収益確保が難しい海外遠征、乗り合いの解も

 「アイドルのグローバル展開」と言えば、これまではアイドルの海外遠征を意味していた。現在でも、遠征を定例行事とするアイドルは多い。トップアイドルでいえば、AKB48や、モーニング娘。を筆頭としたハロー!プロジェクト各グループ、でんぱ組.incなどはもちろん、より集客規模の小さなアイドルでも積極的に海外展開を図っているグループが多い。具体的には、わーすたやLinQ、東京女子流などが海外公演で実績を残している。中には演歌女子ルピナス組(Enka Girls)のように海外のファン数が国内の100倍以上という猛者(もさ)もいる(記事後半のコラムを参照)。

海外公演も多いでんぱ組.inc。アイドル横丁夏祭り!!2018にて
海外公演も多いでんぱ組.inc。アイドル横丁夏祭り!!2018にて
[画像のクリックで拡大表示]

 ただ、海外でも一定数以上の固定ファンを獲得できるトップグループ以外は、単発の海外遠征で確実に利益を得るのは難しい。特にアジア圏では、日本との物価格差もあり、国内並みの有料興業ではなかなか集客が難しいという。さらに、メンバーやスタッフの海外渡航費や宿泊費、現地コーディネータの確保やビザ取得など、多くの障害がアイドルの海外公演を阻んでいる。

 このため、興業を「乗り合い」で実施することで、イベント自体の企画や運営の負担を軽くしようと、アイドルフェス形式で複数のアイドルが共演するケースも多い。大手イベントでは、@JAMシリーズ(@JAM in 上海、@JAM x TALE in Hong Kong)がよく知られているが、今年は国内最大級のアイドルフェスTOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)も満を持して海外展開を開始した(TIF in Bangkok)。

 それでは、なぜアイドルは利益確保が難しくても海外遠征に出るのか? 大きな理由の一つは、海外公演の実績そのものにある。海外公演の実績を日本国内でアピールすることによって、国内の集客を増やす戦略だ。ただし、欧米志向の強い日本人にはアジア圏での実績がそれほど集客につながらないとする見方もある。

BNK48。今年初めて海外進出したTIF in Bangkokに招待された
BNK48。今年初めて海外進出したTIF in Bangkokに招待された
[画像のクリックで拡大表示]
タイのアイドルファン。TIF in Bangkokにて
タイのアイドルファン。TIF in Bangkokにて
[画像のクリックで拡大表示]

加速する現地アイドルビジネス

 一方、日本のAKBグループの総合プロデューサーが創設した現地アイドルグループの活動が、ここへ来て活発になっている。インドネシア・ジャカルタに本拠地を置くJKT48は2011年結成とすでに6年が経過、2017年にはタイ・バンコクでBNK48が始動した。JKT48と同じく総合プロデュースは秋元康氏で、運営事務所は現地に設立したBNK48 Officeである。

 2017年初頭に旗揚げしたBNK48は、短期間で急成長を見せた。専用のオープンスタジオを開いたり、AKB48曲のタイ語バージョン『Aitakatta(日本版:会いたかった)』と『Koisuru Fortune Cookie(日本版:恋するフォーチュンクッキー)』を立て続けにリリースしたりして、驚異的な売り上げとYouTubeの再生回数を記録。さらに、タイ語の“恋チュン”を一般人が歌い踊る動画が次々とネットに上がり、タイでは社会現象とまで呼ばれる盛り上がりを見せた。

 BNK48は今年に入っても勢いが衰えず、3月、4月に初開催した単独コンサートでは、ものの数十分でチケットがソールドアウト。加えて、バンコク市内のショッピングモールにBNK48劇場を作った。さらに、前述のTIF in Bangkokに招待されると、3日間の集客1万5000人(フジテレビ発表値)の原動力にもなった。この8月には、日本で開催されるTIFに招待されることも決定した。

 このように勢いづくBNK48に加え、AKB48グループは今年、台湾・台北でTPE48、フィリピン・マニラでMNL48が活動を開始している。また、6月に開催された「第10回 AKB48世界選抜総選挙」では、世界選抜となるWRD48を発表。センターには、BNK48のキャプテンであるチャープランが就任した。さらに、中国・上海でAKB48 TeamSH、インド・ムンバイでMUM48のデビューを予定し、着々と世界戦略のコマを進めている。

 こうした日本国内プロデュースによる現地タレントビジネスのメリットは大きい。まず、日本国内で熟成したビジネスモデルを流用するので、安定したビジネスを展開できる。次に、いわゆる「外タレ」ではないので、愛国心を煽りやすく親近感も得やすい。海外遠征のような多大なコストもかからないし、現地のこと細かな状況に対応できるので柔軟性も高い。日本のプロデュース側は「プロデュース料」として一種のライセンス料を収入にするので、ビジネス上のリスクも小さくできる。