今、家計に最もダメージを与えているのが「教育費」だ。デフレが続く日本で教育費だけはインフレが続き、大学生が2人いると家計の43%を教育費が占めるというデータもある。そこで日経トレンディ10月号では、「学歴&教育費」というテーマを、巻頭で総力特集した。大金をかけて手に入れる、大卒という”学歴の価値”とは何だろうか。「高卒の星」、DMMホールディングス会長の亀山敬司氏にインタビューした。

DMMホールディングスの亀山敬司会長は1961年石川県生まれ。石川県立大聖寺高校卒業。19歳で露天商からキャリアをスタートし、1999年にデジタルメディアマート(現DMM.com)を設立。動画配信、通販、レンタル、オンラインゲーム、英会話、FX、ソーラーパネル、3Dプリンター、VRシアター、アカデミー、そしてアフリカ進出と多岐にわたって事業を展開している
DMMホールディングスの亀山敬司会長は1961年石川県生まれ。石川県立大聖寺高校卒業。19歳で露天商からキャリアをスタートし、1999年にデジタルメディアマート(現DMM.com)を設立。動画配信、通販、レンタル、オンラインゲーム、英会話、FX、ソーラーパネル、3Dプリンター、VRシアター、アカデミー、そしてアフリカ進出と多岐にわたって事業を展開している
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――高校卒業後に給料をもらいながら学べる教育機関「DMMアカデミー」を、昨年設立しました。高卒が対象の理由は?

亀山: 俺自身が専門学校中退だし、会社の幹部連中も高卒が多いけれども、実戦の中で仕事を学んで、なんとか生きていけるようになった。だから、経済的な理由で進学できないとか、勉強になじめなかったヤツに学ぶチャンスを与えたら、才能を発揮するヤツが出てくるんじゃないかなと思ったんだよね。

 学校といっても、カリキュラムはほとんどないんだ(笑)。与えられた課題はこなせても、自分で課題を探せない人は山ほどいるでしょ。だからアカデミー生は、現場に放り込んで野放しにしてある。物流センターへ行こうが、DMM.makeでモノづくりをしようが、海外に行こうが、何でもいいから「この仕事をやらせてください」と、自分で動いてほしい。

 それから、地方だと出会えないような人に出会える場所も用意するから、そこでも自分を売り込め、と。「鞄持ちやらせてください」でも何でもいいんだよ。そこで自分から動けないヤツは何もやれないからね。

 ストライプインターナショナル社長の石川康晴さんとか、映画監督の岩井俊二さんとか、現代美術家のスプツニ子!さんとか、すごい講師陣が協力してくれてはいるけど、そこが大事なわけじゃない。自由と機会を与えるから、指示待ちでなく自分で動けるようになれ、というのがDMMアカデミーの教育の肝だね。

DMMアカデミー生の活動の様子。亀山会長と直接議論する
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――1期生の選考は大激戦だったとか。

亀山: 600人の中から愛嬌があって行動力のあるヤツを13人選んだ。東大へ行かずにウチに来た子もいれば、すでに会社をやっていたという子もいる。キノコを育てていた引きこもりも、元暴走族やホームレスだった子もいるね。

 でも、自分の行き場を見つけたのはまだ2,3人かな。学校の中では、学生は何か指示してもらうのに慣れちゃっていて、「せめてミッションを下さい」なんて言ってくる。でも、これからの社会は、学校で誰かに教え込まれることはAI(人工知能)に取って代わられる。

 今の若い子は、仕事がどんどんなくなる時代が来るよ。今の日本の企業の大半は、確固たるビジネスモデルがあり、新人に対しては「俺が教えてやるから、おまえらは手伝え」と言う。でも、これからは、「こうやれば成功する」と言える程には、会社が長持ちしない。昔は一つのビジネスモデルをつくったら100年はやれたけど、今はいいとこ20~30年。すごいスピードで事業内容が変わっていくよね。そのときに、会社に指示待ち人間しかいなかったらヤバイと思うよ。

 経営者にとっても、これから始めることには先達や先生がいない。だから必要なのは、何もないところから何かを生み出せる力だよね。大卒でも、高卒でも、時代の変化に対応して、新しいものに食いつける人間が社会の中心になってくると思う。

学歴のコストパフォーマンスは下がっている

――DMM.comは就職先としても人気企業です。一流大卒の社員も増えていると思いますが、亀山さんにとって学歴の価値とは。

亀山: そりゃあ、有名な大学出ていたらカッコいいよね。あと、大手企業で面接してもらえる。俺が今失業したらただのオヤジだけど、東大卒の肩書きがあれば書類審査は通りやすいんじゃないかな(笑)。学歴の価値はそれ以上でもそれ以下でもないかな。今は、学歴のためにかけた教育費のコストパフォーマンスが下がっていると思う。面接官は他に目安がないから学歴に頼るしかないけど、本当は実践的な仕事力を求めてる。「ナントカ大学卒よりも、DMMアカデミー出身者を採用する」ってなるのが理想。

 もちろん、大卒は飲み込みが早い人が多いよ。ヤンキーに教えたら10日かかるところ2、3日で覚えちゃう。だから確率でいくと、大卒を100人集めたら10人がものになるのに対して、高卒は100人中1人かもしれない。でも、それなら高卒を1000人集めれば、10人選抜できるってこと。他の企業が群がっていないこっちの10人も面白そうな感じがするんだよね。こういうのって、俺がやるのが一番似合うかもね。「ヤンキーの星」だから。大学出ていないし「私が証明です!」って、言えるでしょ(笑)。

 実際、起業家に会うと、やっぱり学歴の高い人が多いのよ。俺みたいなのは珍しい。でも、うちの会社で人が育っていくのを見ていると、会社の側が道筋さえ用意すれば、やり方次第では誰でも社長になれると思う。べつに高卒の方が好きだってわけじゃないから、会社では大卒もどんどん採用してくよ。ただ、DMMアカデミーからも将来を背負う面白いヤツが巣立ったらいいよね。

留学DMM事業に参画したアカデミー生
留学DMM事業に参画したアカデミー生
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――亀山さんはどうして大学に行かなかったのですか?

亀山: 行かなかったんじゃなく行けなかったの。10校くらい受けて一つも受からなかった(笑)。小中学校時代は、家の手伝いをする元気な子だったんだよ。うちは飲食業をやっていたんだけど、「いらっしゃい」と呼び込みしたり、ソフトクリームを作るとき、いかに中を空洞にして原価を抑えるかに悪知恵を働かせたりしてた。商売のセンスはあの時代に磨かれたんじゃないかな。ところが、高校に進むや目標を見失って、俺は寝てばかりだった(笑)。で、大学に合格できず、かといって、浪人してまで行きたいとも思えなかったんだよね。だから、専門学校にとりあえずいこうかな、と。それも途中で辞めて、19歳でのアクセサリー販売の露天商を皮切りに会社を設立し、これだと思う分野にどんどん手を出していったというわけ。

――大学に行くなら、何をしますか?

亀山: 大学に行くなら、AIが苦手なことをやる。将棋がどんなにうまくなっても、AIには絶対勝てない。でも、「歌って踊りながら将棋を指す」のは、AIにはできないよね。だから、歌って踊れる棋士になり、「今日は王将2枚で勝負しまーす」とか「金銀なしでやりまーす」とルールを変えて、アドリブでパフォーマンスする。これ、最強でしょう。AIはいくつかのアイデアを組み合わせて何かを考えたり、新しいルールを作ったりすることが苦手だからね。

 だから「何かを極める」とかを目指さないで、コミュニケーション力のあるマルチな人間を目指す。今後はひとつの知識や技術がまるごとAIに取って代わられるかもしれないでしょ。学力もひとつの専門性にすぎないから、勉強ばかりしてちゃリスクが大きいよ。

――お子さんの教育について奥様と意見が合わずもめることはありますか?

亀山: もめないよ。どんなりっぱな教育より、夫婦円満が子育てには一番大事だからね。偉そうなことを言っても、俺の教育理念なんて、しょせんその程度のもんよ(笑)。

中学・高校卒業後の就業機会を増やす事業会社「ハッシャダイ」とも協業。ハッシャダイでは中高卒の16~22歳、東京以外在住限定で応募できる6カ月間の「ヤンキーインターンシップ」を行っている。職・食・住を提供し、英会話や人間力、マーケティングなどの研修、就活講習、 著名人・企業の講習などを無料で体験できる。写真はリクルートと連携した就職イベントでの風景
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■変更履歴
2ページ目の「お子さんの教育について奥様と意見が合わずもめることはありますか? 」に対する答えの一部を変更いたしました。 [2017/09/13 11:10]

(構成/平林理恵)


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