)。アパレル「センスオブプレイス バイ アーバンリサーチ」初のレストラン併設ショップのほか、スペースシャワーネットワークのカフェ「AREA-Q」やポートランド発の老舗パンケーキ店「オリジナル パンケーキハウス」など、飲食店11店舗が出店。また目玉焼きボウルなど朝食の新しい楽しみ方を提案する「グッドモーニングカフェ&グリル キュウリ」(3階)、スムージーやアサイーボウルなど健康的な朝食メニューが充実しているハワイアン・カフェ&ダイニング「アロハテーブル」(3階)など、朝食を充実させる店が目立ったのが特徴的だった。
4月には、原宿のランドマーク的な商業ビル「ラフォーレ原宿」に「ヘルシー」「トレンド」をキーワードにした新感覚のフードコート「GOOD MEAL MARKET」がオープン。日本初上陸のメキシカン・プレミアムファストフード「グズマン イー ゴメズ」、天然のハチミツが詰まったハチの巣(コムハニー)など自然素材で作ったオーガニック・アイスクリーム専門店「ミルクカウ」、行列が絶えないフレンチフライ専門店「アンド ザ フリット」(関連記事「「ポテサラ専門店」に男が殺到!? “高級フレンチフライ店”にも行列の理由」)の3店。
さらに10月には商業施設「カスケード原宿」がオープン(関連記事「日本初上陸が勢ぞろい! “原宿食戦争”を激化させる新施設「カスケード原宿」とは?」)。 7店舗中、3店舗が日本初上陸の人気店(英国ロンドンで1日に1万5000個も売れているというカップケーキ専門店「ローラズ・カップケーキ」、台湾・中国を中心に世界で650店舗を展開している人気カフェチェーンの新業態店「彩茶房(さいさぼう)」、行列の習慣がないイタリアで行列の絶えないピザ店「スポンティーニ」)。さらに本格メキシコ料理店「ラス ドス カラス- モダンメキシカーノ イ タコス」を含む4店など、エッジの効いた飲食店がそろった。
【第三のトレンド】有名チェーンの“ボーダーレス”新業態が続々
大手チェーン店の新業態店も多かった。なかでも目立ったのが、従来の業態の幅を広げて顧客層の拡大を狙った“ボーダーレス化”だ。
その代表が、回転ずし最大手「あきんどスシロー」(大阪府吹田市)が1月に出店した回らないすし店「ツマミグイ」(関連記事「スシローの回らないすし店「ツマミグイ」に潜入! “300円おつまみ”に大満足、しかし衝撃的結末が!?」)。その名の通り、つまみに力を入れていて、1皿300円の前菜をカウンターから自由に取る形式。すしを楽しみたい客、つまみを食べながらゆっくり飲みたい客、両方の満足感を狙った。
また 「一番かるび」「焼肉きんぐ」などロードサイドを中心に全国で140店舗の焼き肉店を運営する物語コーポレーション(愛知県豊橋市)は4月、初の都心型店舗「熟成焼肉 肉源」を東京・赤坂にオープン(関連記事「郊外人気店「焼肉きんぐ」が都心に殴り込み! 新業態「肉源」は“ギャップだらけ!?”」 )。カフェとしても使え、焼肉店としてもバルとしても使える店を想定していくつものシーンに対応する空間を作り、デザートも充実させている。「利用動機はひとつでも多いほうがいい。残業帰りに、ひとりでちょっとだけ焼き肉をつまんでビールを飲んでから帰る、そういう使い方も都心型の焼き肉店では需要があるのでは」(物語コーポレーションの加治幸夫社長)
ワタミフードシステムズ(東京都大田区)は9月、日本籍船が漁獲した天然マグロを提供する居酒屋「ニッポンまぐろ漁業団」を東京・新橋にオープン(関連記事「ワタミの新戦略、サントリーとコラボした“マグロ特化型総合居酒屋”とは?」)。マグロの赤身からトロ、希少な脳天やカマまでをひと皿で味わえる6種類の部位の刺身盛り合わせ「まぐろ尽くし」、魚を横からスライスし、赤身、中トロ、大トロ、幻といわれる砂ずりまで、一枚の切り身で全て味わえる「ミナミまぐろ断面切り一枚刺し」など、他では食べられないメニューを揃えている。総合居酒屋離れが進むなか、ワタミの持ち味である総合居酒屋の文化も残しつつ、特色を出す必要に迫られた同社が、「専門性のある総合居酒屋」というボーダーレスな業態を目指し、行きついたのが同店というわけだ。
新施設やリニューアル施設で飲食店が充実してきたのは、人々の消費がファッションやモノよりも生活、特に食に向かっている表れだろう。「利用者のライフスタイル全体や1日の過ごし方、施設に立ち寄っていただくための利用シーンなどを検討した結果、飲食・カフェ・サービス・雑貨など、必然的にアパレル以外の構成が高くなった」(「渋谷モディ」を担当したエイムクリエイツ 空間プロデュース事業本部 チーフディレクターの三木聡子氏)という言葉にもそのことが象徴されている。
(文/桑原恵美子)