クラフトビールブームも本格的に定着。小規模設備のビール醸造所を併設し、自家醸造ビールを提供するマイクロブルワリーも急増している (関連記事「クラフトブームの次へ! ビールの楽しみ方が進化中」)。 また、国産ワイン人気の高まりから、ワイナリー(ワイン醸造所)を併設したバルも見かけるようになった (関連記事「伊丹空港に世界初のワイン醸造所? 34店舗が開業」)。そんな「醸造所ブーム」のなか、2018年7月にオープンしたのが、「WAKAZE(ワカゼ)三軒茶屋醸造所 + Whim SAKE & TAPAS(ウィム サケ アンド タパス、以下、ワカゼ)」。醸造所を併設したバーだが、そこで造られているのはビールでもワインでもない。「その他の醸造酒」という耳慣れないジャンルの酒だ。

2018年7月にオープンした「WAKAZE(ワカゼ)三軒茶屋醸造所 + Whim SAKE & TAPAS(ウィム サケ アンド タパス)」(東京都世田谷区太子堂1-15-12)。営業時間は18~23時。水曜定休
2018年7月にオープンした「WAKAZE(ワカゼ)三軒茶屋醸造所 + Whim SAKE & TAPAS(ウィム サケ アンド タパス)」(東京都世田谷区太子堂1-15-12)。営業時間は18~23時。水曜定休
[画像のクリックで拡大表示]

 「その他の醸造酒」とは、簡単に説明すると「醸造酒類」の中で清酒と果実酒を除いたもの。さらに穀類・糖類などを原料として発酵させたもので、アルコール分が20度未満かつエキス分が2度以上と決められている。いわゆる「第三のビール」の一部もこのジャンルに入る。ワカゼでは日本酒をベースにした「ボタニカルSAKE/FONIA(サケ/フォニア)」シリーズの2種類を扱っており、店頭で提供するほか、500mlのボトル入りでの販売も行っている。

 伝統的な日本酒の製法の発酵中に柚子やレモンなどのかんきつ類を加えた「SORRA(ソラ)~天空~」は、日本酒特有の軽い酸味とかんきつの爽やかな香りを同時に感じる不思議な味わい。生姜、山椒、柚子などスパイシーな香りを加えた「TERRA(テラ)~大地~」は力強いうまみとコクに驚く。一般的なリキュールは発酵後に香りや味付けを行っているが、この酒は発酵中に加えることで酒の風味に調和しているのが特徴だという。

同店で「その他の醸造酒」として提供している「ボタニカルSAKE/FONIA(フォニア)」。「TERRA(テラ)~大地~」(写真左、3000円)、「SORRA(ソラ)~天空~ 」(写真右、2600円)
同店で「その他の醸造酒」として提供している「ボタニカルSAKE/FONIA(フォニア)」。「TERRA(テラ)~大地~」(写真左、3000円)、「SORRA(ソラ)~天空~ 」(写真右、2600円)
[画像のクリックで拡大表示]

開発中に気づいた「日本酒製造のある『例外』」

 同店を運営する「WAKAZE(ワカゼ)」(山形県鶴岡市)の稲川琢磨社長は、「ある日本酒のあらばしり(加圧せず自然にしぼり出した酒)を飲み、その味に衝撃を受けたのがきっかけで、日本酒とその製造に興味を持つようになった」と話す。だが、調べてみると日本酒の醸造はほぼ新規参入が認められないことが分かった。

 酒税法で日本酒の製造免許を得るために必要な条件はいくつかあるが、すでに免許を持つ製造者が経営を合理化するためなどの理由で新たに会社を設立する場合などに限定されている。日本酒の需要と供給のバランスを保つためという目的があるからだ。新規参入のために製造免許を譲り受けるなどの方法もあるが、「現状、新たに製造免許を取得することは非常に難しい」(国税庁担当者)という。

 「新規参入が盛んな国産ビールや国産ワインは出荷量が大幅に伸びているのに対し、日本酒は新規参入がほぼ認められないこともあって市場が低迷している」(稲川社長)

日本酒の国内出荷量の推移(日本酒造組合中央会)。同会によると、クラフトビールや本格焼酎ブームなどによる日本酒離れと、食の洋風化、若年層のアルコール離れなどが日本酒の出荷量減少の理由だという
日本酒の国内出荷量の推移(日本酒造組合中央会)。同会によると、クラフトビールや本格焼酎ブームなどによる日本酒離れと、食の洋風化、若年層のアルコール離れなどが日本酒の出荷量減少の理由だという
[画像のクリックで拡大表示]
 

 そこで、稲川社長は「『新しい日本酒』を造ることで、日本酒業界を活性化させたい」と考え、16年1月に同社を設立した。前述の規制により新たに製造免許を取得することが難しかったため、自社で商品開発した日本酒を既存の酒蔵に製造委託するスタイルでスタート。完成した1万本を全量買い取る条件で委託醸造契約を結んだ。17年11月に発売した日本酒「ORBIA(オルビア)」シリーズ2品は、「白麹を使い、オーク樽で熟成させた清酒」(稲川社長)。小売店、百貨店、イベント会場などに売り込みを続け、1万本を完売した。

WAKAZEが開発した新感覚の日本酒第1弾、ワイン樽熟成の「ORBIA(オルビア)」シリーズ。「LUNA(ルナ)~月~」(写真左、2600円)、「GAIA(ガイア)~地球~ 」(写真中央、2860円)、「SOL(ソル)~太陽~ 」(写真右、2860円)、各500ml入り
WAKAZEが開発した新感覚の日本酒第1弾、ワイン樽熟成の「ORBIA(オルビア)」シリーズ。「LUNA(ルナ)~月~」(写真左、2600円)、「GAIA(ガイア)~地球~ 」(写真中央、2860円)、「SOL(ソル)~太陽~ 」(写真右、2860円)、各500ml入り
[画像のクリックで拡大表示]

 18年5月には、米から造った酒の発酵中にかんきつやハーブを加えた「ボタニカルSAKE/FONIA(フォニア)」シリーズの販売を開始。その開発中に気づいたのが、製造免許取得のある「例外」だったという。日本酒の原料は酒税法で定められているが、それ以外の副原料も使って製造した場合は「その他の醸造酒」などに分類され、一定の条件を満たせば製造免許がおりる。また日本酒の場合は製造免許の条件として「1年間に製造しようとする酒類の見込数量」が60キロリットルだが、「その他の醸造酒」は6キロリットルだ。

 そこで、約3000万円をかけて、6キロリットルの酒類が製造できる醸造所を立ち上げ、免許を取得した。免許取得にこだわったのは「自分たちが製造免許を取って『新しい酒』で注目されれば、ほかの会社も新規参入しやすくなると考えたから」(稲川社長)。今後は同醸造所で新しい酒の商品開発をし、完成したレシピで他の酒蔵に量産を委託するという形を目指している。

ベンチャーだからこそ「高級路線」で攻めた

 ORBIAもFONIAも、500mlで3000円弱と、決して安くはない。だが、「居酒屋やコンビニで売れる価格帯にすると、量産しなければ利益が出ないのでベンチャーには向いていない」(稲川社長)と考え、高級路線として売り出せるようにブランディングを行った。その結果、FONIAシリーズは発売の約半年で約5000本を売り上げ、フランス、台湾など海外への輸出も好調だという。「今後はさらに輸出範囲を広げたい」と稲川社長は意気込む。

 同シリーズを初めて味わった際、「日本酒といわれれば日本酒だが、ワインやリキュールなど、洋酒のようでもある」という印象を持った。また、「一般的な日本酒好きな人がこういう酒を選ぶだろうか?」と素朴な疑問も抱いた。だが、同シリーズを取り扱うフランス料理店のソムリエからは「これまでの日本酒にはなかったワインのような複雑さと香りがあるので、油脂分の強いフランス料理にも合わせられる」という声が寄せられているという。日本酒の枠に収まらない「新しさ」が受けているのかもしれない。

バーの入り口から向かって左手にガラス張りの醸造室があり、4基の小型タンクで常時醸造を行っている
バーの入り口から向かって左手にガラス張りの醸造室があり、4基の小型タンクで常時醸造を行っている
[画像のクリックで拡大表示]
WAKAZEの稲川琢磨社長は大手外資系コンサルタント会社出身。同氏の実家は製造業を営んでおり、「家族の姿を見ながら日本の製造業に危機感を抱いたことも、会社を立ち上げたきっかけの一つ」と話す
WAKAZEの稲川琢磨社長は大手外資系コンサルタント会社出身。同氏の実家は製造業を営んでおり、「家族の姿を見ながら日本の製造業に危機感を抱いたことも、会社を立ち上げたきっかけの一つ」と話す
[画像のクリックで拡大表示]
バーでは同社が醸造委託をしている酒蔵のある山形県庄内地方の食材を使用。写真は「シャインマスカットの白和え」(写真左、600円)と「ボタニカルSAKE/FONIA TERRA~大地~」(写真右、グラス入り、950円)
バーでは同社が醸造委託をしている酒蔵のある山形県庄内地方の食材を使用。写真は「シャインマスカットの白和え」(写真左、600円)と「ボタニカルSAKE/FONIA TERRA~大地~」(写真右、グラス入り、950円)
[画像のクリックで拡大表示]
「刈屋梨と海老・サーモンのパフェ」(750円)と「ボタニカルSAKE/FONIA SORRA~天空~」(850円)
「刈屋梨と海老・サーモンのパフェ」(750円)と「ボタニカルSAKE/FONIA SORRA~天空~」(850円)
[画像のクリックで拡大表示]

(文/桑原恵美子)