機能性ウエアといえば、体に圧を加えて筋肉をサポートし、運動能力をアップさせるコンプレッションウエアをはじめ、冷感や吸汗速乾、温感機能を備えた温感インナーなどが知られている。これらはアスリートだけではなく、一般の人にも広く利用されているが、ほかに、ここ数年で注目を浴びている機能性ウエアがある。それが、運動後の休養時に着用することで自己回復力を上げるといわれる「リカバリーウエア」だ。

 2009年に、血流を促進する効果があるナノ化プラチナを練りこんだ特殊繊維(PHT繊維)を開発し、疲労回復のためのウエアとして発売した「ベネクス」を皮切りに、2010年にはアンダーアーマー、2013年にはプーマ、2014年にはナイキがそれぞれ圧着タイプの商品を発表。

 さらに2016年に入って、ゴールドウィンがコンプレッションウエアブランドのC3fitから、圧着タイプではなく、光電子繊維で遠赤外線の輻射によって疲労回復を促すウエアを発表。それに追従するように、2017年にはアンダーアーマーがバイオセラミック粒子を裏地に使い、体の自熱を吸収して遠赤外線エネルギーを反射することで安眠に導くスリープウエアを発売した。さらにライザップもリカバリーに対応したウエアを発表するなど、今年に入って『リカバリーウエア元年』とも言えるほど市場が活発になっている。

ベネクス「フリーフィールクール」シリーズ。タンクトップUネックレディース(8000円)、ノースリーブVネックメンズ(8000円)。冷感機能を付加した夏用のリカバリーウェア
ベネクス「フリーフィールクール」シリーズ。タンクトップUネックレディース(8000円)、ノースリーブVネックメンズ(8000円)。冷感機能を付加した夏用のリカバリーウェア
[画像のクリックで拡大表示]

 これらの商品を展開する売り場の動向も活発だ。2011年ごろから伊勢丹新宿本店を皮切りに、新宿の小田急百貨店など大手百貨店のスポーツ用品売り場でリカバリーコーナーが設けられるようになり、2016年には東京・神田のスポーツ用品店「ヴィクトリアワードローブ」が運動後の休養をテーマにしたリカバリーコーナーを新設している。

東京・神田の「ヴィクトリアワードローブ」。4階がリカバリーコーナーになっている
東京・神田の「ヴィクトリアワードローブ」。4階がリカバリーコーナーになっている
[画像のクリックで拡大表示]

ビジネスパーソンと主婦がヘビーユーザー

 リカバリーウエア市場に大手メーカーが出そろったなか、特に女性人気が急増しているのが、リカバリーウエアの先駆け、ベネクスだ。

 ベネクスはもともと産官学連携事業としてPHT繊維を開発し、介護業界に向けた商品を販売していた。次に、日勤や夜勤を繰り返す介護ヘルパーや医療従事者向けにこの特殊繊維で作ったTシャツを販売。着るだけでナノプラチナが発する微弱な電磁波が自律神経の副交感神経に作用して筋肉の緊張をほぐし、血流を促すことで疲労回復や安眠へと導くというもので、医療関係者の間で評判になった。それが、スポーツトレーナーの目に留まったのが、リカバリーウエアの始まりだ。それからプロのアスリートが愛用するようになり、そこからスポーツジムを利用するビジネスパーソンへと口コミで広がり、リカバリーウエアの名前が知られるようになった。

 「当初はアスリートの疲労回復ウエアとして販売していたのですが、ジムを利用する一般の人から『よく眠れるようになった』『疲れが翌朝に残らない』などの反応があって、そのうち、出張が多く、慢性疲労を抱えているビジネスパーソンが、室内着やパジャマとして購入する割合が増えた。2014年にネックウォーマーなどのアクセサリー類を販売するようになってからは、主婦を中心に女性ユーザーが急激に増えた」と、ベネクスマーケティング部の友部崇氏は話す。

ベネクス「2WAYコンフォート ライト」(税込み4860円)。ネックウォーマーとして、また帽子としても使える。女性に人気だ
ベネクス「2WAYコンフォート ライト」(税込み4860円)。ネックウォーマーとして、また帽子としても使える。女性に人気だ
[画像のクリックで拡大表示]

 ベネクスの製品は決して安いとはいえない。半袖Tシャツでも1万円前後だ。「生地の生産から縫製まですべて国内生産。さらに休養中の体に負担がかからないように、縫い目が体に触れないように工夫しながら、スポーツウエアとしての丈夫さも一定の基準を満たしている。これがどうしても割高になってしまう理由」と友部氏は話す。にもかかわらず、売り上げは右肩上がりで、2009年からの累計販売数は50万着(2017年5月段階)を超えるヒット商品だ。

 売れている理由は、今までなかった“休養のためだけに作られた商品”だということ。着るだけという手軽さ、他社製品とは違って圧着タイプではないので窮屈感がなく、スポーツをしていない人でも着やすい。さらに色や種類が豊富で選びやすいことも理由のひとつだろう。

 また、ショップスタッフが「着ると眠くなることがあるので運転中や仕事中、運動中は着ないでほしい」というくらい、その効果を実感していることもユーザーが購入を決めるきっかけになっているようだ。ベネクスの営業チーム、リカバリーアドバイザーの江口直人氏によると、「ショップがオープンした当時はスタッフが商品を着用していたが、仕事中に眠くなってしまうという意見があって、仕事にならないからと商品の着用をやめたというエピソードがあるくらい」だ。

 「ユーザーは40~50、60代が多い。体力が落ち、疲れが取れにくくなってきた年代で、健康意識が高い層だ。中には、スポーツをする子供のためにと、家族全員分のウエア約10万円分をまとめて購入していくヘビーユーザーもいる」と江口氏は話す。トップスとネックウォーマーなどのアクセサリーを一緒に購入する人が多く、客単価は2万円前後だという。

 発売当初は、ユーザーのほとんどがアスリートだったが、現在は7割が一般の人なのだそうだ。「口コミで最初に広がったのはビジネスパーソンだったが、2016年4月から2017年3月までの1年間でユーザーは、アスリート以外の女性が52%を占めるまでになった」(友部氏)。最近では、ユーザーのなかにはパソコンをよく使うデスクワーク中心の女性会社員やプロの漫画家もいるそうだ。

 その傾向を反映するように、2017年3月に、新宿髙島屋が婦人服フロアを大幅に改装し、健康と美をテーマにした「ウェルビーフィールドフロア」をオープンした際に、ベネクスの直営店が入った。ベネクスがファッションフロアに出店するのは初めてのことだ。

新宿髙島屋のウェルビーフィールドフロアにオープンしたベネクスの直営店
新宿髙島屋のウェルビーフィールドフロアにオープンしたベネクスの直営店
[画像のクリックで拡大表示]

冬は発熱衣料でマーケットも狙う

 ベネクスは、10月下旬には、着用すると温かい冬用のリカバリーウエア「フリーフィールウォーム」シリーズの販売を開始する。

 フリーフィールウォームは、PHT繊維に吸湿発熱性の高い再生繊維のリヨセルを編み合わせたもの。着用すると体から出る汗や水蒸気などの水分を吸着して熱を発し、従来品よりも最大で3.5度温かくなるという。さらに2018年春には、ワンマイルウエアとして使えるワンピースタイプが発売される予定。女性をターゲットにしたラインアップを強化していく。

10月下旬発売予定のフリーフィールウォームシリーズ。写真左はメンズのロングスリーブハイネック(1万4000円)、写真右はレディースのロングスリーブタートルネック(1万4000円)
10月下旬発売予定のフリーフィールウォームシリーズ。写真左はメンズのロングスリーブハイネック(1万4000円)、写真右はレディースのロングスリーブタートルネック(1万4000円)
[画像のクリックで拡大表示]

 リカバリーウエアの分野にとどまらず、ヒートテックが好調なユニクロを筆頭に競争が激しい体温調節系ウエアの市場へも踏み込み、境界線をなくして機能性ウエア市場全体の活性化を図るベネクス。2020年の東京五輪に向けて、スポーツウエア業界はさまざまな商品が出てくると思われる。その中でも成長著しい機能性ウエアがさらに進化し、高級志向が加速するかもしれない。

(文/広瀬敬代)

この記事をいいね!する