「生活(消費)が変わるトレンド&イノベーション」をテーマに東京・秋葉原で開催された「TRENDY EXPO TOKYO 2015」。初日11月20日のメイン企画である基調講演にC Channel代表取締役社長・森川亮氏とロボ・ガレージ代表取締役社長・高橋智隆氏が登壇し、満員の会場を沸かせた。

【森川氏】事業テーマはコミュニケーション

 森川氏は「動画メディアを変える!イノベーションを起こす思考法」をテーマに、スピーディーな現代社会における企業文化のあり方やマネジメントの方法などの講演を行った。

基調講演の第1部に登壇した森川亮氏
基調講演の第1部に登壇した森川亮氏
[画像のクリックで拡大表示]

 日本テレビ、ソニーを経て、2003年にハンゲーム・ジャパン(現Line)に入社した森川氏。ソーシャルゲームの事業部長を任されて、赤字スタートだった事業部を3年で80億円の黒字転換に成功。その後、同社代表取締役に就任し、「NAVER まとめ」の検索事業などを展開した中で、森川氏がテーマとして掲げたのは“人と人が教えあうキュレーションサービス”だという。Lineの商号変更前の企業名・NHN JapanのNHNは、“next human network”の略であり、新しい領域を人と人のコミュニケーションで作り上げてきた。そのコミュニケーションツールの一つとしてヒットしたのが、Lineサービスだ。

変化が嫌いな日本人

 企業文化を考える上で、森川氏は「日本人の働き方・考え方は特殊」だと語る。

 「日本人は変化が嫌いです。頭では分かっているが、行動に移すことができない。背景には、文化が影響していると考えます。日本は世界と比べて、歴史上の変化が少ない国です。世界は戦争や侵略、言語の変更など、変わらないと存続できない場面に数多く遭遇しています。世界のことわざを見ると、変化の教えが多いのに対し、日本は不変の教えが多い。育った環境も影響しているのでしょう」

 現在では、世界の動きについていくために、変化は必要不可欠のものになっている。森川氏はそんな状況について「変化に加速度がついている」と表現する。

 「インターネットやソーシャルの普及に伴い、伝達した情報の陳腐化が速まっています。変化のスピードが垂直的に上がっているんですね。コンピュータに代わるものが出ない限り、変化の加速度が弱まることはありません。ヒット商品を生み出すためには、変化の兆しをとらえる感覚が必要であり、加速度が増す世界で生きていく術を身につけないと、マネジメントはうまくいきません」

イノベーションを起こすマネジメント方法

 森川氏はヒットを生み出す組織を作るために、大胆な組織改革を行った。

 「今の世の中、会社はヒット商品を生み出し続けなければ倒産します。しかも、1の商品を1.1、1.2といった小刻みな変化ではなく、一気に3や5といった展開を見せないと、他社に軽々と追い抜かれてしまう。スピーディーにヒット商品を生み出す組織を作るために、評価制度を抜本的に見直しました。360度評価制度を導入し、その人は会社にとって必要か不必要かを洗い出します。必要のない社員は、いくら目標が高くても、現時点では必要のない社員でしかないのです。現代社会で伸びる人材とは、自らの意思で仕事を決定し、行動する人物です。世界のマネジメントの主流は“サッカー型”経営。経営者や上司の指示はある程度にとどめ、意思決定は社員自らが行う。社員一人ひとりがフレキシブルな行動を取れる企業こそ、ヒット商品を生み出す体制が整っている企業といえます」

動画メディアに本格参入

 映像業界にイノベーションを起こすことが、2015年4月に立ち上げたC Channelの事業展望であると述べる森川氏。

 「スマートフォンで撮影し、編集を行い、自ら配信する時代が来ています。私が取り組んでいるのは、映像業界のファストファッション化。今の映像業界は、出演者・制作者・配信者が全員異なりますが、優秀な一人が全てを行うことができれば、コスト・制作期間に大幅な変革が起こります。C Channelが目指すのは、日本発のメディアブランドです。ここに日本の商品、ブランド、タレントを乗せて、世界に発信していくのです」

 メディア業界が激動の時代を迎えている今、さまざまなイノベーションを起こしてきた森川氏が、本格的に動画メディアに参入した。これまでにない全く新しいコミュニケーション領域を確立させようとする森川氏とC Channelの動きから、今後も目が離せない。

ほぼ満員となった会場で、ヒット商品を生むためのイノベーションについて講演する森川氏
ほぼ満員となった会場で、ヒット商品を生むためのイノベーションについて講演する森川氏
[画像のクリックで拡大表示]

【高橋氏】ロボットとのコミュニケーション

 ロボ・ガレージ 高橋氏の講演のテーマは「ロボットが作る未来、そして消費」。ロボットと人が共生する未来と、ロボットと人が会話することで生まれる新しいサービスについて明らかにした。

基調講演の第2部には、ロボットクリエーターである高橋氏が登壇
基調講演の第2部には、ロボットクリエーターである高橋氏が登壇
[画像のクリックで拡大表示]

 2003年京都大学工学部卒業と同時に「ロボ・ガレージ」を創業した高橋氏。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定。2013年、コミュニケーションロボット「キロボ」を世界で初めて宇宙に送り込むことに成功するなど、ロボット業界の第一人者として活躍を続ける。世界中の企業が次々とロボット業界に参入している中、高橋氏は“一人”でロボットとのコミュニケーションに注力した企画・開発を手掛け、イノベーションを起こし続けている。

 「私がロボットに目覚めたのは、鉄腕アトムを見てロボットの科学者になりたいと思ったことがきっかけでした。大学卒業と同時にロボ・ガレージを設立したのですが、社員は私一人のままです。ロボットの企画から、デザイン・設計・制作まですべて一人で行っています。それには理由があって、大勢でワイワイと作ってしまうと、角が取れて平均的なロボットになってしまうんですね。私はロボットに平均はいらないと考えています。もちろん、私一人ですべてを担うことはできません。コンセプト、デザイン、キャラクターについて専門家の意見を聞き、最終決定を私が行っています。一人で行っているからこそ、さまざまな専門家と造詣を深める機会を多く持つことができ、密な関係性をもってロボット制作に取り組めていると考えています」

スマートフォンに代わるプラットフォームの存在

 高橋氏はロボットの未来について「新しいハードウエア・プラットフォーム」にしたいと語る。

 「人がロボットに夢見たのは、ロボットが個人の生活パターンを情報収集してベストな生活リズムを教えてくれたり、家電製品をコントロールしたり、防犯に役立ってくれたりと、ロボットを介した(理想の)世界のことでしょう。でも、これらはスマートフォンで代用できています。そんなスマートフォンの機能で唯一支持されていないのは音声認識。ペットやクマのぬいぐるみに話しかけることはあっても、スマートフォンに話しかける人はまだまだ少ないのが現状です。音声認識を普及させるためには擬人化が必要で、この担い手にロボットは最適な存在といえるでしょう。ロボットを一人一台持つ世界を本気で目指したい。というわけで、実は作ってしまいました」

 そう言って、高橋氏はロボット型携帯電話「ロボホン」を取り出した。シャープと共同開発を行い、来年発売する予定だ。近い将来、本当にロボットは私たちの身近な存在になるのかもしれない。

ユニークな選択することで、新しい発見が生まれる

シャープと共同開発した「ロボホン」のデモも行った高橋氏
シャープと共同開発した「ロボホン」のデモも行った高橋氏
[画像のクリックで拡大表示]

 高橋氏は、「ロボットを普及させるデザイン」について次のように語る。

 「消費者は、飛躍しすぎた未来にはついてきません。普及のステップを丁寧に踏むことで、次第に私たちの世界に当たり前なものとして浸透していきます。例えば、電気自動車を認識してもらうために、ハイブリッドカーというステップを踏みました。今でこそ人気のお掃除ロボットは、初めはおもちゃとして販売されたのです。『おもちゃにしてはキチンと掃除してくれるね』と消費者の心をつかみ、やがて十数万円の価格で家庭に浸透していきました。機能を評価する商品やサービスとは別に、最近流行っているYouTubeやLineといったサービスは、遊びが評価されて世の中に浸透していきました。面白いねという感覚が広まり、後から使い方が構築されていったのです。ロボットは、後者の浸透の仕方がいいのではないかと考えています。何か面白いよね、と認識してもらううちに、用途がはっきり定着する。携帯電話ショップで、ロボット型携帯電話を売っていたら、ぜひ買ってみてください。使いにくいかもしれないけれど、世の中に新しい何かが浸透していくかもしれません。もちろん、みなさんの生活にも、ロボットが新しい発見を生み出してくれるかもしれません」

 ロボットの新しい価値を提供し続ける高橋氏。スマートフォンに代わる新しいハードが見られる時代は、すぐそばに来ているのかもしれない。ロボットとの新しい生活を築くのは、消費者である私たちの“興味”も大きな要素となりそうだ。

(文/福井智宏、写真/中村宏)

この記事をいいね!する