大事なのは作品の情報や価値ではなく、「面白いかどうか」だけ

 今回の企画の発起人であるセクシーキラーくんは、DJやさまざまなイベントの企画、イラストレーターとしても活動しており、知れば知るほど何を考えているのかよくわからなくなる不思議な人だ。彼もまた、文化屋の存在は知っていたものの、閉店直前までお店に足を運んだことはなかったのだという。1年前から時間をかけて準備を進め、今回の企画を実現した彼が文化屋に興味を持ったのはそもそもどういうきっかけだったのか。

今回の企画の発起人であるセクシーキラーくん
今回の企画の発起人であるセクシーキラーくん
[画像のクリックで拡大表示]

 「えーっと」とキラーくんはしばらく考えていたあと、朴訥(ぼくとつ)ないつもの調子で答えてくれた。「もともと(太郎さんの息子さんである)長谷川踏太さんとイベントとかを通じて交流がありまして。で、踏太さんと文化屋雑貨店とのつながりを知って、お父さんの話も聞いてみたいなと。それで太郎さんの本が出たときにナガオカケンメイさん(※1)とのトークイベントがあったのでそれに行ってみたりしました。初めてちゃんとお話ししたのは2015年の清澄白河のバッグ展(※2)のときで、近所だったんで毎日通い詰めて、そこで太郎さんとお話しして、僕がやってる天才算数塾(※3)でやるイベントのゲストに来ていただいたりするようになって……という感じですかね」

※1 デザイナーで、ロングライフデザインをコンセプトにしたストア「D&DEPARTMENT PROJECT」の創設者

※2 2015年7月、閉店から半年後に文化屋雑貨店が「再見 文化屋雑貨店」と題して主催した展示。数十名の参加者がそれぞれ無地のトートバッグにデザインを施し展示販売した

※3 キラーくんが主宰として運営している浅草橋のイベントスペース。展示やトークイベントなどを開催。元々は子どもにインド式の計算術を教える塾だったことからこの名前になった


 ちなみにこのバッグ展にも僕は参加していて(バッグにマジックで太郎さんと会った日の話を書いた)、会場となった清澄白河のギャラリーに様子を見に行ったとき、「セクシーキラーとかいう変なやつが現れたんですよ!」と太郎さんがわくわくした様子で話していたのをよく覚えている。太郎さんもキラーくんも、お互い出会ってすぐにビビッときたというわけだ。

「やっぱり、太郎さんの考え方とか見方が面白くて、分け隔てなくいろんなものに反応するんだけど、基準ははっきりとあって、面白いものはどんなものでも面白いと言いますし、どんなに世間で評価されていてもつまらなかったらはっきりつまらないと言うし」とキラーくんはお茶を飲みながら言う。「お店をやってたのに、商売でものを見るんじゃなくて、いいと思えるかどうかだけで動いてるので、そういうところが面白いと思って、何か一緒にできるんじゃないかなーと」

 世評やキャリアなどによらず物事を見ること。そして常に変化と刺激を求めて行動的であること。これはキラーくんのさまざまな活動にも共通していると思う。

 世界的に有名なアーティストのライブにも行けば、地元の祭りや盆踊りにも行く。美術館の展示品も、市井の人が趣味でつくった作品も、同じ俎上(そじょう)で眺める。大事なのは作品に付帯する情報や価値ではなく、おもしろいかどうかだけ。シンプルだが、この真っ当さを持つことはとても難しい。

 しかし太郎さんもキラーくんも、そんな審美眼を養い、持ち続けて、それを基準に動いてきた人だ。場所や人と関われば、どうしたってさまざまなしがらみや問題、苦労にぶつかることになるが、ふたりはそういった問題を丁寧に解消し、あるいは軽やかにすりかわし、いつも楽しそうにことを進めている。手間を惜しまない。そして権威とは慎重に距離を置く。そんな姿勢に引かれ、また人が集まってくる。

 太郎さん曰く、今回のイベントの参加者も、店を閉めてから出会った人のほうが多いのだそう。文化屋雑貨店は、今も刺激を求めて動き続けているのだ。