恒例の垂れ幕が下がったサロン・デュ・ショコラの会場。地階と2階で行われた
恒例の垂れ幕が下がったサロン・デュ・ショコラの会場。地階と2階で行われた
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 2015年10月28日から11月1日まで、パリ郊外、ポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場で、サロン・デュ・ショコラ(チョコレート見本市)が開催された。2015年で21回目を迎えるこのイベントは、パリの秋の風物詩のような存在。ちょうどフランスの秋休みに開催されることもあり、会場は学生や子ども連れであふれていた。

 サロン・デュ・ショコラは、世界中のチョコレートブランドやメーカー、カカオの生産者から世界のトップに立つショコラティエまでが大集合する世界的な見本市。トレンドなどチョコレートのすべてがわかると言われ、まるで“チョコレート博物館”の趣になることから毎年話題になる。

 今年のテーマは「カカオの表現力、チョコレートの革新」。20周年で特別な催しが行われて華やかだった2014年(関連記事「【paris】ドレスショーから彫刻までチョコレート尽くし? サロン・デュ・ショコラが大盛況なワケ」)と同様に、2万平方メートルの会場に、展示者、ショコラティエ、パティシエ、その他のチョコレート専門家などの参加者が全40カ国から700人も集まった。昨年と劣らぬ勢いがあり、広い会場内は甘い香りと熱気に包まれた。

明治のブース前。試食を目指す、老若男女問わず…、人だかりが絶えなかった
明治のブース前。試食を目指す、老若男女問わず…、人だかりが絶えなかった
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 今年、このサロン・デュ・ショコラに日本から初参加したのが、明治だ。“チョコレートは明治”のフレーズを知らないものはいないだろう。日本ではチョコレート市場No.1(23.8%)のシェア(2015年3月現在)を持つ明治だが、フランス、欧州ではまったくもって無名である。

 そんな状況のなかで、明治は2014年9月に発売された「ザ・チョコレート」を携えて、満を持しての参加となった。「チョコレートの本場で、我々のチョコレートがどこまで受け入れられるかを確認したいのです」。今回の参加理由について、明治の菓子商品開発部長・伊田覚氏と、菓子マーケティング部マーケティング専任課長・佐藤政宏氏は口をそろえる。

明治のブースが人だかりに! そのワケは?

 明治といえば、「きのこの山」(1975年発売)、「たけのこの里」(1979年発売)などロングヒットセラーを多く持つメーカーだ。2000年代に入って日本では海外製品がブームになり、カカオ成分の高いチョコレートが好まれ、チョコレートは大人の嗜好品になってきた。

 この時流に乗って、ビーン・トゥー・バー製法(Bean to Bar - カカオの選定、発酵方法、焙煎などの加工を通し、チョコレートがカタチになるまでを統合して作り上げる)で、カカオ成分が50%以上のザ・チョコレートを発売。明治のスタッフも自ら現地に出向き、農家の人々と直接やりとりをして、カカオの生産から管理して生み出した本格派のチョコレートである。

 「マスメーカーでは珍しく、効率ではなく手間ひまをかけて作っています。チョコレートのおいしさの7割程度は、カカオで決まるとも言われています」と佐藤氏。ザ・チョコレートは、明治チョコレートの集大成ともいえる製品なのだという。

 カカオベルトといわれる、赤道から北南20度周囲にあるべネズエラ、ブラジル、ドミニカ共和国の3カ国のカカオ産地と協力してつくりあげた、この自信作を掲げて世界のチョコレートの祭典に乗り出した明治。小さなブースだったが、目の前の他社のブースを隠してしまうほどの人だかりだった。というのも「この“ザ・チョコレート”を一枚試食して、アンケートに答えてください」というストラテジーが見事に成功したからだ。

ビデオでは明治チョコレートのカカオの産地についても触れていた
ビデオでは明治チョコレートのカカオの産地についても触れていた
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ブース内では3種類の「ザ・チョコレート」を説明付きで陳列
ブース内では3種類の「ザ・チョコレート」を説明付きで陳列
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今回発表した3種類のザ・チョコレート。左からドミニカ共和国のカカオ71%、ベネズエラのカカオ62%、ブラジルのカカオ59%が原材料。食べ比べると味の違いがはっきりわかる
今回発表した3種類のザ・チョコレート。左からドミニカ共和国のカカオ71%、ベネズエラのカカオ62%、ブラジルのカカオ59%が原材料。食べ比べると味の違いがはっきりわかる
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 実は、広いサロンの会場内は試食が余り多くなく、有名ショコラティエのブースに至っては皆無に近い。チョコレートファンにとって日本からの新作の試食なのだから、試さないではいられないだろう。また、この明治のブース内のきちんとスーツを着たスタッフの数の多さにも驚いた。今回ここに10人以上のスタッフが来ているという。ショコラティエが自ら素材を説明したり、チョコレート色のエプロンを着た販売員が即売のためほほ笑んでいるほかのブースとは一線を画した、日本のメーカーならでは隙のないぴりりとした空気も感じられた。

小さなブースには日本からスーツ姿のスタッフが多く駆けつけた
小さなブースには日本からスーツ姿のスタッフが多く駆けつけた
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「アンケートに答えていただければ、チョコレートを差し上げます」と書かれたパネルを掲げたスタッフ。十分な量の試食ができるのはサロン・デュ・ショコラでは珍しいこと。人だかりに誘われまた人が集まってくる
「アンケートに答えていただければ、チョコレートを差し上げます」と書かれたパネルを掲げたスタッフ。十分な量の試食ができるのはサロン・デュ・ショコラでは珍しいこと。人だかりに誘われまた人が集まってくる
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日本らしさではなく定番のクオリティーでの勝算は?

 明治が現在販売しているチョコレートは120種類程度。ロングヒット商品も多く、他国にはないオリジナルも豊富だ。グリコのポッキーが、ユニークなチョコレート菓子として世界中で成功したように、それらはもしかしたらフランスのチョコレート界でヒットするかもしれない。

 「サロン・デュ・ショコラ」では純粋なチョコレートだけが出品されているわけではなく、ポッキーのようなチョコレート菓子からチョコレートカステラ、チョコレートモヒート、カカオエステクリームなど、チョコレートに関するありとあらゆるものが人気を集めている。また、今年も参加数が増えた感のある日本のショコラティエたちの多くが、ユズや抹茶などの日本ならではの素材を使ったり、和菓子のような丸みを持った柔らかな形、桜をモチーフにしたものなど、日本ならではの“変化球チョコレート”を出展し、欧州では見られない美しい形、驚くような素材との絶妙な組み合わせの成功で、称賛の目が向けられ熱い注目を浴びているのだ。

 しかし、明治は日本ならではの独自性の強いチョコレートではなく、カカオ成分が高く、欧州のチョコレート業界でも定番の板状のダークチョコレートである「ザ・チョコレート」を出展し、直球勝負に出た。

 「日本独自のチョコレートではなく、世界基準のチョコレートでトライしたいのです」と話す伊田氏と佐藤氏。その自信はどこからくるのだろう。

明治の菓子マーケティンググループ専任課長、佐藤政宏氏
明治の菓子マーケティンググループ専任課長、佐藤政宏氏
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 「実は、日本では明治のチョコレートと、それよりも価格が何倍もする高級チョコレートでは、同程度の評価を得ているのです」(佐藤氏)

 ザ・チョコレートとショコラティエの高級チョコレートでは値段に大きな差がある。ザ・チョコレートは小さな板チョコ状の包みが7本、計52グラム入りで220円。ショコラティエのチョコレートはたった一粒でそれ以上の、または何倍もの値段がする。値段が抑えられるのはメーカーの強みで、ライン生産が可能であり、全国への販売が可能。ひいては世界各地への販売も可能と考えられる。

 日本でザ・チョコレートの販売を開始してまだ1年だが、確実に販売の伸びを見せ、2016年1月より2種類から3種類になる予定だ。それぞれの産地、カカオ成分率、焙煎の時間などが違い、甘みやフルーティーな感覚、香ばしさ、苦み等にオリジナル性を持たせ、チョコレートフリークの舌と心をくすぐる食べ比べの楽しさも追求している。

 「日本ならではの繊細なモノ作り、ジャパンクオリティーを見てほしい。ラーメン、ウヰスキーなど外から入って来たものを取り入れて質の高いものを作り上げることのできる日本。同じように他国から入って来て日本人の厳しい舌に対応して私たちが作りあげたチョコレートを、世界に発信していきたいのです」(佐藤氏)

 ザ・チョコレートを試食した会場の客たちは、「どこで買えるのか? 今すぐ買えるのか? と尋ねてきたり、価格についても実際の倍以上の値段を予想してくれています」と伊田氏。「それだけでなく、すでに何人かのバイヤーからの声も掛かっています」(伊田氏)

さまざまなカカオの国のコンサートやスペクタクルも、会場中心の広い舞台で開かれる。子どもたちにはチョコレートを通して他文化を知るチャンスでもある
さまざまなカカオの国のコンサートやスペクタクルも、会場中心の広い舞台で開かれる。子どもたちにはチョコレートを通して他文化を知るチャンスでもある
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大人向けも子ども向けも、チョコレート教室は大盛況! 「テクニックを学ぶというより、有名ショコラティエとチョコレートが作れることがうれしい」と参加者
大人向けも子ども向けも、チョコレート教室は大盛況! 「テクニックを学ぶというより、有名ショコラティエとチョコレートが作れることがうれしい」と参加者
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今年も、彫刻家Richard Orlinskiによるビッグなチョコレートの熊には人々の感嘆の声が上がっていた。チョコレートは「ル・ノートル」。サロン終了後には誰かが食べるのだろうか?
今年も、彫刻家Richard Orlinskiによるビッグなチョコレートの熊には人々の感嘆の声が上がっていた。チョコレートは「ル・ノートル」。サロン終了後には誰かが食べるのだろうか?
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 くしくも2016年に創業100周年を迎える明治。今後、欧州の人々に日本発の本格派チョコレートが受け入れられるのか、先行きを見守りたい。

(文/永末アコ)