ユニクロがついに、マタニティー分野に参入。全国200店以上の大型店などで、2017年8月28日からマタニティーアイテムの販売を開始した(7月24日から新生児向けアイテムも販売)。マタニティーアイテムとして発売したのは、体形の変化に伴って必要となる伸縮性の高いショーツ、おなかへの負担が少ないジーンズやレギンスパンツなど計4商品。

 マタニティーウエアは出産前のごく短期間しか着用しないので、お金はかけたくないと考える女性が多い。しかし体に負担をかけずに快適に過ごせる機能性も重要だし、おしゃれもあきらめたくないとなると、低価格で条件を満たすものを探すのはラクではない。そのため、品質と価格のバランスが良いユニクロのマタニティー商品を求める声はこれまでも多かった。しかしなぜかこれまで、ユニクロではマタニティー専用品を販売してこなかった。

 H&MやZARA、GAP、無印良品がマタニティーウエアを販売していることを考えると、後発のユニクロはかなり不利なようにも見える。なぜ今、発売したのか。またいったいどこに勝機を見いだしたのか。

「マタニティウルトラストレッチジーンズ」(3990円)は、ユニクロの人気定番商品である「ウルトラストレッチジーンズ」のマタニティー仕様
「マタニティウルトラストレッチジーンズ」(3990円)は、ユニクロの人気定番商品である「ウルトラストレッチジーンズ」のマタニティー仕様
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「マタニティレギンス」(1500円)は食い込みにくく、はき心地も快適だという
「マタニティレギンス」(1500円)は食い込みにくく、はき心地も快適だという
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ニット素材で伸縮性が高い「マタニティレギンスパンツ」(2990円)。おなかの大きさに合わせてウエストアジャスターでサイズを調節できる
ニット素材で伸縮性が高い「マタニティレギンスパンツ」(2990円)。おなかの大きさに合わせてウエストアジャスターでサイズを調節できる
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よく伸びる素材でおなか回りを締め付けにくく、それでいてフィットする「マタニティショーツ(ハイライズ)」(790円)。肌面の縫い目を減らしてなめらかな肌ざわりにしている
よく伸びる素材でおなか回りを締め付けにくく、それでいてフィットする「マタニティショーツ(ハイライズ)」(790円)。肌面の縫い目を減らしてなめらかな肌ざわりにしている
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少子化でビジネスとして成立するかが疑問視されていた

 ユニクロによると、マタニティーアイテムの商品化を求める声は3~4年ほど前から増えていて、店舗側からも要望の声が伝えられていたという。だが、「マタニティー専用商品でなくても、妊娠期に着用できる商品がユニクロにはたくさんある。そこで従来は、『既存のユニクロ商品で妊娠中にお使いいただけるアイテムを紹介する』という方法で、そのニーズに応えてきた」(ユニクロ グローバル商品本部 ウィメンズバリュークリエーション&プランニング部門の松崎里美リーダー)。

 同社がマタニティー専用商品を販売していなかった理由はいくつかあるが、一つには「マタニティーアイテムは、ごく一部の層にしか必要とされない特殊な商品」という認識が社内にあったこと。「少子化で今後もターゲット層が減少していくなか、ビジネスとして成立するのか」を疑問視する声が多かったのだという。

 店舗から繰り返しマタニティー商品の要望があるなか、松崎リーダーは育児休暇が明けて職場復帰。自身の妊娠後期を振り返り、おなかが大きくなるにつれて既存商品では替えのきかないアイテムも出てくるという実感から、インナーとボトムスに特化した商品を提案。すると積極的な賛成ではないものの、OKが出たという。

 その裏には、親会社であるファーストリテイリングが2017年2月、江東区有明に物流倉庫と一体になったユニクロの新本部を構えたことも関わっている。六本木にあったオフィスでは、ユニクロの商品開発や物流などの部署は複数のフロアに分かれていた。だが新オフィスはエリアをほとんど壁で仕切らず、複数の部署が一つのフロアで働く形になり、同時にそれまでは部署ごとに分かれていた働き方を変え、事業部制のようになった。「マーケティング、デザイン、生産部門が一つになって商品開発に取り組むことになったのも、提案が採用された要因かもしれない」(ユニクロ グローバル商品本部 ウィメンズバリュークリエーション&プランニング部門の桜居純子リーダー)。

マタニティーアイテムの開発を担当したユニクロ グローバル商品本部 ウィメンズバリュークリエーション&プランニング部門の松崎里美リーダー(左)とユニクロ グローバル商品本部 ウィメンズバリュークリエーション&プランニング部門の桜居純子リーダー(右)
マタニティーアイテムの開発を担当したユニクロ グローバル商品本部 ウィメンズバリュークリエーション&プランニング部門の松崎里美リーダー(左)とユニクロ グローバル商品本部 ウィメンズバリュークリエーション&プランニング部門の桜居純子リーダー(右)
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特別仕様にしたうえで“ユニクロ価格”を維持

 OKが出たものの、マタニティーアイテムは既存商品と違い、求めるものの個人差が大きいため、開発には非常に苦労したという。「妊娠中の体質の変化は千差万別で、肌がすごく敏感になる人もいれば、締め付けることで気持ち悪くなる人、逆に締め付けがないと不安定感を感じる人もいる。そのため、素材を選ぶのがまず大変だった」(松崎リーダー)。パターン(型紙)作りも既存商品のデータは役に立たず、ゼロからのスタート。そこで社内で妊娠中の女性、出産経験のある女性が集まって知恵を出し合った。また海外展開も見据え、各国で妊娠中のスタッフにヒアリングを行ったという。

 こうして完成したボトムスは、ユニクロ愛用者が違和感なく着用できるよう、腹部以外は既存アイテムと同じ生地を使用している。またマタニティー用のボトムスでデザイン性の高いものは高価格帯が多く、妊娠中は最後まで満足できるものに出合えなかったという松崎リーダー自身の経験から、既存品と同価格帯に設定した。人気のウルトラストレッチジーンズタイプの「マタニティウルトラストレッチジーンズ」だけでなく、レギンスパンツタイプの「マタニティレギンスパンツ」や「マタニティレギンス」を発売したのは、オフィスワーカーにも対応するため。「最近は、出産直前までオフィスで働き続ける女性が多い。デニムだけだとカジュアルになってしまうので、ワンピースの下に合わせられるレギンスや、ずっとパンツを愛用する方のためのレギンスパンツを開発した」(松崎リーダー)。

 マタニティー用の特別仕様なのにストレッチジーンズが3990円、レギンスパンツが2990円、レギンスが1500円という“ユニクロ価格”なのにも驚くが、目配りのこまやかさにはさらに驚いた。ストレッチジーンズとレギンスパンツは、妊娠期にむくみやすい足元を締め付けないよう、裾幅は広めに設計。また腹部はコットンリブ素材だが、腰の部分は本体と同素材にしているため、かがみこんだときにトップスの裾からウエストが見えてもマタニティー用だと気づかれにくい。レギンスはおなか回りが二重になっていて冷えにくい、などなど。ここまでの細かさは、この価格帯のマタニティーアイテムでは、なかなかお目にかかれないと感じた。

「マタニティウルトラストレッチジーンズ」の生地は米国ロサンゼルスにある同社のデニムイノベーションセンターのデザイナーが設計に携わった。よく伸びるリブ素材をおなかの部分だけに使うことで、体の動きを邪魔しないようにしつつ、しっかりサポートしている
「マタニティウルトラストレッチジーンズ」の生地は米国ロサンゼルスにある同社のデニムイノベーションセンターのデザイナーが設計に携わった。よく伸びるリブ素材をおなかの部分だけに使うことで、体の動きを邪魔しないようにしつつ、しっかりサポートしている
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「マタニティレギンス」は伸縮性の高い素材を腹部だけ二重使用して冷えから守っている
「マタニティレギンス」は伸縮性の高い素材を腹部だけ二重使用して冷えから守っている
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「マタニティショーツ」は肌が敏感になりやすい妊娠期の女性のために縫い目を外側に出したり、体調の変化に気が付きやすいようにクロッチ(股)部分を白い布にしたり、といった細かい工夫が随所に施されている
「マタニティショーツ」は肌が敏感になりやすい妊娠期の女性のために縫い目を外側に出したり、体調の変化に気が付きやすいようにクロッチ(股)部分を白い布にしたり、といった細かい工夫が随所に施されている
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人生で数カ月ほどしか着用機会がない新生児服にも細かい配慮

 同社ではマタニティーアイテムよりひと足早い7月24日から、「タンハダギ(2枚組)」「コンビハダギ(2枚組)」「スタイ(2枚組)」「スリーパー」という新生児用アイテム4商品を販売している。これまでもベビー向けアイテムとしては60cmサイズのボディーオールを販売していたが、生まれたばかりの赤ちゃんにすぐ着せられる小さめの50~60cmサイズで、日本で一般的に新生児に着せる短肌着、コンビ肌着は販売していなかった。「赤ちゃんにとって生まれて初めての服となるため、安全性を追求するとともに、素材や細部の設計や着心地を重視した」(桜居リーダー)。

 人生で数カ月ほどしか着用機会がないという点では、新生児向けアイテムもマタニティーアイテムと同じだが、こちらも細かな工夫に驚いた。例えば育児に不慣れな人への“分かりやすさ”への配慮。新生児用の短肌着は通常2カ所をひもで結ぶ仕様になっているのだが、不慣れな人はどのひもとどのひもがセットなのか混乱しがちだ。外側をスナッパー(スナップボタン)にし、裏表が分かりやすいように裏側のステッチの配色を変えた。コンビハダギは、股下についているスナップボタンの真ん中のみ色を変え、掛け違いを防止。まだ柔らかい新生児の肌に配慮し、縫い代が肌に当たらないように工夫。さらに軟らかい縫い糸を使用した。返しの部分も外側に向け、赤ちゃんの肌に当たらないなどの工夫をしている。

 スリーパーは、ユニクロが得意とするマイクロフリース素材。ストレッチフリースにすることで、新生児が快適にゆっくり休めるようにしている。ジッパーにしたのは、暗い寝室で脱ぎ着させたり、おむつを替えたりするときは、ボタンだと不便なため。ジッパーにはガードをつけ、子どもが顎をはさんだり肌をかんだりしないようにという工夫をしている。

 また新生児用アイテムも既存のベビー服と同様、パッケージに入れて販売している。これは空気中のホルムアルデヒドが衣類に吸収される(移染)のを防ぐため。移染しても洗濯すれば落ちるが、袋から出してすぐに着られるように配慮しているそうだ。

新生児向けの「タンハダギ(2枚組)」(990円)。着替えさせるときに手が入れやすいよう、袖口を広く取っている
新生児向けの「タンハダギ(2枚組)」(990円)。着替えさせるときに手が入れやすいよう、袖口を広く取っている
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「コンビハダギ(2枚組)」(1500円)
「コンビハダギ(2枚組)」(1500円)
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外側は着脱しやすいスナップボタンで、掛け違い防止のために股下のスナップは色を変えている
外側は着脱しやすいスナップボタンで、掛け違い防止のために股下のスナップは色を変えている
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「スタイ(2枚組)」(590円)。2つのスナップボタンで、サイズ調整できるようにしている。また寝るときに首がゴロゴロしないよう、横にボタンをつけている
「スタイ(2枚組)」(590円)。2つのスナップボタンで、サイズ調整できるようにしている。また寝るときに首がゴロゴロしないよう、横にボタンをつけている
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勝機は海外にあり? ハードルは“文化の違い”とも

 少子化が進んでいるため、マタニティーアイテムも新生児用アイテムも目標販売数は控えめに設定していたが、売り上げの初動が予想を大きく上回ったため、緊急で増産したという。「もっと早く出してほしかったというお叱りの声もいただいている」(松崎リーダー)ほどで、海外でも好評だという。

 「社内ではマタニティーアイテムも新生児アイテムも未知のゾーンで、これまではチャンスの芽が見えていなかったのかもしれない」(松崎リーダー)。「開発に関わったスタッフは全員母親で、思い入れも深い。だが、自分の狭い経験から物づくりをしないよう、できる限り多くのデータを集めて検討を重ねた。それがよかったのでは」(桜居リーダー)。

 また日本では2016年の出生数が100万人を割り込んでいるが、中国では逆に増加し1786万以上。マタニティーアイテムも新生児アイテムも、海外に大きなビジネスチャンスがあると見て、社内でも期待が高まっているという。「ただ、海外に関しては文化の差や、子どもの洋服に関する法律の違いが大きい。それに合わせて展開できるよう、さまざまな視点で検討する必要があると考えている」(桜居リーダー)。「妊娠期に身に着けるアイテムも国によってかなり違う。例えば日本はマタニティーのショーツはおなかを包み込むものが多いが、欧米では臨月近くになってもローライズを履いていたりする」(松崎リーダー)。

 海外で大きく成功させるには、それぞれの国の使用にいかに合わせられるかが、カギになりそうだ。

(文/桑原 恵美子)