日本人の国民食ともいえるカレーとラーメン。この二つが合体したら、相乗効果でもっとおいしくなるのでは? そう考えたことはないだろうか。だが即席麺業界ではカレーとラーメンは相性が悪いと言われており、多くのメーカーがカレー味のラーメンを発売しているが、いずれも短命に終わっている。

 「カレーラーメンは売れない」――そんな定説が業界にあり、例外は1973年に発売されて定番商品となっている日清食品の「カップヌードル カレー」。そこから43年たった今も、同商品に続くカレーラーメンの定番商品は出ていない。

 その定説が今、変わる兆しがある。明星食品は2015年9月から2016年7月にかけて、エスニック料理の名店監修によるカレーラーメン4品(+カレー焼きそば1品)を発売。いずれも好調だという。

 シリーズ第1弾は、2015年9月に発売された「明星 銀座デリー監修 カシミールカレーラーメン」(以下、カシミールカレーラーメン)。東京・銀座にあるインド・パキスタン料理の名店「デリー」監修で、同店の人気メニュー「カシミールカレー」をラーメンにアレンジしたコンビニ向け商品だ。発売1週間で販売目標を達成するほど売れ、供給体制が整うまで一時的に販売休止となったほど(同年12月に販売再開)。

 続いて2016年2月には、同じくデリーの監修でカレー味のカップ焼きそば「明星 銀座デリー監修 マサラカレー焼そば」を発売。こちらも発売1、2カ月で販売目標を達成している。2016年5月にはタイ料理専門店「マンゴツリー東京」監修によるカレーラーメン「明星 スパイスタイム マンゴツリー東京監修 チェンマイカレーラーメン」(以下チェンマイカレーラーメン)を発売。同時に、銀座デリーシリーズ第1弾を量販店向けのレギュラーサイズにした「明星 スパイスタイム 銀座デリー監修 カシミールカレーラーメン」を発売したと ころ、どちらも好調。2016年7月には、「明星 銀座デリー監修 コルマカレーラーメン」(以下コルマカレーラーメン)を発売した。

 いったい同シリーズは、「売れない」といわれてきた従来のカレーラーメンと何が違うのか。そして今後、新たな定番カレーラーメンとしての地位を確立できるのか。

「明星 スパイスタイム 銀座デリー監修 カシミールカレーラーメン(レギュラーサイズ)」(希望小売価格180円)
「明星 スパイスタイム 銀座デリー監修 カシミールカレーラーメン(レギュラーサイズ)」(希望小売価格180円)
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銀座デリー監修シリーズ第2弾、2016年2月に発売された「明星 銀座デリー監修 マサラカレー焼そば」(希望小売価格 205円)
銀座デリー監修シリーズ第2弾、2016年2月に発売された「明星 銀座デリー監修 マサラカレー焼そば」(希望小売価格 205円)
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東京・丸ビルにあるタイ料理専門店「マンゴツリー東京」が監修した「明星 スパイスタイム マンゴツリー東京監修 チェンマイカレーラーメン」(希望小売価格180円)
東京・丸ビルにあるタイ料理専門店「マンゴツリー東京」が監修した「明星 スパイスタイム マンゴツリー東京監修 チェンマイカレーラーメン」(希望小売価格180円)
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2016年7月発売の「明星 銀座デリー監修 コルマカレーラーメン」(希望小売価格205円)
2016年7月発売の「明星 銀座デリー監修 コルマカレーラーメン」(希望小売価格205円)
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カレーラーメンには売れるための“2大条件”がある!?

 同シリーズの企画開発を担当した明星食品マーケティング本部の平田寿光ブランドマネージャーは、グループ会社である日清食品冷凍から異動。「カップ麺の知識はほとんどなかったが、どうせやるからにはこれまでと違う新しいトレンドを作りたいと思い、あまり成功例のないカレーラーメンを深堀りしてみようと考えた」という。

 ちょうどそのころ、カップ麺業界にはひとつの“事件”が起こっていた。それは2014年4月に明星食品のグループ会社である日清食品から発売された「カップヌードル トムヤムクン ヌードル」が大ヒットし、定番商品となったこと。「1年間に各メーカーから発売される即席麺の新商品は合計で1000種類以上にも上る。その中で定番商品として残るものは2~3年にひとつあるかないか。それが今までは受け入れられにくいといわれていたエスニック味から出たことに大きな衝撃を受けた」(平田ブランドマネージャー)。2014年にはマッサマンカレーの人気が高まったこともあり(関連記事:「この夏のカレーはなぜ「マッサマン」だらけ? レトルト、缶詰、ファミレスまで」)、エスニック的な味を求める流れがベースにあるのだろう。

 そこでエスニック系のカレーとラーメンを合体させたカップ麺の開発を開始。従来、売れるカレーラーメンに不可欠な条件は「柔らかい食感で太めのフライ麺」「甘みととろみ、濃厚感のあるマイルドなカレー味のスープ」が定説だった。だがこれらの条件はすべて、超定番であるカップヌードル カレーの特徴だ。そのため、この定説にできるだけ沿って試作を繰り返していると「カップヌードル カレーの味を薄くした、劣化版のようなものしかできなかった」(明星食品 マーケティング本部 阿部文武副主事)。

 平田ブランドマネージャーが提案したのは、明星食品の即席麺の得意分野であるノンフライ麺を使用すること。「せっかく得意分野なのだから、生かしたほうがいいと単純に考えただけ。カップ麺の予備知識がなかったから、常識にとらわれることなく提案できたのかもしれない」(平田ブランドマネージャー)。半信半疑で試してみたところ、スパイシーで濃度の薄いエスニックカレーにはノンフライ麺が非常によく合うことが分かったという。「フライ麺は油で揚げることで、独特の香ばしさを出している。それが好まれているのだが、それがエスニックカレーのスパイシーさを殺してしまっていた。だからフライ麺でエスニックカレーラーメンを作ると、カップヌードル カレーを薄味にしたようなものしかできなかったことに気がついた」(阿部副主事)。今となってみれば簡単なことだが、やってみるまでは誰も気づかなかった発見だったという。

 そこから今までのカップ麺にない本格的なスパイシー感の追求が始まり、改良を重ねて完成したのが第1弾「明星 銀座デリー監修カシミールカレーラーメン」。第2弾の「明星 銀座デリー監修 マサラカレー焼そば」はフライ麺だが、「麺にスパイスを直接絡めたら、もっとスパイシーさが引き立つのでは」と考えたのがきっかけだという。こちらも、従来にはなかった本格的なスパイシー感のあるカレー焼きそばとして、好評を得た。

 今までの常識に挑戦したカレーラーメンということで、パッケージにも工夫した。カップ麺売り場で目立たせるには、いかに違和感を出せるか。新商品の場合、できるだけパッケージに情報をたくさん入れたくなるが、ぐっとこらえてあえて“空間”を作った。また表面は日本語表記にしたが、裏面は外国語表記にして輸入品のようにも見えるデザインにした。「面白いと思ってもらえたのか、あえて裏面だけ見せて陳列してくれた店もあった」(平田ブランドマネージャー)。

 これまでのカレーラーメンとあまりに異質だったため、第1弾商品の販売目標は控えめに見積もっていた。だが最近は営業部門からも「このままコンスタントに出していけるのでは」という声が多いという。

 購入者からは「本格インドカリーでも麺に合う新発見の味!」「日清カップヌードル超えたかも!」という称賛の声も多い一方、カップヌードル カレー愛好者からははっきり「まずい」という意見もあるという。つまりカップヌードル カレーのように万人受けする味ではないということ。「自分たちはそれでもいいと思っている。今後のヒット商品のポイントは、今までの踏襲商品以外の“新規テーマ”がプラスオンできることではないか。細めのノンフライ麺、スパイシーでさらりとしたスープという定説とは真逆のカレーラーメンの新しい魅力を多くの人に知ってもらい、少しずつファンを増やしていきたい」(平田ブランドマネージャー)。

正面は日本語表記
正面は日本語表記
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裏面は外国語表記で、輸入食品のようにも見えるデザイン
裏面は外国語表記で、輸入食品のようにも見えるデザイン
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2015年9月に発売された第1弾、タテ型ビッグサイズカップ麺「明星 銀座デリー監修 カシミールカレーラーメン」のパッケージではできるだけ情報を入れず、空間を多く取ったデザイン。情報量の多いパッケージだらけのカップ麺売り場での違和感を狙っている
2015年9月に発売された第1弾、タテ型ビッグサイズカップ麺「明星 銀座デリー監修 カシミールカレーラーメン」のパッケージではできるだけ情報を入れず、空間を多く取ったデザイン。情報量の多いパッケージだらけのカップ麺売り場での違和感を狙っている
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第1弾商品の発売時、「辛くてびっくりした」というクレームがあったため、辛さの基準を目立つように入れている
第1弾商品の発売時、「辛くてびっくりした」というクレームがあったため、辛さの基準を目立つように入れている
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真価を発揮したのはラーメンを食べ終わった後!?

 ハマる人はハマり、カップヌードル カレー愛好者にはきっぱり否定されるという明星食品のカレーラーメン。筆者はカップヌードル カレーも好きだが、年に1~2回食べれば気が済む程度で、愛好者というほどではない。エスニックカレーも嫌いではないが、積極的に食べるほどではない。そういう人間が、同社のカレーラーメンを食べるとどうなのか。試食してみた。

 ある意味、最もインパクトがあったのが、第一弾の「カシミールカレー」。ふたを開けた瞬間からスパイスの香りが立ち上がり、湯を注いで3分待ってふたを開けると、エスニックカレー店にいるような香りが広がって驚いた。香りは鮮烈だが、辛さはそれほどでもない。カップヌードル カレーよりちょっと辛いくらいで、辛いのが苦手な人でも大丈夫……。と思っていたら、1/3くらい食べたあたりからどんどん辛くなってきて、半分まで食べたら汗がダラダラ。辛さにあまり強くない筆者は、残り1/3でリタイア。この加速度的にパワーアップする辛さは初体験! 食べてから気がついたが、辛さを示す星は5つで「極辛」だった。「辛いじゃないか」というクレームが来たというのも無理はない。だが不思議な爽快感があった。1カ月で販売目標をクリアしたのも納得。これを定番化してくれたら、きっと買うと思う。

 続いてマンゴツリー東京監修のチェンマイカレーラーメンを食べてみた。こちらは「やや辛」だけあって、ふたを開けた瞬間に広がるのは、ココナッツミルクと肉系スープのマイルドな香り。たしかにスパイシーではあるが、安心して食べられる味と思ったら、やはり本場っぽい辛さが後からジワジワ来た。これは完食できた。

 現在発売中のコルマカレーラーメンの辛さ表示は、星三つの「辛口」。カシミールカレーのようにインパクトの強いガツンと感じる辛さではなく、うまみの強い濃厚なスープに個性の強いスパイスが溶け込んでいる感じ。辛さとうまみのバランスが良く、カシミールカレーラーメンよりこちらが好き、という人も多いかもしれない。

 カシミールカレーラーメンを食べ終えてから、ネットのカシミールカレーラーメン絶賛コメントのひとつに「本領を発揮するのは白米を投入してからだ」という箇所を発見。チェンマイラーメン、コルマラーメンでライスを投入してみたら、これが絶品!米の甘みが土台となって、スパイスの個性がより強く感じられる。カレーラーメンのスープなのに、ライスで真価を発見してしまったことに、やや複雑な思いだった。

カシミールカレーラーメンのスープは黒っぽくてサラサラ。湯を入れる前から、スパイスの強烈な香りが立ち上がる。最初はそれほど感じないのに、ひと口食べるごとに辛さが増していき、手が止まらない不思議なおいしさだった
カシミールカレーラーメンのスープは黒っぽくてサラサラ。湯を入れる前から、スパイスの強烈な香りが立ち上がる。最初はそれほど感じないのに、ひと口食べるごとに辛さが増していき、手が止まらない不思議なおいしさだった
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チェンマイカレーラーメンはコクのあるスープにココナッツミルクを加えたマイルドな味。だが辛さやスパイスの香りも、さりげなく主張していて奥深い味わいだった
チェンマイカレーラーメンはコクのあるスープにココナッツミルクを加えたマイルドな味。だが辛さやスパイスの香りも、さりげなく主張していて奥深い味わいだった
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現在発売中のコルマカレーラーメン。スープの濃度は3品の中で最も濃厚で、パスタのようによく麺に絡む。炒めたタマネギをたっぷり使った濃厚なうまみがあり、パンチのある辛さと香りとのバランスが良い
現在発売中のコルマカレーラーメン。スープの濃度は3品の中で最も濃厚で、パスタのようによく麺に絡む。炒めたタマネギをたっぷり使った濃厚なうまみがあり、パンチのある辛さと香りとのバランスが良い
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チェンマイカレーラーメン、コルマカレーラーメンを食べ終わった後のスープにライスを投入。スープに使用されているスパイスの個性が、より際立って感じられた
チェンマイカレーラーメン、コルマカレーラーメンを食べ終わった後のスープにライスを投入。スープに使用されているスパイスの個性が、より際立って感じられた
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(文/桑原恵美子)