猛暑だった2018年の夏。「今年はあまり蚊に刺されなかった」という人も多いのではないだろうか。地球温暖化による影響で厳しい夏が続く昨今、気温35度を超す環境は蚊にとっても過ごしにくいらしい。その代わり、秋になると、それまで静かにしていた蚊が大量発生し、活発に動き出すという。

 そんな蚊やゴキブリの生態を知り尽くす女性が、虫ケア用品メーカー最大手のアース製薬にいる。商品開発や生態研究に必要な実験用害虫を育て管理する飼育員、有吉立課長だ。18年7月、20年間の飼育員生活で蓄積した害虫の生態をまとめた書籍「きらいになれない害虫図鑑」(幻冬舎)を出版。「害虫でも、その生態を知れば怖くない」と話す。

アース製薬株式会社 研究開発本部 研究部 研究業務推進室 生物研究課 有吉 立(ありよし りつ)課長。兵庫県出身。都内の美術学校を卒業後、家具店店員、陶芸教室講師などを経てアース製薬に入社。以来20年間、害虫飼育員を務める。「きらいになれない害虫図鑑」(幻冬舎、税込み1296 円)は有吉課長が見た害虫の意外な素顔と、同氏の20年間の奮闘ぶりをかわいいイラスト付きで紹介している
アース製薬株式会社 研究開発本部 研究部 研究業務推進室 生物研究課 有吉 立(ありよし りつ)課長。兵庫県出身。都内の美術学校を卒業後、家具店店員、陶芸教室講師などを経てアース製薬に入社。以来20年間、害虫飼育員を務める。「きらいになれない害虫図鑑」(幻冬舎、税込み1296 円)は有吉課長が見た害虫の意外な素顔と、同氏の20年間の奮闘ぶりをかわいいイラスト付きで紹介している
[画像のクリックで拡大表示]

60万匹がすむゴキブリ部屋の実態

 赤穂義士で知られる兵庫県の赤穂市。カキの養殖で有名な坂越湾を望む海辺の町に、アース製薬の坂越工場と研究所がある。かつては本社があった同社の発祥地。主力工場では、全社売上げの6割近くを占める虫ケア用品の生産を担う。ロングセラー商品「ごきぶりホイホイ」の国内販売分は、すべて同工場で製造されているという。

 生物研究棟の2階にあるのが「生物飼育エリア」。同社研究開発本部生物研究課に所属する飼育員、有吉課長の職場だ。飼育室には、国内外に生息するゴキブリやアリ、ハエ、蚊、ネズミなどの害虫が約100種類。ゴキブリは100万匹、蚊とハエで10万匹、ダニ1億匹など。規模が大きく、害虫研究施設としては他に類をみない。

兵庫県赤穂市にあるアース製薬の坂越工場。国内シェアNo.1の虫ケア用品を製造する主力工場で、敷地内の研究所は1979年に開設された
兵庫県赤穂市にあるアース製薬の坂越工場。国内シェアNo.1の虫ケア用品を製造する主力工場で、敷地内の研究所は1979年に開設された
[画像のクリックで拡大表示]
約100種類の害虫を飼育する飼育室は、小学生の課外授業などで見学できるように、種類ごとの説明も掲示されている
約100種類の害虫を飼育する飼育室は、小学生の課外授業などで見学できるように、種類ごとの説明も掲示されている
[画像のクリックで拡大表示]

 なかでも見学者の度肝を抜くのが、60万匹のワモンゴキブリを放し飼いにしている「ゴキブリ部屋」だ。6畳ほどのスペースには、紙管が何百本も敷き詰められ、室内が焦げ茶色になるほど大量のゴキブリがうごめいている。

 入社2年目で、有吉課長はゴキブリの担当になった。

 「最初の仕事はこの部屋の掃除でした。ほうきとちりとりを持って入り、ゴキブリの糞を掃除したり、窓ガラスを拭いたあと、水とエサを交換します。エサはペットフードのようなもの。紙の筒をたくさん置いているのは、暗くて狭い場所が好きなゴキブリの習性を考えてのことです。まったく何もなければ、ゴキブリもストレスを感じてしまいます。プラスチックケースの中で飼育しているゴキブリも多くいて、蛇腹に折った厚紙で作ったシェルターがあり、床替えをしてきれいにするのが仕事です。マスクと手袋をしてやるのですが、手にのぼってきたり、ダッシュで動いたりするとやっぱり怖かったですね。この仕事を1年近くやっていました」(有吉課長)

 ただでさえ不潔なイメージで不快このうえないゴキブリが大量にすむ部屋。実際に目の当たりにすると絶句するしかないのだが、有吉課長は「仕事だから…」と割り切っていたという。

約60万匹のワモンゴキブリを放し飼いしている約6畳のゴキブリ部屋。繁殖しやすいように温度から湿度、照明、エサまで管理されているのでゴキブリにとってはまさに楽園
約60万匹のワモンゴキブリを放し飼いしている約6畳のゴキブリ部屋。繁殖しやすいように温度から湿度、照明、エサまで管理されているのでゴキブリにとってはまさに楽園
[画像のクリックで拡大表示]
狭くて暗い場所が好きなゴキブリの習性を考慮して作られたのが、紙製の筒を何層にも重ねたゴキブリのマンション
狭くて暗い場所が好きなゴキブリの習性を考慮して作られたのが、紙製の筒を何層にも重ねたゴキブリのマンション
[画像のクリックで拡大表示]