RIZAP(ライザップ)がパーソナルトレーニングジム以外にも事業を拡大。ゴルフ、英語、料理と次々と新業態を展開している(関連記事:「あのライザップが英語学習に進出、次なるコミットは?」)。そんななか、2017年8月17日には料理スクール初の大型店舗となる「RIZAP COOK 池袋店」がオープン。9月以降も急ピッチで拡大予定だという。

 「もともとライザップでは低糖質な食事を推奨しているが、『料理が作れないために実行が難しい』という人が少なくなかった。そこで料理教室をマーケティングしたところ、ほとんどがグループレッスンのため、長く通っても上達しているかどうか分からないという人や、料理が苦手というコンプレックスをなかなか払拭できない人が多いことが分かった。そんな人たちのためにライザップのノウハウを生かし、初心者でも短期間で料理の腕前にコミットできる、完全オリジナルの料理教室をつくりたいと考えた」(RIZAP COOK を運営するRIZAPイノベーションズ)。

 ライザップといえば専属コーチによるマンツーマン指導や、弱点を克服するために課題を徹底的に反復練習する「シュクダイ」制度などが知られている。同スクールでは品数や使用する調味料の数などで料理の腕前を明確に数値化し、オーダーメードのプログラムを作成。フレンチシェフや日本料理の料理長などの経験を持つ一流のトレーナーが80分間マンツーマンでトレーニングを行うという。料金は入会金5万円に加え、週1回のレッスン×10回(2カ月間)のコース29万8000円が最低料金。30回レッスンコースなら77万4800円になる。 1回のレッスンで(入会金を除いても)3万円近い料金を払うレッスンとは、いったいどんなものなのか。本当に3万円の価値があるのだろうか。主婦歴25年、ほぼ毎日料理をしている筆者が、実際に体験レッスンを受けてみた。

「RIZAP COOK 池袋店」(豊島区南池袋1-22-2)。営業時間は10~22時
「RIZAP COOK 池袋店」(豊島区南池袋1-22-2)。営業時間は10~22時
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大きな部屋に集まって先生の手元を見る通常の料理教室と違い、キッチン設備がついた小さなブースが8室ある
大きな部屋に集まって先生の手元を見る通常の料理教室と違い、キッチン設備がついた小さなブースが8室ある
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料理初心者でもこのレベルまで行ける、という例
料理初心者でもこのレベルまで行ける、という例
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「食材の数」「調理工程の数」などで料理レベルを数値化

 RIZAP COOK 池袋店があるのは、池袋駅の東口の目の前にあるビルの6階。中は広いが、調理台と厨房がセットになった小さなブースに分かれていて、大勢の生徒が一室に集まる普通の料理教室と、明らかに違う造りだ。

 取材前、「ライザップ流といっても、そもそも体重やゴルフ、TOEICのスコアなどと違って、料理の腕前は数値化できないのでは」という素朴な疑問を抱いていた。だが1回目のレッスンでは25種類の食材と25種類の調味料を使って自由に料理を作る「料理診断テスト」を行い、料理の実力を数値化するという。

 「作ることができた品目数」を5点満点で採点し、レベルや弱点を数値化し目標を設定するというシステム。コース終了時に同じテストを行うことで、達成度も可視化・数値化できるそうだ。たしかに「レッスン前」「レッスン後」の料理写真のパネルを見ると、明らかにレベルが違う。

レッスンを受ける前に見た、料理診断テストの結果サンプル。「料理経験なし」だと複雑な調理工程や火加減、味付けの調整ができないという
レッスンを受ける前に見た、料理診断テストの結果サンプル。「料理経験なし」だと複雑な調理工程や火加減、味付けの調整ができないという
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こちらは「ベテラン主婦」。自分もこのレベルだと思っていたが
こちらは「ベテラン主婦」。自分もこのレベルだと思っていたが
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いきなり下ごしらえ中断、包丁の持ち方から教わる

  今回は体験レッスンなので、料理診断テスト抜きで、料理の手ほどきを受ける。習うのは「季節野菜のあえ物~練り白味噌がけ~」と「鯛の酒蒸し~ほたてしんじょうをのせて~」。「野菜のあえ物」は簡単そうでホッとしたが(後で大間違いだったことを思い知る)、「ほたてしんじょう」というあたりが、難易度が高そう。担当の山岡芳朗トレーナーのいかにも職人風の風貌に、さらに緊張感が高まる。

ハイレベルな料理人のオーラがただようトレーナーと緊張の対面。とはいえこのときはまだ、多少の自信があった
ハイレベルな料理人のオーラがただようトレーナーと緊張の対面。とはいえこのときはまだ、多少の自信があった
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 レッスンが始まり、まず指摘されたのが、「包丁を使う姿勢が自然ではない」こと。まな板の前に立つ姿勢やまな板との距離、ひじの角度、手の置き方まで「自然」になるよう、手取り足取り教えられた。最初は「いつものやり方のほうが自分には自然なのに」と内心抵抗を感じたが、教えられた通りにするとたしかに動きやすく、同じ動作を繰り返しても疲れにくい。また包丁の持ち方も間違っていたことが判明。「それでは硬いものを切るとき、力が入りにくいでしょう」と指摘され、正しい持ち方を教わった。こちらも持ち方を変えただけで、格段に力を入れやすくなった。いきなり“目からうろこ”の連打だ。

 まな板の前からどれくらい離れて立つべきか、どんな姿勢で立つべきか、正しい包丁の持ち方など、基本中の基本を教えてもらったところで、やっと下ごしらえに入る。酒蒸しにするタイに均等に塩を振るとき、塩を持っていないほうの手の甲に当たるように振ると跳ね返って落ちた塩は均等に散らばる、などのコツの数々に、「まるでマジックのよう」と驚がくの連続。だが驚がくしたのは筆者だけでなかったようで、「サヤエンドウの筋を取る」「エビの背ワタを取る」といった簡単なプロセスでも、筆者の雑で間違いだらけのやり方を見た山岡トレーナーが絶句するシーンがたびたびあった……。

刻むときの姿勢ばかりでなく、包丁の持ち方が間違っていたことが分かった。正しい持ち方で切ったら、少ない力でもラクに切れて驚いた
刻むときの姿勢ばかりでなく、包丁の持ち方が間違っていたことが分かった。正しい持ち方で切ったら、少ない力でもラクに切れて驚いた
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実技は冷や汗の連続、質問の連打に脂汗がダラダラ

 実技も冷や汗の連続だったが、それを上回るプレッシャーで苦悶の脂汗が出たのが、質問の連打。最初のうちこそ「煮物に味が染みるのはいつですか?」「はい、煮ているときではなく冷めるときです」「よくご存じで」とほめられ、「主婦の常識!」とこそばゆく思ったが、ほめられた記憶はそこが最後。以後、「しんじょうには一般的に3種類の魚を使います。その種類は?」など難易度の高い質問が相次ぎ、ついにはごく簡単な質問にさえ、「こんな簡単なことをあえて聞くのは、ひっかけに違いない」と疑心暗鬼に。深読みしすぎて珍答の連続になり、またしても山岡トレーナーを困惑させてしまった。

 塩が入った容器と小皿を前に出され、「こちらに『ひとつまみ』、こちらに『少々』入れてください」と言われたときは、前にその違いを調べたことがあったので、ホッとひと安心。親指と人差し指でつまんだのが「ひとつまみ」、それに中指を加えて3本指でつまんだのが「少々」、と自信満々やってみせたところ「はい、逆ですね」と言われ、がっくり。さらに、「ひとつまみの塩は約何グラムだと思いますか?」。もちろん答えられなかったが、答えは「約1グラム」。これを知っていれば、調理中にいちいち、スケールに乗せたり計量スプーンを出して計ったりしなくて済む。その後の味付けもラクで、何十年か前に知りたかった。

 仕事柄、料理の撮影によく立ち会うこともあり、盛り付けだけは自信があったのだが、トレーナーの盛り付けとはもちろん雲泥の差。野菜あえの手前に添えたサヤエンドウは「自然界で、こんな向きになってはいませんね」、と向きを直された。エビは頭と尻尾をカットして盛ると、それだけでプロの盛り付けっぽく見えることも知った。80分が終わると、濃密すぎた授業に、虚脱状態。「25年間、ほぼ毎日料理を作り続けた」というささやかな自信は、完全に崩壊していた。

「エビの背ワタを取ってください」という指示で殻をむこうとした筆者を山岡トレーナーがあわてて制止。殻をつけたままのエビをU字型に曲げ、殻の隙間から串を入れて背ワタを取る方法を伝授してくれた
「エビの背ワタを取ってください」という指示で殻をむこうとした筆者を山岡トレーナーがあわてて制止。殻をつけたままのエビをU字型に曲げ、殻の隙間から串を入れて背ワタを取る方法を伝授してくれた
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手の甲を使うと、魔法のように均等に薄く振り塩ができることを初めて知った
手の甲を使うと、魔法のように均等に薄く振り塩ができることを初めて知った
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「“塩ひとつまみ”は指3本で、約1グラム」。もしかしたら誰でも知っている常識かもしれないが、筆者は知らなかった
「“塩ひとつまみ”は指3本で、約1グラム」。もしかしたら誰でも知っている常識かもしれないが、筆者は知らなかった
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「鯛の酒蒸し」の盛り付け(左が筆者、右が山岡トレーナー)。「手前に添え物を持ってくる場合は、前が詰まりすぎないよう、メインを皿の中心より上にしてバランスをとる」など、この一皿の盛り付けだけで数個のアドバイスがあった
「鯛の酒蒸し」の盛り付け(左が筆者、右が山岡トレーナー)。「手前に添え物を持ってくる場合は、前が詰まりすぎないよう、メインを皿の中心より上にしてバランスをとる」など、この一皿の盛り付けだけで数個のアドバイスがあった
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LINEでのオンラインレッスンで料理漬けの毎日になる!?

 たった1回のレッスンでこうなのだから、この調子で10回通ったら、相当腕が上がりそうだ。そして同スクールがもうひとつ重視しているのが、専任トレーナーからのオンラインレッスン。課題メニューを毎日自炊して撮影し、RIZAP COOK のLINE@で報告して、トレーナーからフィードバックを受けるシステムだ。

 必然的に毎日料理漬けになるわけで、2カ月間で100のレパートリーを増やすという目標設定を達成した例もあるという。「毎日一流料理人のレッスンを受けているのと同じで、1日に換算するとレッスン料金は決して高くはない」(同社)という。

 10カ月前にオープンした自由が丘店の利用者の男女比率は女性7:男性3で、一般的な料理教室よりはるかに男性が多い。これは個人レッスンのため他人の目が気にならないという理由もあるのだろうが、男性は飲食店の開業や海外赴任、共働きのパートナーを助けるためなどさまざまな目的で通っているという。料理経験が全くないのに飲食店をオープンしなければならなくなったある男性には、元シェフだったトレーナーが料理技術だけでなく、メニュー開発から厨房の設備のアドバイスまでしたという。

 今後、急ピッチで多店舗展開するとなると、トレーナーとなる料理人を集めるのが大変では?という疑問も浮かぶ。同社によると募集に対して、300人以上の応募があったが、採用率は数%程度だったとか。たしかに80分間、マンツーマンでレッスンを行うのだから、料理の腕さえよければいいというわけにはいかず、人間性やコミュニケーションスキルも重視され、選考基準も厳しくなるのだろう。

 筆者が個人レッスンを受けた山岡トレーナーも、指摘は厳しかったが、上品でユーモアもあり、(お金があれば)レッスンを受けてみたい、と思わせる人柄だった。質問の連打も「生徒さんのほうから質問がない場合が多いので、しかたなくこちらからお聞きしている」とのこと。レッスン後、緊張から解放されて、ふだんから知りたかったいろいろな料理の疑問をぶつけたところ、ズバリの答えだけでなく、さらにハイレベルな知識も伝授してくれた。グループレッスンの場合は「先生の話を聞く」という受け身になりがちだが、同教室の場合は先生を独占できるのだから、こちらから積極的に聞かなければ損をすると痛感した。

家での練習も、トレーナーがLINEでチェックし、アドバイスをする
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(文/桑原恵美子)

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