激辛ラーメン店に長い行列ができることは珍しい光景ではなくなった。世はまさに激辛ブームの真っ只中と思われているが、実は異変が起きている。

 筆者が異変を強く感じたのが、激辛の定番といわれているスナックを食べてみても昔ほど辛く感じなかったことだ(関連記事「激辛カップ麺“総選挙” 最強激辛はあの有名店!」「激辛スナック“総選挙” ビールに合うのはこの新商品!」)。SNS上でも「カラムーチョは辛くない」という意見が上がっている。いったい何が起きているのだろうか。

辛くしすぎたらユーザーが離れた

 激辛のスナックやカップ麺を製造するメーカーに取材してみて分かったのは、「行き過ぎた激辛は売れない」という事実だった。

 例えば、カラムーチョと並んで激辛ロングセラースナックとして知られる「暴君ハバネロ」。そのメーカーである東ハトの商品開発部 商品開発第一課の速水雄飛氏は、「ある程度の辛さを好む人は多くても、『激辛』を求める層はさほどボリュームが大きくないのではないかということに気付いた」と話す。

 暴君ハバネロは、「世界一辛い唐辛子(1994年当時)」としてギネスブックにも認定された唐辛子の一種・ハバネロを粉末にして練りこんだポテトスナックで、2003年11月から発売している。東ハトはキャラメルコーンやオールレーズンなど甘いスナックを多く手掛けており、購入者は30~40代の女性が圧倒数を占めていた。そこで男性層獲得のために目をつけたのが「激辛スナック」だった。

「暴君ハバネロ」(実売価格100円)。2018年1月にリニューアル。辛さはそのままに、ベースとなる生地を見直した。20~30代の独身男性の購入率が高く、酒のつまみにする人も多いという
「暴君ハバネロ」(実売価格100円)。2018年1月にリニューアル。辛さはそのままに、ベースとなる生地を見直した。20~30代の独身男性の購入率が高く、酒のつまみにする人も多いという
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 想定通り男性ユーザーの心をつかんだ「暴君ハバネロ」は、発売初年度に約3000万袋を出荷する爆発的なヒット商品となった。しかし、その辛さを支持するユーザーの期待にこたえるべく、リニューアルを重ねてどんどん辛さを増していったところ、それに反比例するかのように売り上げは減少していった。つまり、ユーザーの嗜好に気づかず、辛くしすぎてしまったということだ。

 暴君ハバネロはチキン、オニオン、ガーリックなど、コクのあるうまみも特徴。だが、あまりに辛いとそのうまみが分かりにくくなってしまうのではないか。同社はそう考え、2011年に発売当初の辛さに戻し、「帰ってきた暴君ハバネロ」として発売した。これをきっかけに、7年連続で前年を超える売り上げを達成しているという。

「激辛好き」はそこまで多くない

 では、同じ激辛でも、カップ麺市場はどうなのだろうか。

 「実は激辛好きはマジョリティーではなく、市場はさほど大きくない」と話すのは、日清食品マーケティング部第6グループの猪井正史ブランドマネージャーだ。同社は韓流ドラマなどの影響で韓国料理が一般的になったのをきっかけに、「これまで市場になかった、辛さを切り口にした即席麺のジャンルを作りたいと考えて」(猪井ブランドマネージャー)、「日清のとんがらし麺(以下とんがらし麺)」を開発した。

「日清のとんがらし麺 うま辛海鮮」(実売価格100円)。2000年に発売開始。麺に唐辛子を練り込んでおり、スープは海鮮ベースにビーフのうまみとローストした唐辛子の風味を利かせている。「辛さ調節パウダー」付き。「一般的に即席麺は冬に伸びる傾向があるが、とんがらし麺は季節の影響を受けにくい傾向にある」(日清食品マーケティング部第6グループの猪井正史ブランドマネージャー)
「日清のとんがらし麺 うま辛海鮮」(実売価格100円)。2000年に発売開始。麺に唐辛子を練り込んでおり、スープは海鮮ベースにビーフのうまみとローストした唐辛子の風味を利かせている。「辛さ調節パウダー」付き。「一般的に即席麺は冬に伸びる傾向があるが、とんがらし麺は季節の影響を受けにくい傾向にある」(日清食品マーケティング部第6グループの猪井正史ブランドマネージャー)
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 唐辛子を練り込んだ麺を売りにして男性ユーザーを中心に人気を集め、発売当初は好調な売れ行きが続いた。だが、次第に売り上げの伸びが鈍化していったという。

 そこで、女性ユーザーを獲得しようと2016年にブランド全体を大幅リニューアル。味の見直しやパッケージデザインの変更、さらに女性でも食べ切りやすいサイズにしたところ、30~40代女性の購入が増加したという。

リニューアル前のとんがらし麺のパッケージ
リニューアル前のとんがらし麺のパッケージ
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実はカラムーチョは「味を変えていない」

 激辛ブームの火付け役もでもある湖池屋の「カラムーチョ」については驚きの事実が明らかになった。「発売以来、微調整はしても基本的な味付けは変えていない」と同社マーケティング部第1課の加藤俊輔氏は話す。

 「カラムーチョ」は、1984年から販売されているロングセラー商品で、激辛スナックの元祖といわれている。米国で人気だったメキシコ料理に着想を得て開発したが、その当時は市場に辛いスナックがなく、「社内からも『こんな辛いものは食べられない』という声が上がり、購入者からも『辛すぎる』という苦情がきた。そのため、発売後しばらくは全く売れなかった」と加藤氏。

湖池屋「スティックカラムーチョ ホットチリ味」(実売価格198円)。味がからみやすいよう細切りにしたジャガイモを揚げ、唐辛子の辛味にオニオン、ガーリックなどのうまみをプラスしている。カラムーチョブランド全体の累計販売個数は20.3億袋(2018年6月15日時点)
湖池屋「スティックカラムーチョ ホットチリ味」(実売価格198円)。味がからみやすいよう細切りにしたジャガイモを揚げ、唐辛子の辛味にオニオン、ガーリックなどのうまみをプラスしている。カラムーチョブランド全体の累計販売個数は20.3億袋(2018年6月15日時点)
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 だが当時、普及しつつあったコンビニが「若者に受けがいい、面白くて新しい商品」として取り扱いを始めたことがきっかけで爆発的に売れるようになった。その後、1986年頃にテレビコマーシャルの放映を始めたことで、さらに人気が拡大した。

 しかし、激辛スナックの辛さや味わいを比べる下図でも示す通り、その辛さは後発の激辛スナックに比べてマイルド。「辛さとうまみのバランスがすでに完成しているので、それを崩したくない」(加藤氏)というのがその理由。つまり、34年前に発売した時点での辛さとほぼ変わっていないというのだ。

激辛スナック7商品を食べ比べた結果。図の見やすさを優先し、表記を簡略化している
激辛スナック7商品を食べ比べた結果。図の見やすさを優先し、表記を簡略化している
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 以前よりカラムーチョがマイルドになっているように感じるのは、気づかないうちに辛さに対する許容度が上がっていて、少々の辛さでは激辛と感じなくなっているせいかもしれない。

「ユーザーは『より辛いもの』よりも新しい刺激やサプライズを求めていると考え、新フレーバーの開発にも取り組んでいる」(湖池屋広報)。2018年6月に発売した「湖池屋 シビれスティックカラムーチョ 椒辣辛味噌」は、カラムーチョに中国産の山椒の果皮である「花椒(ホワジャオ)」を加えて味噌風味にしている
「ユーザーは『より辛いもの』よりも新しい刺激やサプライズを求めていると考え、新フレーバーの開発にも取り組んでいる」(湖池屋広報)。2018年6月に発売した「湖池屋 シビれスティックカラムーチョ 椒辣辛味噌」は、カラムーチョに中国産の山椒の果皮である「花椒(ホワジャオ)」を加えて味噌風味にしている
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辛さプラスアルファを求める層が増加

 激辛食品のマイルド化が進む一方で、唐辛子以外の新たなフレーバーを使った商品も増えてきている。

 東ハトは「女性ウケ」するフレーバーを開発。梅を使って酸味を強調した「魔性ウメデューサ」や、エスニック食材・パクチーを使った「暴君ハバネロ・パク盛」を発売した(2品とも7月下旬終売予定)。

2018年3月に発売された「魔性ウメデューサ」(実売価格100円、2018年7月下旬に終売予定)。梅肉エキス入りの生地に梅エキスパウダーで味付けし、昆布やかつおのうまみを加えている
2018年3月に発売された「魔性ウメデューサ」(実売価格100円、2018年7月下旬に終売予定)。梅肉エキス入りの生地に梅エキスパウダーで味付けし、昆布やかつおのうまみを加えている
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「暴君ハバネロ・パク盛」(実売価格100円、2018年7月下旬に終売予定)。パクチー風味の「マシマシパクチーパウダー」が付いている。今後は米菓や珍味などの新しい売り場にも置けるシリーズ品の開発を検討していくという
「暴君ハバネロ・パク盛」(実売価格100円、2018年7月下旬に終売予定)。パクチー風味の「マシマシパクチーパウダー」が付いている。今後は米菓や珍味などの新しい売り場にも置けるシリーズ品の開発を検討していくという
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 速水氏は「特に女性は激辛スナックにも、フレーバーや風味などのバリエーション、多様性を求める傾向が強い」と指摘する。外食でもエスニック系のメニューが定着したことで、より刺激のあるおいしさや新しい味、風味が求められていると感じているそうだ。

 「女性に人気の輸入食材を扱う店でも、唐辛子をベースにした地中海生まれの万能調味料『ハリッサ』など、まだ食卓に定着していない新しい調味料が扱われるようになっている」(速水氏)。

 日清の猪井ブランドマネージャーも同様に、「近年は、ワサビや山椒 (花椒) など、唐辛子以外の香辛料を使った商品へのニーズが増えている。特に『麻辣』と呼ばれる舌がしびれるような辛さの人気が高まっている」と話す。

 どうやら激辛ブームは、フレーバーの多様化という「水平展開」へとフェーズが移っているようだ。今後どのような香辛料やスパイスが登場するのか楽しみに待ちたい。

(文/桑原恵美子)