多様化でファン争奪戦に臨むアイドル

 多数のアイドルグループが誕生し、それぞれがファン獲得を狙う。そうなれば重要になってくるのは、他のアイドルとの差異化だ。個性を打ち出そうとするからアイドルの多様化が進む。AKB48のような“王道アイドル”は依然アイドルピラミッドの頂点に君臨しているが、アイドル界全体を見わたすと、音楽性や演じるスタイルがかつてないほど多様化しているのが、今のアイドルシーンなのだ。これは、ファンの嗜好性の多様化という状況にもマッチした流れといえるだろう。

 楽曲的には、ヘビーメタルやハードロック、EDMとさまざまなジャンルを取り込んだアイドルが世に出始めている。メタルに真正面から取り組み成功を収めた「BABYMETAL」を筆頭に、エモーショナルなパンクスタイルで急成長中の「BiSH」、ラウドロックとEDMを取り込み熱狂的なファンが多い「PassCode」、実力派アーティストによる多様性のあるサウンドでファンを惹き付ける「sora tob sakana」、ロコドル(地方を拠点とするアイドル)ながらTIF 2015でロックファンの話題をさらった「大阪☆春夏秋冬」など、多様なスタイルが出現している。いずれもアイドルというスタイルを崩さずに音楽性を高めて差異化に臨む、アーティスト路線とは一線を画したアイドルの王道で新戦国時代に挑むアイドルたちだ。

「新戦国時代」アイドルたちのファン獲得競争(画像)
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「新戦国時代」アイドルたちのファン獲得競争(画像)
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パンクスタイルで急成長中の「BiSH」(左)とロックファンから話題の「大阪☆春夏秋冬」。いずれも@JAM EXPO 2016のステージ

 演じる設定自体も多様化している。CA(キャビンアテンダント)をモチーフにした「PASSPO☆」は以前(2009年に活動開始)より“職業設定型アイドル”としてファンの間ではよく知られている。一方、新しいグループとして、例えば「オトメブレイヴ」というグループはRPG(ロールプレイングゲーム)を活動のスタイルに取り入れ、ライブ動員によってレベルが上がり楽曲や衣装を得られるというゲーム好きに共感されやすい“設定”を持ち込んだ。また、“魔法”をテーマにして全員が魔法学校の生徒という設定の「マジカル・パンチライン」や、サバイバルゲームやミリタリー要素と女子校を組み合わせた「転校少女歌撃団」、海賊をテーマに衣装をはじめ楽曲から特典会まで海賊色で染める「スマイル海賊団」、「歌って踊って釣りのできるアイドル」として釣りをテーマにした「つりビット」など、さまざまな設定のアイドルたちを俯瞰するだけでも楽しい。

 “アイドル”という既成概念そのものを打破しようとするグループも現れた。「生ハムと焼うどん(生うどん)」は、女子高校生(現在はすでに卒業)でありながらマシンガントークと客いじりを武器に、従来のように“歌って踊る”だけではなく、お笑い顔負けの寸劇を行うアイドルとして注目を浴びている。さらにセルフプロデュースということで、どこの事務所にも所属せずに3000人規模のライブ(10月21日のTOKYO DOME CITY HALLでの3rdワンマンライブ)を成功させるなど、運営自体も型破りといえるだろう。

 後編では、こうした新戦国時代に適応すべく多様に進化したアイドルたちが描くビジネス・シナリオを探る。

(文/野崎勝弘=メディアリード)