紳士服大手の青山商事が2017年10月に「走れる革靴」を発売した。注目はブリヂストンが初めて手掛けた紳士革靴専用アウトソールを採用していること。タイヤ業界で圧倒的なシェアを持つブリヂストンならではの「水はけの良さ」「滑りにくさ」を売りにしている。

 “走れるビジネスシューズ”としては、登場からすでに20年以上たつアシックスの「ランウォーク」シリーズが有名だが、なぜ洋服の青山がブリヂストンと組んで走れる革靴を出したのか。

青山商事の「【外羽根式】【ブリヂストン】ストレートチップシューズ(IMBS-02)」(1万6000円)。カラーはブラックとブラウンの2色
青山商事の「【外羽根式】【ブリヂストン】ストレートチップシューズ(IMBS-02)」(1万6000円)。カラーはブラックとブラウンの2色
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滑りにくいことを分かりやすく表現したかった

 走れる革靴を担当した青山商事の若山陽一氏は、2011年3月11日に東日本大震災以降、歩ける革靴の必要性を感じていたという。スニーカーは確かに歩きやすいが、青山に来店するのはスーツを着用するビジネスパーソンが多く、どちらかというとスニーカー通勤には抵抗がある層だからだ。

 「ビジネスパーソンが抵抗なく履ける、いざというときに走りやすい革靴が必要だと考え、企画を考え続けていた」(若山氏)。同社ではスニーカー感覚のビジネスシューズすでにあり、履きやすいと顧客に好評だった。しかし、革靴で歩いたり走ったりすると滑りやすいというイメージは根強かったという。そこで「分かりやすくメリットを感じてもらえるように、クルマに使われるタイヤの技術を採用できないかと考えた」(若山氏)。そこでブリヂストンに協力を依頼したのが2015年のことだ。

 開発にあたってブリヂストンには細かいオーダーを出さず、「技術を信頼して任せるスタンスを取った」という若山氏。とはいえアウトソールの完成までには半年を要した。「分厚くならないように、なおかつ歩きやすくするためのソールの素材の配合に苦労したと聞いている」。詳しい素材の配合率などは非公表だが、出来上がってきたアウトソールはブリヂストンのゴム配合技術によって歩行時のグリップ力が大きく高まり、「弊社の従来商品のアウトソールに比べて湿潤路面でのグリップ力が約60%、乾燥路面でのグリップ力も約20%向上した」(若山氏)。これに役立ったのがブリヂストンのトレッドパターン(タイヤの接地面に刻んだ模様)技術。水分が外側に排水されるようなデザインになっている。

アウトソールはブリヂストンのタイヤ技術を採用。トレッドパターン(タイヤの接地面に刻んだ模様)技術とゴム配合技術により、湿潤路面でのグリップ力が約60%、乾燥路面でのグリップ力も約20%向上しているという
アウトソールはブリヂストンのタイヤ技術を採用。トレッドパターン(タイヤの接地面に刻んだ模様)技術とゴム配合技術により、湿潤路面でのグリップ力が約60%、乾燥路面でのグリップ力も約20%向上しているという
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販売は自社店舗およびインターネット通販のみ

 さらに、スーツに合う革靴というスタイルを維持するのにも苦労したという。

 「通常、歩きやすい靴にする場合、中敷きにクッションを多く使うだけでなく、足を入れる口周りにもクッションを入れるので、スニーカーに近いカジュアルなスタイルになりがち。しかし弊社のスーツはすっきりとしたスタイリッシュなものが多い。だから走れる革靴だとしても、丸みを帯びたデザインにならないように配慮した」(若山氏)。中敷きのカップインソールには低反発素材、履き口にはスポンジのクッション材を採用。履いた瞬間の足あたりはいいが、履き口部分は分厚くなっておらず、ビジネスシューズとして違和感がないデザインだ。

 また、走れるとうたうからには動きやすさ、ストレッチ性も求められる。そのためにアッパー素材には柔らかい革を使おうと考えたものの、「柔らかい革はシワなりやすい傾向があるため、シワになりにくく屈曲性のあるキップ革(生後6カ月から2年以内の牛の革)を使用することにした」(同)という。

シワになりにくく屈曲性のあるキップ革を使っている
シワになりにくく屈曲性のあるキップ革を使っている
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 ちなみに、この商品は基本的には青山の店舗およびネット通販でしか購入できない。これはそもそも、同社が靴を販売するようになった経緯が関係している。

 「スーツを購入する際、ネクタイやワイシャツはもちろんのこと、靴までトータルで購入したいという顧客は多い。わざわざ靴を持ってスーツを買いに行くという人は少ない」(若山氏)。このため同社では以前から他社製品も含め、スーツに合わせる靴を店頭で薦められるようにしてきた。その選択肢の一つとして、同社が開発するシューズを提案することになったわけだ。

 「スーツに動きやすさを求める人は、靴にも動きやすさを求める傾向がある。しかもそれが革靴であれば、よりスタイリッシュなコーディネートができる。他社にも優れた製品はあるが、価格面でバランスが取れたものを提供したいと考えた」(同)。たしかに1万6000円とビジネスシューズとしては手ごろだ。

 では走れる革靴は、どれくらいの売り上げを見込んでいるのか。実は8万足(ブラックが6万足、ブラウンが2万足)とやや控えめな印象。なにしろ同社の店舗は洋服の青山だけで813店舗あるのだ。しかし「コストとのバランスで、今回の数になった」と若山氏。

 次のシリーズも予定しているという。「12月には早稲田大学スポーツ科学学術院との産学連携で開発したインソールを採用した、歩きやすいビジネスシューズを発売する。スポーツ性能を持っていても、あくまでもスーツにコーディネートできてこそ。履き心地とスタイルを両立させる製品を今後も出していきたい」(同)。

 同社としては、話題性のある靴をきっかけに店舗を訪れたビジネスパーソンにスーツやシャツまで買ってもらいたいのが本音だろう。靴をきっかけにしたトータルコーディネート販売戦略は今後も続いていきそうだ。

(文/山田真弓)