ユニクロは英国出身のファッションデザイナー、ハナ・タジマ氏とコラボしたライン「ハナ タジマ フォー ユニクロ」の日本国内販売を2016年6月30日に開始した。同コレクションは2015年秋冬からマレーシア、シンガポール、インドネシア、タイで発売。2016年春夏にはフィリピン、米国、英国へと販路を拡大し、東南アジアのみならず欧米でも好評を得たことから日本での発売に踏み切った。今秋冬からは中国、韓国でも展開するという。

 特徴は、イスラム教徒(ムスリム)の女性が着用する伝統的なファッションを取り入れていること。ヒジャブ(頭髪や体を隠すための布)やカバヤ(ロングカーディガンのような上着)などがその代表だ。ユニクロが提案する「ライフウエア」のコンセプトに基づき、機能性とファッション性を兼ね備えたデイリーウエアとして提案されている。

 ムスリムファッションという新たなジャンルに取り組んだ理由について、ユニクロを展開するファーストリテイリングの勝田幸宏執行役員は「2年前、アセアンマーケットを拡大していくなかで、従来のラインだけでは対応できないことに気づいた。ムスリムファッションは保守的な女性らしさを追求しながらも快適性を求める点でユニクロと共通している。新しい文化と我々のものづくりを融合したことで、これまでになかった着こなしや使い方があることを日本人にも知ってほしい」と話す。

 同社のアセアンビジネスは、2009年のシンガポール進出を皮切りにスタート。2010年にマレーシア、2011年にタイ、2012年にフィリピン、2013年にインドネシアと着実に拡大してきた。2016年3月期末時点の店舗数は、シンガポールに24店舗、マレーシアに33店舗、タイに30店舗、フィリピンに27店舗、インドネシアに9店舗を展開。今後も、海外ユニクロ事業の成長ドライバーとして大量出店による拡大戦略を継続する予定だ。 

 ただ、アセアン地域にはイスラム教徒が多く、ムスリムファッションを展開するのは必然といえるが、イスラム教徒の少ない日本で果たして需要があるのだろうか。日本で展開する背景を探った。

ムスリムファッションを取り入れた新ライン「ハナ・タジマ フォー ユニクロ」のコレクション。(左)「ストライプラップロング ジャケット」(4990円)、「リネンスタンドカラーブラウス」(3990円)、「イージーワイドアンクルパンツ」(3990円)、(右)「ヒジャブ」(1990円)、「タイバックブラウス」(3990円)、「イージーアンクルパンツ」(2990円)
ムスリムファッションを取り入れた新ライン「ハナ・タジマ フォー ユニクロ」のコレクション。(左)「ストライプラップロング ジャケット」(4990円)、「リネンスタンドカラーブラウス」(3990円)、「イージーワイドアンクルパンツ」(3990円)、(右)「ヒジャブ」(1990円)、「タイバックブラウス」(3990円)、「イージーアンクルパンツ」(2990円)
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ムスリム人口が世界で急増

 イスラム教の信者であるムスリムは、現在、世界に約16億人いるといわれている。全世界の人口の4分の1を占め、そのうち10億人がアジアに居住。最も多いのがインドネシアで2億2600万人、続いてパキスタン、インド、バングラデシュに1億数千人、ユニクロの店舗がある中国、マレーシア、フィリピンにも小さくない市場が存在する。「ムスリム人口は2030年に全世界の30%に達するとの見方もあり、巨大市場であることは明白だ」(日本ムスリムファッション協会)。

 なかでも、昨今、世界から注目を浴びているのがムスリムファッション。トムソン・ロイターの調査によると、2013年にイスラム教徒が服と靴に使った金額は2660億ドル(約27兆2697億円)にも上るという。2015年、H&Mの広告にヒジャブを被ったモデルが登場したほか、2016年に入ってからも「ドルチェ&ガッバーナ」が、ヒジャブなどのコレクションを発売。ファストファッションだけでなく、欧米のラグジュアリーブランドも、巨大市場に熱い視線を向ける。

 一方、日本国内のムスリムは全人口のわずか0.1%に過ぎないが、増加傾向にあるという。さらに、ビザ要件の緩和やLCCの就航、円安などが後押しし、ムスリムの訪日観光客が急増。日本ムスリムファッション協会によると「ムスリム向けビジネスに対する関心は高く、昨年から非常に多くの問い合わせがある。国内市場が景気低迷するなか、ビッグマーケットであるムスリム市場に参入したいアパレルメーカーは増えている」。

 そんななか、5、6年前から東南アジアの市場開拓を進めてきたユニクロにとっては、世界的に拡大しつつあるムスリムファッションを取り入れることは当然のなりゆきだったといえる。まだ市場規模の小さい日本では在留ムスリムとインバウンドが主なターゲットとなるが、デザイナーのハナ・タジマ氏は「ノームスリムも含め、さまざまなバッググラウンドを持つ全ての女性に着てほしい」と話す。欧米での売れ行きに手応えを感じた勝田氏も、「限られた国の人だけでなく、デイリーウエアとして日本の消費者にも受けるはず」といい、日本での展開に意欲を見せる。

ムスリムファッションは肌や体のラインが出ないようなデザインが特徴。今コレクションでは、ムスリム女性のみならず、日本人女性がデイリーに着こなせるようなゆったりとしたシルエットでシンプルなアイテムがそろう
ムスリムファッションは肌や体のラインが出ないようなデザインが特徴。今コレクションでは、ムスリム女性のみならず、日本人女性がデイリーに着こなせるようなゆったりとしたシルエットでシンプルなアイテムがそろう
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意外と多い日本人女性客

 ハナ タジマ フォー ユニクロの今秋冬コレクションは、全33型109色柄をラインアップ。「女性の体の形や動き、着たときの気持ちを大切にしている」というタジマ氏は、ユニクロのコンセプトである「ライフウエア」を「モデストウエア(控えめな服)」と解釈し、シンプルでエレガントな洋服を提案している。

 全体的に着心地の良さそうな、ゆったりしたシルエットや長めの丈が多いのは、体のラインを出さないムスリムファッションの大きな特徴のひとつ。「ムスリムでは、アウラ=女性の美しい部分を覆っているのが基本。手首と手足以外を覆っていること、透けていないことのほか、動物柄が入っていないなどの条件もある」(日本ムスリムファッション協会)という。

 ヒジャブやカバヤのほか、バジュクロンという伝統衣装の長めのブラウスを展開。ほかにも、動きを妨げないように深めのスリットを入れたり、重ね着風にしたり、ひもを使って着こなしの幅を広げたりしたデザインが多い。肌や体のラインの露出を抑えるというムスリムの基本を守りながらも、機能性とファッション性を兼ね備えているのが特徴だ。素材には、レーヨンやテンセルといった柔らかくてとろみのある素材を使用し、女性らしさを表現。色は「陶芸家の両親の影響で、陶芸のカラーパレットから取り入れることが多い」(タジマ氏)という。

 ユニクロ銀座店では、同ラインを5階のウイメンズフロアで展開。6月30日の発売日に売り場を訪れて感じたのは、意外なことに日本人女性の関心度が高いことだ。売り場には、コレクションのロゴパネルが掲げられてはいるものの、とくにムスリムファッションとはうたっていない。ただ、ユニクロの既存の商品とは異なり、エスニック色の強いコレクションだということは一見して分かる。そのせいか、普段から民俗調ファッションを好みそうな日本人女性が、ジャケットやブラウスなどを試着する姿が多く見られた。年齢的には中高年女性が目立ったが、エスニック好きの若い世代にも受けそう。

 また、パンツはイージーパンツやポンチ素材のパンツなど、ラクに履けて普段着ているトップスにも合わせやすいデザインがそろっている。売り場で人気があったのは、綿100%の薄いデニム素材を使った「イージーアンクルパンツ」(2900円)。大きなスリットポケットがついた古着感覚のジーパンで、ややハイウエストのすっきりしたデザインは若い世代にも好評という。トレンドのワイドパンツのシルエットなので、ノーカラーのコンパクトなブラウスなどを合わせれば、今風の着こなしを楽しめる。

 さらにヒジャブも、本来はムスリムではヘッドバンドのようなものを1枚かぶってから頭に巻くが、日本人の場合なら普通のストールとして使えばいい。さすがに暑い季節に巻いて外出することはできないが、冷房対策にはもってこいだ。

 ただ、2016年秋冬コレクションと打ち出しているように、高温多湿の日本の夏に着られそうなアイテムは数少ない。また、シーズン前に先物買いをすることがステイタスだった昔とは異なり、いまの日本人はジャストシーズンのものしか購入しない傾向が強い。そう考えると、今コレクションはやはりムスリムをターゲットにしているのだろう。加えて、おしゃれなコンフォートウエアとはいえ、あえてムスリムファッションを選ぶ日本人客は限られるはず。取扱店舗も、銀座、新宿、心斎橋といった訪日外国人客の比率が高い店に絞り込んでいる。

 在留ムスリムとインバウンドが第一のターゲットだが、あわよくばエスニック好きの日本人客を取り込めれば上々、というのが本音ではないだろうか。

写真真ん中がデザイナーのハナ・タジマ氏。陶芸家の両親を持つイギリス人と日本人のハーフ。18歳のときに改宗。同コレクションはユニクロ銀座店、ビックロ ユニクロ新宿東口店、ユニクロ吉祥寺店、ユニクロ心斎橋店とユニクロオンラインストアで販売
写真真ん中がデザイナーのハナ・タジマ氏。陶芸家の両親を持つイギリス人と日本人のハーフ。18歳のときに改宗。同コレクションはユニクロ銀座店、ビックロ ユニクロ新宿東口店、ユニクロ吉祥寺店、ユニクロ心斎橋店とユニクロオンラインストアで販売
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陶芸作品からインスピレーションを得たというオリジナルプリントの「バシュクロン」(3990円)と「レーヨンロングスカート」(2990円)。ロングカーディガンのようなカバヤはいろんな着こなしを楽しめる
陶芸作品からインスピレーションを得たというオリジナルプリントの「バシュクロン」(3990円)と「レーヨンロングスカート」(2990円)。ロングカーディガンのようなカバヤはいろんな着こなしを楽しめる
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オンタイムにも対応できる「ラップショートジャケット」(4990円)はベルトでウエストを絞ってもいいし、前を開けたままでもフェミニンな印象。「テンセルアンクルパンツ」(3990円)、リブの「ハイネックTシャツ」(1990円)
オンタイムにも対応できる「ラップショートジャケット」(4990円)はベルトでウエストを絞ってもいいし、前を開けたままでもフェミニンな印象。「テンセルアンクルパンツ」(3990円)、リブの「ハイネックTシャツ」(1990円)
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繊細な手描きの柄が個性的なフェミニンなレーヨンのワンピース(4990円)、同素材のスカート2990円
繊細な手描きの柄が個性的なフェミニンなレーヨンのワンピース(4990円)、同素材のスカート2990円
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流れるような質感のテンセル素材を使った「ロングワンピース」(4990円)、グラデーション染めの「ヒジャブ」(1990円)
流れるような質感のテンセル素材を使った「ロングワンピース」(4990円)、グラデーション染めの「ヒジャブ」(1990円)
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(文/橋長初代)