ほぼ全ての牛丼チェーンにあると言っていいメニューがカレー。専門店とは違って万人に食べやすい味に調整しているイメージがあるが、ここ最近、各チェーン一様に“スパイシー化”が進んでいるのをご存じだろうか。

 すき家は2018年4月に定番商品である「ポークカレー」をクミンなどのスパイスを増量し、ブラックペッパーを加えてよりスパイシーな味にリニューアル。吉野家も2017年5月から、15種類のスパイスを配合し、辛さと香りを出した「黒カレー」を販売している。

 なかでも辛さが強烈と話題になっているのが松屋だ。同チェーンの「オリジナルカレー」は、年々スパイシーさが増してきており、「松屋のカレーが辛すぎて泣く」「想像していたより辛い」という感想がSNS上にも上がっている。各チェーンの辛さにどの程度の差があるのか、それぞれのカレーを食べて辛さを比較した。

松屋のカレーがダントツに辛い

 すき家のカレーの辛さは家庭で作るカレーの甘口と中辛の中間くらいだろうか。辛さは“ほどほど”でクセがなく、続けて食べても飽きない味という印象だ。それに比べると、吉野家の黒カレーはかなりスパイシー。玉ねぎ、トマトペースト、りんご果汁などの野菜と果物をベースにしているため、辛さとともにこってりした甘味とクセもある。食べる人によって好みが分かれそうだ。

すき家の「サラ旨ポークカレー」(並盛、税込み490円、以下価格表記はすべて税込み)。「店内で誰かが食べていると自分もつい注文したくなってしまうように、スパイスの香りを利かせた」(ゼンショーホールディングス広報)
すき家の「サラ旨ポークカレー」(並盛、税込み490円、以下価格表記はすべて税込み)。「店内で誰かが食べていると自分もつい注文したくなってしまうように、スパイスの香りを利かせた」(ゼンショーホールディングス広報)
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吉野家の「黒カレー」(並盛、350円)
吉野家の「黒カレー」(並盛、350円)
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 3つのチェーンのなかでも突出して辛かったのは、やはり松屋のカレーだった。「これは辛いものが苦手な人には無理だろう」というレベルだが、本格的なスパイスの風味が効いていて、辛くても食べ進めてしまえる味だ。

松屋の「オリジナルカレー」(並盛、380円)
松屋の「オリジナルカレー」(並盛、380円)
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3品同時に食べ比べてみた。すき家のカレー弁当(写真上)、吉野家の黒カレー(写真右)、松屋のオリジナルカレー(写真左)
3品同時に食べ比べてみた。すき家のカレー弁当(写真上)、吉野家の黒カレー(写真右)、松屋のオリジナルカレー(写真左)
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辛さの理由は「会長のこだわり」

 松屋はユーザーに分かりやすいよう、辛さを唐辛子マークの数で表している。「唐辛子1本は少し辛め、唐辛子2本は辛め、唐辛子3本はとても辛めという基準で分類しており、オリジナルカレーは唐辛子2本分」(同社広報)。オリジナルカレーは最初から辛いとうたっており、「本格的なカレーが好きな人にウケているのではないか」と同社は考えている。しかし、なぜこれほどまでに辛くしたのだろうか。

 同社商品開発部商品企画グループ兼西日本松屋企画グループの水品一也グループマネージャーは「カレーの味には『会長の意向』が大きく働いている」と話す。

 同社の創業は1968年だが、カレーの販売を開始したのは1980年だ。牛丼チェーンの競争が激化するなかで、「他のチェーンと差をつけるために特色があるメニューが必要だと考えて、通年メニューとして『ビーフカレー』の発売を開始した」(水品グループマネージャー)。カレーを選んだ理由を、同社の創業者でもある瓦葺(かわらぶき)利夫会長は「牛めしと同じようにクイック提供できる商品で、国民食でもあるカレーに力を入れたかった」と話す。提供を開始するにあたり、本格的な欧風カレーを目指そうと考えて牛骨や牛肉をふんだんに使用。本格的な味が受け、ビーフカレーは爆発的に売れたという。

 その後、さらに本格的な味を目指して30回以上も味の調整を重ねるうちにどんどんスパイシーになっていったそうだが、その裏には「辛さで耳の裏が熱くなるほどでなければカレーとは呼べない」という瓦葺会長の持論があった。同社にはホテルのレストランなどで経験を積んだ常任の開発担当者が複数人いるが、「新担当者が就任するたびに、瓦葺会長が『自分が一番おいしいと思うカレーを作ってほしい』と指示する」(水品グループマネージャー)。そうして出来上がったカレーと、現行のカレーを瓦葺会長が比較をするのが常だという。歴代の担当者が既存のオリジナルカレーよりも“本格感”のあるスパイシーなカレーを目指して研究を続けているうちに、辛さもどんどん進化したのかもしれない。

2002年に発売していたオリジナルカレー。見た目は変わらないが、今のカレーのほうがかなり辛いという。松屋全体の売り上げにおけるカレーの割合は7~8%。それでも全国の松屋で1日5万食弱売れているそうだ
2002年に発売していたオリジナルカレー。見た目は変わらないが、今のカレーのほうがかなり辛いという。松屋全体の売り上げにおけるカレーの割合は7~8%。それでも全国の松屋で1日5万食弱売れているそうだ
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個性的なカレーも続々開発

 また、松屋でのカレーの新メニュー開発も積極的に行っている。2009年に発売した「トマトカレー」は大ヒットし、オリジナルカレーの2倍もの売り上げを達成した。一方、売れ行きはそこまでではなかったものの、開発に関わった水品グループマネージャーが「あの味は傑作だった」と振り返るのが2016年に発売した「チキンと茄子のグリーンカレー」だ。「650円で販売していたが、タイ料理店なら1000円以上の値段をつけるのではないだろうか」(水品グループマネージャー)。期間限定商品だが、提供中は店内にココナツの香りが充満していたという。コアなファンもいたようで、これを目当てに来る人も少なくなかったそうだ。

「チキンと茄子のグリーンカレー」。2016年5月に期間限定で販売。「濃厚なココナツミルクと厚切りチキン、たけのこ、茄子などの野菜がたっぷり入ったカレーマニアもうならせた本格的なタイ風グリーンカレー」(松屋広報)
「チキンと茄子のグリーンカレー」。2016年5月に期間限定で販売。「濃厚なココナツミルクと厚切りチキン、たけのこ、茄子などの野菜がたっぷり入ったカレーマニアもうならせた本格的なタイ風グリーンカレー」(松屋広報)
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 さらに、2018年4月に期間限定で扱っていた「ごろごろ煮込みチキンカレー」は、2016年4月に発売して大好評だったメニューの再発売。オリジナルカレーをベースにした商品に文字通りチキンがごろごろと入っており、SNS上でも「松屋の傑作カレー」「ごろごろ煮込みチキンカレー大復活」など、再発売を喜ぶ声が多く見られた。販売が終了する前には、メニューから消えるのを惜しむ記事を掲載したメディアもあったほどだ。

「ごろごろ煮込みチキンカレー」(並盛、590円)。2016年の新発売時は「ごろごろチキンカレー」の商品名だったが、2017年、2018年に再発売した際に煮込みの文字が追加された
「ごろごろ煮込みチキンカレー」(並盛、590円)。2016年の新発売時は「ごろごろチキンカレー」の商品名だったが、2017年、2018年に再発売した際に煮込みの文字が追加された
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カレー専門店も運営

 また、同社はカレーに力を入れるあまり、カレー専門店も立ち上げている。2012年にスタートした「マイカリー食堂」は、板橋、三鷹、府中で3店舗展開しているが、「純粋にカレーで勝負したい」(水品グループマネージャー)という思いから松屋の名前は一切出さずに営業している。そのため、松屋が運営するカレー店だと気づかない人も多いという。

「マイカリー食堂 三鷹店」(東京都武蔵野市中町1-6-7)。営業時間は月〜土曜が10〜24時、日曜・祝日が 10〜23時半
「マイカリー食堂 三鷹店」(東京都武蔵野市中町1-6-7)。営業時間は月〜土曜が10〜24時、日曜・祝日が 10〜23時半
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マイカリー食堂で人気ナンバーワンメニューだという「ロースかつカレー」(550円)
マイカリー食堂で人気ナンバーワンメニューだという「ロースかつカレー」(550円)
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 「『松屋のカレーは辛すぎる』という意見もあるが、松屋でないと食べられない味という独自性を出すためにも、あえてパンチの効いた味にしている」と水品グループマネージャーは話す。使用するスパイスの種類もリニューアルするごとに増えており、「正確に辛さを計測しているわけではないが、現行のカレーが一番辛いというのは確か」(同氏)。

 牛丼チェーンにカレーを置く本来の目的は、「牛丼以外のものが食べたいときの選択肢」だろう。だが、牛丼の味が定番化しているのに対して、カレーはインパクトを求めてスパイシーに進化し続け、今では牛丼以上に各店の個性が表れているのかもしれない。

(文/桑原恵美子)