昔からスーツをあつらえることは紳士のステータスだ。それなりに時間がかかり、費用も高額なので、経済的に余裕のある企業社長やエリートビジネスパーソンなど「デキる男の象徴」といった感がある。しかし、2016年に入ってから紳士服量販店が次々と20~30代向けのオーダーシステムを展開し、ハードルはぐっと低くなった。

 青山商事は銀座に「UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE'S(ユニバーサル ランゲージ メジャーズ)」を、AOKIも11月からタブレット端末を用いた新オーダーシステム「AOKI OASYS」を開始した。かなり簡素化されてはいるが、ユニクロもセミオーダー感覚のジャケットを発売している。そんななか注目なのが、リアル店舗とスマホアプリを融合させたコナカの新ブランド「DIFFERENCE(ディファレンス)」だ。

 「ディファレンスの構想は2年ほど前から。高級ブランドとファストファッションを組み合わせるなど、ファッションで個性を出したい20~30代のビジネスパーソンをターゲットに、本物志向でありながら、短期間で手の届く価格のオーダースーツのブランドを立ち上げることはできないかとプロジェクトチームを結成しました。従来にありがちな“ハードルが高く、すべてフィッター任せ”というイメージではなく、わかりやすくて簡単、いつでもどこでも自由にオーダーできるという体験を提供したかったのです」(中嶋氏)。価格はメンズ・ウィメンズともに、3万5000 円から。生地のグレードにより5段階で設定している。

東京・表参道にオープンしたコナカの新ブランド「DIFFERENCE(ディファレンス)」
東京・表参道にオープンしたコナカの新ブランド「DIFFERENCE(ディファレンス)」
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初回はフルオーダーレベルのもてなし

 ディファレンスの店舗は、東京・表参道、紳士・婦人服専門店「ブルックスブラザーズ」などの老舗が並ぶ青山通りにオープンした。オーダースーツは、初回はこの店舗で採寸、2回目以降はスマホで簡単に発注が可能だ。

 まず、来店日時をスマホアプリ、あるいはPCから予約する。任意で自身の体形や用途などを入力し、もし細かいリクエストや好みがあれば伝えておくことも可能だ。イメージ写真なども添付できる。ショップでは、それを参考に生地やボタンの候補を用意し、来店時に効率よく提案できるように専用ボックスに入れて準備しておくのだ。

紳士服大手がオーダースーツ参入、コナカは若者を狙う(画像)
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紳士服大手がオーダースーツ参入、コナカは若者を狙う(画像)
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予約時の要望に沿って生地やボタンの候補を準備し、来店時には専用ボックスに入れて出すところは、テーラーのように特別感がある

 一般的にスーツは100以上のパーツで構成されているが、フルオーダーは採寸が細かく、仮縫いを経るために、完成するまで1~2カ月間はかかる。ディファレンスでは「ゲージ服」と呼ばれる基準となるジャケット、パンツをベースに、ジャケットであれば肩幅、胴回り、着丈、袖丈、襟幅を、パンツであればウエスト、股上、股下、ワタリ、膝幅、裾口幅を採寸し、個々の体形に合わせたスーツを最短で約2週間で完成させる。

メンズのゲージ服一例
メンズのゲージ服一例
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ウィメンズのゲージ服一例
ウィメンズのゲージ服一例
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紳士服大手がオーダースーツ参入、コナカは若者を狙う(画像)
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紳士服大手がオーダースーツ参入、コナカは若者を狙う(画像)
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初回のオーダーでは、メンズの場合、ジャケットであれば肩幅、胴回り、着丈、袖丈、襟幅を採寸し、ゲージ服を試着した後でリクエストに合わせて形を決めていく。筆者が体験したが、ウィメンズの場合は採寸方法が少し異なる

 ジャケットは「スクエア(ブリティッシュスタイル)」「ラウンド(イタリアンテイスト)」の2種から選び、表地、裏地、ボタンを決めていく。「あえて2種類に絞って選びやすくした」(中嶋氏)という。カスタムオーダーとはいえ、一着作るとなるとカウンセリング、採寸を含め、初回はどうしても90~120分ほど要する。しかし、2回目からはスマホアプリで注文できるので、大幅な時間の節約にもなるというわけだ。

スマホアプリでスーツをDIY

紳士服大手がオーダースーツ参入、コナカは若者を狙う(画像)
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紳士服大手がオーダースーツ参入、コナカは若者を狙う(画像)
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スマホアプリでのオーダーの一例。初回で採寸したものが表示され、自分で微調整が可能

 2回目からの注文はスマホアプリが可能だ。スマホでは、表生地だけでも140~160種類(シーズンにより異なる)、裏地も胴裏が約40種類、袖裏が約20種類から選べる。あらかじめ自宅で生地やボタンをある程度決めておけるのは効率が良い。保存もできるので、実際の質感や肌当たりに不安があれば、空いた時間に店頭で確認すればいい。

ボタンだけでもこれだけの種類がある
ボタンだけでもこれだけの種類がある
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 表地裏地合わせて200種類以上のスーツ生地とその仕立て上がりを、アプリ上でどこまでリアルに再現するかにこだわったという。

CG で製作された生地とスーツの画像。アプリ上で生地の質感と仕上がりイメージを確認できる
CG で製作された生地とスーツの画像。アプリ上で生地の質感と仕上がりイメージを確認できる
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実際の型紙を使用してCG でスーツを再現
実際の型紙を使用してCG でスーツを再現
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 まず、実際の生地サンプルをスキャンし、CGデータを作成。実際のスーツの型紙にならって3DCGスーツを作った。CG制作チームは、スーツの作り方についてパタンナーから何度もレクチャーを受けたほか、生地の風合いや自然光の下にいるようなライティングを再現、忠実なイメージ表現が可能となったという。

 スマホでスーツをオーダーできるメリットはなんだろうか。「日常のふとした合間のスマホをのぞく時間に、裏地を決めたり、ボタンを選んだり……。そんな使い方を想定しています」(コナカ ディファレンス事業部 中嶋傑ゼネラルマネージャー)

 散々迷ってあつらえた後でも、実際に着るうちに「こうすればよかった」と思うことは往々にしてあるだろう。初回に作ったスーツの着心地をもとに、2回目からのスマホアプリオーダーでは袖丈や裾丈など微調整が可能で、その際にあまりにも無理のある寸法に修正しようとすればアラームで警告が出る設定となっているから、ついやりすぎてしまうこともない。スーツのプチDIYが可能になるわけだ。

よりパーソナルなサービスに

 オーダーシステムは店側にもメリットがある。大きなメリットのひとつとして在庫を抱えなくて済むことが挙げられる。在庫がないということは、狭い店舗スペースでも出店が可能で、将来的には駅ナカなどに展開もできる。「ビジネスマンが出張先で『新幹線に乗るまでの時間、ちょっと空いてしまった。だったらちょっとディファレンスに寄って、スマホ上では決定しきれずに迷っている生地を触ってみようか』という使い方もできます」(中嶋氏)

 今後、コナカの既存のカスタムオーダーレーベル「O・S・V」は、順次、ディファレンスに切り替えていく予定。まずは2017年2月より、銀座・新宿・横浜など7店舗がディファレンスとしてオープンする。「3~4年以内に40~50店舗まで展開していきたい」(中嶋氏)。

 カスタマイズやDIYでひと手間加えることに慣れている20~30代なら、このように自分仕様に仕立てる商品とは非常に親和性が高いように思える。洋服はサイズがしっかり合っていれば、印象は驚くほど変わり、スタイルもよく見える。しかし、きっちり標準規格体形という人はむしろ少数派。胴体のわりに手足が長い・短い、肩幅が狭い・広いなど、それぞれ悩みがあるのが普通である。デザインが素敵でも、大きすぎたり小さすぎたりすれば、清潔感がないイメージに見えることもある。スーツ姿がビシッと決まり印象が底上げされれば、ビジネスシーンでもパフォーマンスが向上するに違いない。

メンズの場合、ベルトも素材やバックルなどパーツごとにオーダーできる
メンズの場合、ベルトも素材やバックルなどパーツごとにオーダーできる
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 「空いた時間にどこででも簡単に」。スマホの長所を最大限に利用したこのオーダーシステムは、合理的でありつつも、テーラー特有のおもてなし感と高級感、気分が高揚する特別感を大切にしている。2回目からはすべてをスマホ上で完結させることも可能だが、もちろん店舗でみっちり2時間、担当とマンツーマンでオーダーすることもできる。「忙しいから90分も時間は割けないが、生地の手触りだけはショップで確認したい。10分だけ寄ってみよう」という人もいる。ディファレンスが「パーソナライズ」というテーマを掲げているように、その人に合った個々の距離で付き合える、現代型のテーラーショップなのだ。

(文/三井三奈子)