クラブツーリズムで毎回満席なのが“集合場所確認”ツアー。クラブツーリズム主催の国内ツアーに参加する際、出発地点となる東京駅、羽田空港の集合場所を見て回るだけのバスツアーだ。記者が参加したところ、たしかに大盛況(詳しくは前編を参照)。そして、記者自身も想像以上に楽しかった。後編では、そもそもなぜこんなツアーを企画したのか、担当者にその意図を聞いてみた。

 クラブツーリズムが集合場所確認ツアーを始めたのは2015年10月から。ベースになったのは、以前から本社で行っていた「ひとり旅」というツアーの参加希望者向け説明会だ。

 「ひとり旅」は、同社が1997年前に始めた1人参加限定のツアーだ(当初の名称は「クラブララ」、2001年から現在の名称)。60代以上のシニアを中心に人気が高い。テーマ旅行部国内コミュニティ旅行センター(ひとり旅・ひとりの贅沢担当)の渡邊輝人リーダーによると、「通常のツアーでは、周りは友達同士や夫婦なのに自分だけ1人だと疎外感や孤独感を感じてしまう人がいます。ひとり旅にはそういう心配がない。日中は参加者全員で動いても、夜のホテルは1人1室。のんびり過ごせるのが好評」なのだそうだ。

ひとり旅のツアーパンフレット。専門ガイドと世界遺産を巡る旅や美術館見学がメインの旅、森林でヨガを体験する旅、高級ホテルにゆったりと泊まる旅など、こだわりの内容も多い
ひとり旅のツアーパンフレット。専門ガイドと世界遺産を巡る旅や美術館見学がメインの旅、森林でヨガを体験する旅、高級ホテルにゆったりと泊まる旅など、こだわりの内容も多い
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 その魅力を伝えるため、以前からひとり旅専用の無料説明会を開いていたのだが、会議室で話すだけでは、実際の雰囲気はなかなか伝わらないのが悩みだった。「ならばいっそのこと、バスツアーにしてバスの中で説明会をしようか」――渡邊さんと同じ部署の河内良太さんが考えたのが発端だった。

 行き先を集合場所めぐりにしたのは、集合場所に行けるかどうかに不安を感じている人が多かったからだ。「ひとり旅の申し込みの電話では『私、集合場所までひとりで行けると思いますか?』『事前に下見をした方がいいかしら』というご相談がとても多い」と河内さん。ひとり旅に対する参加者の不安を解消し、どうせなら一人旅気分も体験してもらおうと始めたのが、添乗員のガイド付きで集合場所を下見し、ホテルでのゆったりランチも楽しめる集合場所確認ツアーだったのだ。

 とはいえ、集合場所を確認するだけのツアーにそんなに需要があるのか――渡邊さんや河内さんにも確信はなかった。本社での説明会は無料。集合場所確認ツアーはホテルでのランチ付きとはいえ4900円である。しかも、集合場所確認ツアーの最初の告知は、ウェブサイトだけだった。

 だが、蓋を開けてみれば大好評。当初は月1本だった同ツアーは、2016年3月には月4本に増やした。これまで開催した16回はいずれもほぼ満席だ。新宿・上野しかなかった出発地点も、現在は町田・横浜、京成津田沼・松戸、川越・さいたま新都心が追加されている。

集合場所確認ツアーの申し込みサイト。現在はウェブサイトのほか、ひとり旅のパンフレットに案内を同封するなどして告知している
集合場所確認ツアーの申し込みサイト。現在はウェブサイトのほか、ひとり旅のパンフレットに案内を同封するなどして告知している
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18人中14人が2カ月以内に申し込み

 集合場所確認ツアーは参加者に好評なだけでなく、ひとり旅の申し込み促進にも大きな役割を果たした。本社会議室での無料説明会ではおよそ30人が参加して、実際に申し込む人はその日のうちに1人いるかどうかだった。一方、集合場所確認ツアーの場合、2015年10月の初回時は18人の参加者のうち14人が2カ月以内にひとり旅に申し込んだ。「集合場所確認ツアーに来ていただくのは、お金を払ってまで参加する意識の高い人たち。だからこそ、申し込みに至るケースも多い」と渡邊さんは見る。

毎回満席の“集合場所確認”ツアーに参加してみた【後編】(画像)
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毎回満席の“集合場所確認”ツアーに参加してみた【後編】(画像)
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集合場所確認ツアーでは、バスの車中でひとり旅の特徴や人気のプランなどを紹介。羽田空港や東京駅の集合場所めぐりでツアー気分を味わえる

 「意識の高い人たち」という意味では、渡邊さんや河内さんが読み間違ったニーズもあった。最初は「集合場所を回るだけではあまりにも寂しいのでは」ということで、ツアーに東京ステーションギャラリーの見学を組み込んでいたが、参加者にアンケートをした結果、「いらない」という声が多かったのだ。

 記者が参加したツアーにも東京ステーションギャラリー見学がついており、「これが唯一の観光っぽいポイント」と思っていたのだが……。「僕もそう思っていたのですが、ステーションギャラリーに行くよりも、集合場所周辺での自由時間を増やしてほしいということでした」と渡邊さん。そう言われたら、羽田空港の自由時間に集合場所周辺を歩き、ルートを“おさらい”する人を記者は複数見かけた。集合場所確認ツアーの参加者にとっては集合場所めぐりが目的であって、“おまけ”はいらないということのようだ。

 7月以降のツアーでは、ステーションギャラリーをやめ、羽田空港での自由時間を増やす。また、ステーションギャラリーの入場料が不要になることで浮いた予算は、ガイディングレシーバーのレンタルに振り分けるという。ガイディングレシーバーとは、添乗員の説明をイヤホンを通して聞ける器具。「参加者が30人近くになると、列が長くなります。そんなときも後ろまでしっかり声を届けられる」と河内さんは言う。

ツアーの参加者はそもそも集合場所に来られるのか

 実は、記者がずっと疑問に思っていたのは「集合場所確認ツアーに参加する人は、そもそも集合場所確認ツアーの集合場所に来られるのか」だった。羽田空港や東京駅もさることながら、新宿や上野も十分ややこしい。実を言うと、東京在住30年以上の記者でも迷った。新宿の集合場所である「新宿駅西口都庁大型バス駐車場」が見つからずウロウロ。20分前に着くはずが、集合時間ギリギリだったのである。

自宅に送られてきた集合場所確認ツアーの案内に掲載されていた地図。新宿には行き慣れているので「だいたいあの辺だな」と分かっているつもりだった
自宅に送られてきた集合場所確認ツアーの案内に掲載されていた地図。新宿には行き慣れているので「だいたいあの辺だな」と分かっているつもりだった
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「高架下、高架下」と思って入り込んだのは、京王プラザホテル地下につながる地下道。「ここじゃない……」と行ったり来たりすることになる
「高架下、高架下」と思って入り込んだのは、京王プラザホテル地下につながる地下道。「ここじゃない……」と行ったり来たりすることになる
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やっと見つけた「都庁大型車駐車場」という掲示と、その横のクラブツーリズムの手書きの張り紙。工事現場のついたてに貼られていた。しかも、この前の通路は幅が1mくらいしかないので、ここか確信が持てない
やっと見つけた「都庁大型車駐車場」という掲示と、その横のクラブツーリズムの手書きの張り紙。工事現場のついたてに貼られていた。しかも、この前の通路は幅が1mくらいしかないので、ここか確信が持てない
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狭い通路をおっかなびっくり通り抜けると、「集合場所」の昇りを発見!現在、都庁大型バス駐車場が工事中のため、いつもより分かりにくいのことだが、それにしても迷った
狭い通路をおっかなびっくり通り抜けると、「集合場所」の昇りを発見!現在、都庁大型バス駐車場が工事中のため、いつもより分かりにくいのことだが、それにしても迷った
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 渡邊さんと河内さんに率直に聞いてみたところ、「迷う人はときどきおられます。ただ、皆さん、時間には相当余裕を持っていらっしゃる」(河内さん)。添乗員の到着より前から待っている人もいるそうだ。また、集合場所確認ツアーの参加者にはクラブツーリズムのバスツアーには参加したことがある人もいる。この人たちは、バスツアーの出発点になりやすい新宿や上野の集合場所は分かっているのだそうだ。

 「結局、1人になると恐いのだと思います」と渡邊さん。家族や友人との旅行では、たとえ集合場所が分からなくても、相談し合える安心感がある。だが、いざ1人となると、旅慣れた人でも不安になるのだ。あるいは、ほかの人が何分前に到着するかを気にする人も多いという。「たとえ集合時間前だったとしても、自分が到着したのが参加者中最後だったらどうしようと気を遣われます」(渡邊さん)。

 もちろん、新宿や上野の集合場所が分からないという人だって少なくない。特に、神奈川県や埼玉県、千葉県在住の人には、新宿・上野の集合場所が分からないから参加を見送る人もいるそうで、町田・横浜、京成津田沼・松戸、川越・さいたま新都心から出発する集合場所確認ツアーでは、車窓から新宿と上野の集合場所も紹介するようにしたという。

高まるひとり旅人気で、性別、年齢別も開始

 「最近、ひとり旅の人気はますます高まっている」と渡邊さん。特徴は、参加者の7割が女性であること、年齢層が高いことだ。同社の一般的なツアーは60代が中心だが、ひとり旅は70代、80代の割合も高い。生活がひと段落して自分の時間を楽しみたい人、一緒に旅をしていた友人やパートナーを亡くした人、主要な観光地はほぼ回り、より自分の趣味を突き詰めた旅をしたい人など、1人を選ぶ理由は様々だが、「自分の好きなタイミングで旅に出られる。観光や食事は集団だが、ホテルの部屋は1人ずつだし、旅が終われば解散するつかず離れずの関係。この気楽さがいいのでは」と渡邊さんは分析する。

 1人参加限定を徹底するクラブツーリズムの姿勢も人気の理由かもしれない。申し込み時点で参加者同士が知り合いだと分かると、キャンセルや別々の日付での申し込み、一般のツアーへの参加をお願いする。「ツアー参加の履歴などを見ると、案外分かるものなんです」(河内さん)。

 一方で、参加者同士がなじみやすくする工夫も施してきた。その例が、性別限定や世代限定のツアーだ。「どんな人が参加するのか分かっていたほうが安心」という参加者の意見を受けて始めた。歩くペースや関心事が近いせいか、話が弾みやすく、一体感も生まれやすいのだという。

 特に興味深いのは、2016年4月から始めた世代限定ツアー。20~30代、40~50代、60代、70代と、年代別に参加者を募集する。前述の通り、ひとり旅の参加者は7割が女性だが、世代限定にすると、参加者の半分が男性になることもあるという。「男性は枠を用意したほうが、参加しやすいみたい」(渡邊さん)。また、通常のひとり旅の参加者よりも年齢層が低い20~30代、40~50代対象のツアーも予想以上に人気だという。

 渡邊さんは、「ほかの旅行会社とは違い、クラブツーリズムでは添乗員がツアー申し込みの電話も受けるし、ツアーの企画もする。その分、参加者の要望をツアーに反映しやすい」と話す。集合場所確認ツアーも、参加者の人気を受けて1泊2日プランを追加した。旅行代金は2万9900円。「1泊2日、3万円近くかけて集合場所めぐり?」と記者は驚いてしまったが、「いつかひとり旅で海外に行くときのために、成田空港を見たい」という声があるのだという。そのため、1日目は羽田空港の集合場所を訪れ、夜は千葉・館山温泉の海辺のホテルに宿泊。2日目は成田空港と東京駅の集合場所を回るプランを企画した。

 また、「宿泊があるほうが、ひとり旅の醍醐味を体験してもらえる」(渡邊さん)。本番のひとり旅同様、ホテルでの宿泊は1人1室、バスはひとり旅の中でも一部の高額なツアーで採用している1人2席利用だ。「その分、旅行代金は高くなるが、一度体験するとやみつきになる快適さ」(河内さん)。すでに参加者は集まり始めているそうだ。

 クラブツーリズムのひとり旅では、参加者の不安や要望を細かく拾い上げて少人数のツアー企画につなげ、シニアはもちろんより広い年齢層まで顧客を広げていた。

クラブツーリズムテーマ旅行部国内コミュニティ旅行センター(ひとり旅・ひとりの贅沢担当)の渡邊輝人リーダーと河内良太さん。河内さんは集合場所確認ツアーの全日程の添乗員を務めている
クラブツーリズムテーマ旅行部国内コミュニティ旅行センター(ひとり旅・ひとりの贅沢担当)の渡邊輝人リーダーと河内良太さん。河内さんは集合場所確認ツアーの全日程の添乗員を務めている
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(文/平野亜矢=日経トレンディネット)