便秘の特効薬としておなじみの浣腸(かんちょう)が、この10年で大きな変貌を遂げている。これまでは、浣腸の代名詞にもなっているイチジク型が主流だったが、新たにジャバラ型の容器が登場。ひと押しでつぶしやすい形状が液残りの不満を解消し、高齢者にも使いやすいと人気を集めている。

 日本初のジャバラ型浣腸を開発したのは、兵庫県の淡路島に本社と工場を構える浣腸専業メーカーのムネ製薬だ。同社は「コトブキ浣腸ひとおし(以下、ひとおし30)」の商品名で2006年8月に発売。さらに、2017年5月、ジャバラ型の第2弾「コトブキ浣腸ひとおし40プレミアム(以下、ひとおし40プレミアム)」を発表し、累計出荷本数は3000万本を突破した。そこで、がんこな便秘に悩むヘビーユーザーからも高い評価を得ているという新商品の秘密を探った。

2017年5月に発売された“プレミアム浣腸”「コトブキ浣腸ひとおし40プレミアム」(定価は2個入り400円、10個入り1800円。実勢価格は10個入りで1280~1380円)
2017年5月に発売された“プレミアム浣腸”「コトブキ浣腸ひとおし40プレミアム」(定価は2個入り400円、10個入り1800円。実勢価格は10個入りで1280~1380円)
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ユーザーの不満の声から生まれたジャバラ型浣腸

 ムネ製薬が今年5月に発売したひとおし40プレミアムは、ジャバラ型の容器で、お尻に挿入するノズルの長さがかなり長い。しかも、ノズルがうねうねしたウエーブ状になっているのが大きな特徴。容量は40グラムで普及版のひとおし30より10グラム多い。

 開発のポイントについて、同社の西岡一輝社長はこう説明する。「新商品は浣腸の3大不満である『液残り』『ノズルの長さ』『容量』を解決し、さらに挿入しやすくした。当社ではすべての商品に消費者カードを封入していて、『量を多くしてほしい』『もう少し奥に入れたいので先を長く』といった、ユーザーの声に応えた」。

 そもそも浣腸の常識を覆すジャバラ型の容器も、消費者カードに書かれていた不満の声から生まれたという。「使用後の容器に液が残っているのが気になる」。液残りに対する不満は6割を占めていた。イチジク型容器の場合、製造工程上、底に厚みが出てやや硬くなるため、液をすべて注入するのが難しい。そのせいで、効き目に対する疑問やもったいないという感覚がユーザーの不満の原因になっていたという。

 そこで、最初に縦型ジャバラが考案されたが、実際に使ってみるとうまく押しつぶせない。考えあぐねていた矢先、同社の西啓次郎会長が旅行先のウィーンの街角で見かけたアコーディオンが、横型ジャバラのヒントになったという。

 「アコーディオン型にすれば容器を簡単に押しつぶすことができ、使用後の残量が改善できると思った」と西会長。帰国後、早速、容器メーカーと共同で横つぶし式の浣腸薬を開発。挿入ノズルも少し長くすることで、液残りを3分の1に減らすことができた。

 「顧客の6割は60歳以上の高齢者なので、押しつぶしやすいジャバラ型の登場は革命的だった」と西岡社長。しかも、イチジク型と違い、床に立てて置けるので衛生面でも評価が高かった。

左が今回のひとおし40プレミアム。ジャバラ型の容器で、お尻に挿入するノズルが長いうえにうねうねしたウエーブ状になっているのが特徴。右は従来のイチジク型
左が今回のひとおし40プレミアム。ジャバラ型の容器で、お尻に挿入するノズルが長いうえにうねうねしたウエーブ状になっているのが特徴。右は従来のイチジク型
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ノズルがなぜ“うねうね形状”になったのか

 同社が今回のプレミアム商品の開発に着手したのは今から5年前。その2年前に業界最大手のイチジク製薬もジャバラ型を発売したのを機に「ひとおし30を超える商品を作ろう」という気運が社内で高まったという。

 消費者カードからユーザーの声を洗い出したところ、液残りの次にノズルの長さに対する不満が判明。そこで、新商品では業界最長45ミリのロングノズルを採用した。通常は30~35ミリなのでかなり長い印象だが、しっかり挿入できる。

 ノズルが長くなったぶん、形状にも改良が加えられた。スムーズに挿入できるようにノズルにオイルなどを塗る人も少なくないため、スルッと入るウエーブ状ノズルを業界で初めて採用。3つの波をつける新技術によって、乾燥状態でも抵抗を少なくし、より挿入しやすくなった。

 特許を取得したウエーブ型ノズルのアイデアは、痛くない注射針や金型製造からヒントを得たという。「どちらも表面が細かくギザキザ状になっている。そのほうが接触面積が減るため、注射の痛みが感じにくくなったり、金型が抜けやすくなったりする」(西岡社長)。

 開発にあたっては、波の高さや間隔を変えたノズルの試作モデルを複数作製。実際に人間の腕の皮膚で摩擦力を測定する実験を行い、ウエーブ型ノズルがいかに摩擦力が低く、挿入しやすいかを実証した。

ウエーブ状ノズルを業界で初めて採用。さまざまな波の数と形状を試した結果、3つの波に行き着いた
ウエーブ状ノズルを業界で初めて採用。さまざまな波の数と形状を試した結果、3つの波に行き着いた
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大容量タイプが成長し、客単価は上昇中

 同社は業界大手のイチジク製薬の業績に肉迫し、2016年にはついに出荷本数でトップに躍り出る。浣腸工業会データによると、国内の一般向け浣腸の市場規模は30~40億円でここ数年はほぼ横ばいで推移。出荷本数は約1億本で、そのうち約3000万本を同社が生産している。

 そんななか、30グラムの浣腸の出荷数量がこの5年間で866万本減少する一方、40グラムの商品が急成長。5年間で1.5倍の805万本に増え、市場シェアは約30%に上昇。浣腸の主流は明らかに30グラムから40グラムへと大容量にシフトしている。

 「その要因はトップメーカーが40グラム10個入りを発売したことで、大手バイヤーの認知度が上がり、陳列を見直したことが大きい。結果、顧客の認知度も上がり、客単価が上がって売り上げが増えた。ネット販売でも効き目が強い40グラムが売れ筋になっている」(営業部西日本統括マネージャーの酒井公彦氏)。

 さらに、60歳以上の男性ユーザーが増えたこと、ドラッグストア間の競争激化により、顧客満足度が高く、単価の高いプレミアム商品が求められているという。昨今の市場変化を察知し、いち早く投入したのが、ひとおし40プレミアムというわけだ。

 定価は2個入り400円、10個入り1800円。実際は10個入り1280~1380円で店頭販売されるようだが、「売り上げも利益もとれる商品。これを機にブランド力も強化していく」と、酒井マネージャーは自信を見せる。 

「3Dプリンターが普及したおかげで、試作品の金型も5万円ほどですぐに作れた」と西岡一輝社長
「3Dプリンターが普及したおかげで、試作品の金型も5万円ほどですぐに作れた」と西岡一輝社長
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浣腸を知らない若い世代に奇抜アピール

 最近「うんこ漢字ドリル」がヒットし、人前で口に出すのははばかられる言葉が脚光を浴びているが、この風潮は同社にとっては大歓迎という。実は同社はこれまで、鳥や動物のふんから作った商品のプレゼントキャンペーンで「ウンコスメ」や「ウンチ、当たります」といった奇抜なコピーを採用。遊び心のある広告戦略が話題を呼び、業界内ではユニークな会社で知られている。

 「浣腸業界では後発で企業規模も小さかったので、かつては“無名製薬”とも言われていた。そこで、週刊誌に小さな広告を出したのをきっかけに、低予算だが記憶に残る広告にこだわってきた」(西岡社長)

記憶に残る広告を重視し、インパクトのある奇抜なキャッチコピーやユニークなイラストなどで注目を集めてきた
記憶に残る広告を重視し、インパクトのある奇抜なキャッチコピーやユニークなイラストなどで注目を集めてきた
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店頭のプロモーションツールもユニーク
店頭のプロモーションツールもユニーク
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淡路島の観光センターやドラッグストアなどに販促目的で無償提供したトイレットペーパー。「一日一便!!」「エコよりも今はウンコ」など笑えるコピーが印刷されている
淡路島の観光センターやドラッグストアなどに販促目的で無償提供したトイレットペーパー。「一日一便!!」「エコよりも今はウンコ」など笑えるコピーが印刷されている
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 ひとおし30の発売に合わせて登場したのが、ジャバラ型のヘアスタイルをしたヒーローキャラの「ひとおしくん」だ。生みの親は有名イラストレーターの花くまゆうさく氏。ひとおしくんは本社近くの道路脇の広告にも描かれ、今では同社の“看板息子”として来客を出迎える。

ジャバラ型のヘアスタイルをした同社のキャラクター「ひとおしくん」
ジャバラ型のヘアスタイルをした同社のキャラクター「ひとおしくん」
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ひとおしくんは本社近くの道路脇の広告にも描かれている
ひとおしくんは本社近くの道路脇の広告にも描かれている
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 かつては、家の常備薬だった浣腸が核家族化によって姿を消し、自宅で浣腸を体験する機会はほとんどなくなった。若者のなかには浣腸の存在自体知らない人も増えている。

 「そのせいで赤ちゃんの便秘にも浣腸するのを怖がってしまう。浣腸は最も安全で簡便な便秘治療薬であることを再認識してもらい、若い世代にも広めていきたい」と、西岡社長は訴える。

 その一環として昨年9月には便秘で悩む女性向けの特設サイトを開設。ネット通販各社のサイトにもリンクしており、使い勝手のいい新製品を試し買いする女性が増える可能性は高い。ただ、お尻に挿入することに抵抗感がある人やまったく知らない層に良さを伝えるには時間がかかる。体に関する繊細なことだけに、今後も地道な啓蒙活動が必要だ。

(文/橋長初代)

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