家電メーカーの新たなる挑戦が始まった

 続いてのセッションは、「家電を変えるイノベーションとは?」がテーマ。登壇したのは、パナソニックから古長亮二氏、ハイアール アジアから永井千絵氏、セレボから岩佐琢磨氏。デジタル家電や白物家電で、ヒット商品を生み出すために必要なイノベーションについて、熱い議論が交わされた。

製品づくりにおけるニーズの捉え方

 パネルディスカッションの冒頭、新たなヒットを生み出すためにはどのように消費者のニーズを捉えていくのかについて話し合われた。パナソニックがシニアの「目利き世代」向けに2014年から展開している家電シリーズ「Jコンセプト」が生まれた背景には、モノづくりに対する姿勢と、消費者ニーズの変化があったと古長氏は話す。

パナソニック アプライアンス社 日本地域コンシューマーマーケティング部門 コンシューマーマーケティング ジャパン本部 コミュニケーション部 プランニング課 担当課長 古長亮二氏
パナソニック アプライアンス社 日本地域コンシューマーマーケティング部門 コンシューマーマーケティング ジャパン本部 コミュニケーション部 プランニング課 担当課長 古長亮二氏
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 「Jコンセプトに向けた取り組みがスタートした2011年、12年は、パナソニックにとって大変苦しい時期でした。日本のメーカーとして消費者の暮らしに寄り添ってきたつもりでしたが、『間違っていたのでは?』と自分たちのモノづくりの姿勢を見直すきっかけとなったのです。さらに生活経験が豊富でモノに対する意識が高く、住空間や食にもこだわりを持つ『目利き世代』の上質な暮らしを求めるニーズに対応した製品を生み出す必要性が議論されました」(古長氏)

 消費者の変化に合わせた新しい視点で製品づくりに取り組む必要性を感じ、購買力を持つ「目利き世代」に着目したパナソニック。とはいえ、「Jコンセプト」のスタンスは従来とは少し違う。ターゲットにとって必要な機能を磨き上げるモノづくりとなっているからだ。

 「多機能ではなく高機能であることを心がけています。Jコンセプトシリーズを生み出すために、私たちは3万人以上のお客様の声を聞き、約2年の月日をかけて商品開発をしました。「目利き世代」の方の多くは家電製品に対し、暮らしの質を高める本質的機能や使いやすさを求めています。掃除機は吸引力ではなく軽さを重視、冷蔵庫は主流である6ドアから使いやすさを重視した4ドアを採用するなど、お客様のニーズに合わせ、製品を一から徹底的に見直しました。自分たちの暮らしに役立つ高機能なもの、また使い勝手の良いものが欲しいという消費者ニーズに真摯に耳を傾け、その悩みごとを解決するというモノづくりの原点に戻ることで、ターゲットの方々の共感を得られたのだと思います」(古長氏)

セレボ 代表取締役CEO 岩佐琢磨氏
セレボ 代表取締役CEO 岩佐琢磨氏
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 ニーズの捉え方は企業によって大きく異なる。セレボはあえて製品づくりにニーズを取り入れないというスタンスを取っているという。

 「大手メーカーは、(今ある製品からの)足し算引き算で考えることが多いと思いますが、当社はスタートアップ企業ということもあり、正直なところ消費者のニーズという言葉・観点はあまり考えていません。私たちが勝負するのはニッチな製品。世界中調べても、これまで見たことも聞いたこともない製品を作っています。なんだか面白そう、それだけです。私たちのようなスタートアップ企業は手堅く勝負してはいけない。それよりも、今ないものをつくり出すのが私たちのやり方。もっと言えば、マーケティングリサーチも行っていません。なんとなくいけそうだから作る。速いスピードでつくり、世に放ち、テストしてデータを取る。この繰り返しです」(岩佐氏)

ハイアール アジア アクア コールドチェーン カンパニー ニュープロダクツグループ マネージャー 永井千絵氏
ハイアール アジア アクア コールドチェーン カンパニー ニュープロダクツグループ マネージャー 永井千絵氏
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 ハイアール アジアは、既成概念を打ち破るという言葉がふさわしい「R2-D2移動式冷蔵庫」を発表した。さらに来年には冷蔵庫を再定義しようと挑戦している。

 「来年、大型液晶パネルがついた冷蔵庫AQUADIGIを発売予定ですが、家の中で24時間通電している家電は冷蔵庫のみだという点に注目しました。ここをコミュニケーションプラットフォームにすることで、冷蔵庫の新しい使い方が生まれるのではないか。例えば、離れて暮らしている家族がいるとして、気になるけど毎日は電話できない。そんなとき、冷蔵庫のドア開閉の記録が携帯に届くとします。『今日も行動している』という安心感につながりますよね。今までの冷蔵庫は、容量や消費電力、機能ばかりを問われていました。でも、AQUADIGIに関して、こうした質問はあまり受けません。『何ができるんですか?』と聞かれます。これまでの視点と全く違う製品として、新たな産業革命を起こせる製品だと自負しています」(永井氏)

モノづくりのスタイルが変わってきている?

 IoT(モノのインターネット)などインターネット関連技術の進化のスピードが速まるとともに、製品開発のスピードの重要度も高まっている。セレボは、社内に「スピード、スピード、スピード&スピード」というスローガンを掲げている。そのスピード感は、他社とのコラボでも生きているという。

 「(ほかの企業とのコラボでは)お互いの企業にとって、できるところ・できないところを持ち寄りましょう、というのが私たちのアプローチです。大手メーカーが『製品にしたとき売れるのかなぁ』と悩んでいたとします。そこに『私たちはゼロからつくり、市場に送り込み、データを集約できるのでご一緒しましょう』というスタンスで、しかも通常2~3年かかるところを、1年以内というスピード感を持って取り組んだりします。従来できないことをできるようになるメリットがあります。当社としては大企業のリソースを使わせてもらえるのでラッキーという面もありますしね」(岩佐氏)

三社三様の意見に耳を傾ける参加者
三社三様の意見に耳を傾ける参加者
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 ハイアール アジアの製品開発においても、スピードは重要視されている。

 「ハイアール アジアは、三洋電機の白物家電部門を引き継ぎました。体制そのままを引き継いだのですが、当初14段階の役職があったんです。これだけチェック体制があると、特異な製品も角がとれて丸くなります。この体制を、今は4段階にまで減らしました。できるだけ判断する部署を少なくすることで、開発者の意図をそのまま市場に送り込みたいと考えています」(永井氏)

 パナソニックのJコンセプトは、調査に2年もかけるなど慎重に開発を進めてきたが、これまでにない製品開発ということで高いモチベーションで取り組めたという。

 「日本の暮らしを支えてきたメーカーとしてのプライドと責任感が当社には存在します。当社のイノベーションは、Jコンセプトで消費者のニーズをきちんと捉え直したという点に尽きますね。消費者から約96%の満足度をいただいているJコンセプトシリーズですが、裏を返せば、これまで不満足を感じていたということで、そこは猛烈に反省しなくてはいけない。モノづくりの原点に立ち返り、これからもお客様の声に耳を傾けて、日本の暮らしを変えていきたいですね」(古長氏)

家電メーカーのビジネスモデルはどう変わっていくか

 業界全体での新しいビジネスモデルについて、岩佐氏は全く新しい可能性を示した。

 「プロバイダー(通信業者)が家電業界に参入する時代がくるかもしれません。『最新家電を無料で差し上げるから、その代わり当社の回線を使ってください』という具合に。これからの時代、変革がどこで生まれるか全く分かりません。のんびりしていると、メーカーはあっという間に足元をすくわれる時代がきていますよ」(岩佐氏)

 IoT時代を迎えてパナソニックの古長氏は「責任」という言葉を再び使って決意を新たにした。

 「パナソニックも今後、IoTを活用した展開にもチャレンジしたいと考えています。企業ごとにいろいろな役割がありますが、当社にはさまざまな商品やサービスを通じ、『暮らし視点』で普及に向けた大きな責任があるとも感じています」(古長氏)

 ハイアール アジアの永井氏は、これからのメーカーのあり方について、独自の見解を示した。

 「これからの時代は消費者にとってメーカーは関係なくなるかもしれません。製品が消費者の要望をどこまで満たしてくれるのかが大切ということです。メーカーや業界の垣根を越えて、いろいろな場所でいろいろなモノがIoTでつながるというのが、これからの時代は重要だと感じますね。ただし、IoTはあくまでも手段であって目的ではないことを忘れてはいけません」(永井氏)

 消費者にとって家電の可能性が広がるのは大歓迎だろう。これからの時代の製品は、特定の機能を持っているだけではなく、生活の中に入り込む“展開方法”をいかに持っているかが、重要なポイントといえる。家電の進化にこれからも注目していきたい。

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