販売は自社店舗およびインターネット通販のみ

 さらに、スーツに合う革靴というスタイルを維持するのにも苦労したという。

 「通常、歩きやすい靴にする場合、中敷きにクッションを多く使うだけでなく、足を入れる口周りにもクッションを入れるので、スニーカーに近いカジュアルなスタイルになりがち。しかし弊社のスーツはすっきりとしたスタイリッシュなものが多い。だから走れる革靴だとしても、丸みを帯びたデザインにならないように配慮した」(若山氏)。中敷きのカップインソールには低反発素材、履き口にはスポンジのクッション材を採用。履いた瞬間の足あたりはいいが、履き口部分は分厚くなっておらず、ビジネスシューズとして違和感がないデザインだ。

 また、走れるとうたうからには動きやすさ、ストレッチ性も求められる。そのためにアッパー素材には柔らかい革を使おうと考えたものの、「柔らかい革はシワなりやすい傾向があるため、シワになりにくく屈曲性のあるキップ革(生後6カ月から2年以内の牛の革)を使用することにした」(同)という。

シワになりにくく屈曲性のあるキップ革を使っている
シワになりにくく屈曲性のあるキップ革を使っている
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 ちなみに、この商品は基本的には青山の店舗およびネット通販でしか購入できない。これはそもそも、同社が靴を販売するようになった経緯が関係している。

 「スーツを購入する際、ネクタイやワイシャツはもちろんのこと、靴までトータルで購入したいという顧客は多い。わざわざ靴を持ってスーツを買いに行くという人は少ない」(若山氏)。このため同社では以前から他社製品も含め、スーツに合わせる靴を店頭で薦められるようにしてきた。その選択肢の一つとして、同社が開発するシューズを提案することになったわけだ。

 「スーツに動きやすさを求める人は、靴にも動きやすさを求める傾向がある。しかもそれが革靴であれば、よりスタイリッシュなコーディネートができる。他社にも優れた製品はあるが、価格面でバランスが取れたものを提供したいと考えた」(同)。たしかに1万6000円とビジネスシューズとしては手ごろだ。

 では走れる革靴は、どれくらいの売り上げを見込んでいるのか。実は8万足(ブラックが6万足、ブラウンが2万足)とやや控えめな印象。なにしろ同社の店舗は洋服の青山だけで813店舗あるのだ。しかし「コストとのバランスで、今回の数になった」と若山氏。

 次のシリーズも予定しているという。「12月には早稲田大学スポーツ科学学術院との産学連携で開発したインソールを採用した、歩きやすいビジネスシューズを発売する。スポーツ性能を持っていても、あくまでもスーツにコーディネートできてこそ。履き心地とスタイルを両立させる製品を今後も出していきたい」(同)。

 同社としては、話題性のある靴をきっかけに店舗を訪れたビジネスパーソンにスーツやシャツまで買ってもらいたいのが本音だろう。靴をきっかけにしたトータルコーディネート販売戦略は今後も続いていきそうだ。

(文/山田真弓)