マツダが2012年に生産を終了したロータリーエンジンが、“発電機”として復活する。2018年10月に、レンジエクステンダーEVとして2020年に発売することを発表した。現役ドライバーでありながら、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員を務める木下隆之氏が背景を明らかにします。

 「ロータリーエンジンが復活する。発売は2020年」

 そのニュースを聞いて思わず色めき立った。というのも僕が幼少のころ、クルマ好きだった父はロータリーエンジン搭載のマツダ「サバンナGT」を所有していた。だからこの特異な形式のエンジンに対してはただならぬ愛着がある。

 一方でロータリーエンジンは、「ルーチェロータリークーペ」や「RX-7」などで速さの象徴としてもてはやされた。だが、排ガス規制など度重なる公害対策や経済危機の荒波に耐えきれず、「RX-8」を最後に販売ラインアップから姿を消していた。

 “ロータリー党”の一人として、ロータリーエンジンの復活を心から願っていたので、今回の電撃ニュースはなおさら僕を興奮させたのである。もっとも、新世代のロータリーエンジン復活は、強烈なパワーの活用ではなく、EVモデル用の発電動力という新たな道を歩むことになった。電気自動車の航続距離を延ばすために搭載する小型発電機システム“レンジエクステンダー”に姿を変えて生まれ変わるというのだ。

ロータリー専用車として一世を風靡したRX-7は、そのコンパクトなエンジンでは考えられないような低い伸びやかなスタイルだった
ロータリー専用車として一世を風靡したRX-7は、そのコンパクトなエンジンでは考えられないような低い伸びやかなスタイルだった
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ロータリーエンジン特有のモーターが回るような出力特性は、まさにレンジエクステンダーとしての活用を予感させるものだったのかもしれない
ロータリーエンジン特有のモーターが回るような出力特性は、まさにレンジエクステンダーとしての活用を予感させるものだったのかもしれない
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 レクジエクステンダーに関して補足しよう。環境モデルの形態をざっくりと3つに分けるとこうなる。1つめは、エンジンとモーターを併用して動力源とする「ハイブリッド」。トヨタの「プリウス」や「アクア」がこれに当たる。

 2つめは、電気モーターだけで走行する「EV」。エンジンは搭載されず、モーターが動力源となる。電気はコンセントから日々充電し、バッテリーが尽きるまで走行可能だ。日産「リーフ」や三菱「i-MiEV(アイミーブ)」がそれだ。

 そして今回の主役「レンジエクステンダー」はその中間的な立ち位置にある。エンジンは搭載するが駆動輪にはつながらない。駆動するのは電気モーターだけ。エンジンは発電機としてバッテリーに電力を送るだけ、のEVなのである。エンジンからの充電だけでなく外部からの充電にも対応する。

 実は、このレンジエクステンダーは注目のシステムなのだ。日産が開発した「e-POWER」は、エンジンを発電にのみ利用する「シリーズハイブリッド式」と呼ばれる。外部充電機能がないなど、レンジエクステンダーとは厳密には異なるものの、エンジンを発電機として活用して航続距離を延ばすというシステムは共通だ。そのシステムを搭載した「ノート e-POWER」が、48年ぶりに2018年上半期販売首位の座をトヨタから奪い返したほどの人気なのだ。

 EVはバッテリーが空になったらその場で立ち往生するが、レンジエクステンダーやシリーズハイブリッド式はガソリンさえ残しておけばストップしない。人気の源はそこにある。そんなドル箱市場にマツダは、ローターリーエンジンとモーターを組み合わせることで参入すると宣言したのである。これはビッグサプライズである。

内燃機関にこだわるマツダ 2030年でも95%は内燃機関活用の電動車

 マツダは環境対策の一つとして内燃機関にこだわっている。各社がこぞってEV化を進めているなかで、2030年になってもEVモデルは5%にとどめるという。残りの95%を内燃機関を活用したPHEV(プラグインハイブリッドカー)、HV(ハイブリッドカー)、FCV(燃料電池自動車)にするというのだ。だからこそ、まず優れたエンジンが必要だったのだ。そのためにはレンジエクステンダーは渡りに船だったというわけだ。

 95%の内燃機関を活用した電動化車両は、シリーズハイブリッド式、PHEV、そしてレンジエクステンダーで構成するという。マツダは、それをロータリーエンジンでそのすべてに対応させるという。このパワートレイン構成を「マルチxEV」と名付けた。

 おそらく「デミオ」といったコンパクトクラスに搭載することでロータリーエンジンを活用しようとしている。関係者の口は固いが、デミオが世界初のロータリーエンジン搭載レンジエクステンダーになる可能性は高い。

 ただ、ここで……。かつてロータリーエンジンのハイパワーを味わった信仰者にとっては、一抹の寂しさを感じることだろう。

 「サバンナGTやRX-7のエンジンとして一世を風靡(ふうび)し、あのル・マン24時間で初めて日本車として総合優勝したロータリーエンジンが、今や発電機とはがっかりだよ」  そう嘆き悲しみ肩を落とした人も少なくないだろう。だが、これは実はロータリーエンジンの特徴を最大限に生かすシステムだと思うとうれしくもなる。

 というのは、まずロータリーエンジンはとても小さい。乗り物のエンジンとしてもっとも一般的なレシプロエンジンと同等のパワーを、半分以下の排気量で発生する。バルブやカムシャフトがない。とてもコンパクトなのだ。

 レンジエクステンダーでは発電機として活用するのだから、その小ささを生かして、例えばトランクの片隅に搭載してもいいのだ。実際にマツダは、400ccくらいの小排気量サイズにして、床下に搭載する計画らしいのだ。まさにロータリーでしかできない芸当である。

繭形のロータリーエンジンは、1.7倍の排気量に相当するレシプロエンジンと同等のパワーを発揮した
繭形のロータリーエンジンは、1.7倍の排気量に相当するレシプロエンジンと同等のパワーを発揮した
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おむすび形のローターが円運動することで、そのまま同じく円運動の車輪を回す。ある意味で理にかなっている
おむすび形のローターが円運動することで、そのまま同じく円運動の車輪を回す。ある意味で理にかなっている
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 そもそも、バイブレーションが少ない。円運動がそのままパワーを発生する仕組みだから、振動が驚くほど少ないのである。

 燃料を選ばない“雑食性”もある。ガソリンだけでなく水素でもよく回る。ロータリーエンジンは、レンジエクステンダーEV用発電機として理想型なのである。

 ロータリーエンジンの復活は、残念ながらスポーツカーでの復活ではない。だけど、あのロータリーエンジンの特性を最大限に発揮する道筋だと思うと、ちよっとうれしい。

(文・写真/木下隆之)

著 者

木下隆之

レーシングドライバー、ブランドアドバイザー、ドライビングディレクター、ライター 明治学院大学経済学部卒。学生時代からモータースポーツに参加し数々の優勝を飾る。日本学生チャンピオン。日産自動車と三菱自動車とワークスドライバー契約。数々の全日本レースに加え、欧州のレースでもシリーズチャンピオンを獲得。スーパー耐久では史上最多勝利数記録を更新中。海外レースにも積極的に参加し、伝統的なニュルブルクリンク24時間レースには日本人最多出場、最速タイム、最高位を保持。2018年はプランパンGTアジアシリーズに参戦し、シリーズチャンピオン獲得。日本モータージャーナリスト協会に所属。テレビ出演や執筆活動などもこなす。小説や自動車雑誌など多数執筆。日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員。

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