日本だけで使われる原付への影響

平成18年規制のころに登場した、インジェクションを搭載したスクーター用の50ccエンジン。当時としては画期的なものだった
平成18年規制のころに登場した、インジェクションを搭載したスクーター用の50ccエンジン。当時としては画期的なものだった
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 ホンダが「モンキー」の生産を終了するというニュース以降、原付バイクが消滅するのではと注目が集まっている。前回はその大きな原因と言える、排出ガス規制の変遷を解説した。ここからは「平成28年規制」で、なぜ原付がなくなるといわれているのかを見ていこう。

 ポイントとしては、原付のエンジンは50ccと排気量が小さいために排気ガスをきれいにするための対策が大変なことと、原付がほぼ日本専用モデルになっていることの二つが挙げられる。

 「原付でも、規制をクリアするのは技術的に不可能ではありません。ただ、日本専用モデルなので、コストがかけられない点がつらい」(ヤマハ 広報担当)

 「キャタライザー(触媒)を大きくするなどの対策が必要になります。それも専用のもの。だから対策を施すとコストがかかり、価格も125ccより50ccのほうが高くなってしまう」(ホンダ 広報担当)

 触媒が大きくなると、出力は若干下がる。排気量が大きいモデルなら、いつもアクセル全開で走っているわけではないし、多少の出力ダウンは気にならない。しかし50ccの原付はほとんどの場合、アクセル全開で加速するのでパワーダウンが走行性能にダイレクトに影響してしまう。排気量が小さいほうが、出力低下の影響が出やすいのだ。

平成18年規制のころに登場した、インジェクションを搭載したスクーター用の50ccエンジン。当時としては画期的なものだった
平成18年規制のころに登場した、インジェクションを搭載したスクーター用の50ccエンジン。当時としては画期的なものだった
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インジェクション搭載50ccエンジンの解説。小さなエンジンでも、大型バイクやクルマと同じメカニズムが必要(出典:ホンダ「テクノロジークローズアップ」)
インジェクション搭載50ccエンジンの解説。小さなエンジンでも、大型バイクやクルマと同じメカニズムが必要(出典:ホンダ「テクノロジークローズアップ」)
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バイクの販売数は30年で年間300万台から16万台に減少

 何より大きいのは、原付が使われているのが日本だけという点だ。

 「110~125ccクラスはアジアでメジャーな排気量です。台数だけでいうと、50ccの10倍、20倍という単位が販売されています」(ホンダ 広報担当)

 欧州でも125ccクラスは軽量クラスとして認知されており、ベスパやアプリリアなど、排気量110~125ccのモデルを得意とするメーカーもある。

 1980年代前半、年間300万台ものバイクが日本で売れたが、その大半を占めていたのが50ccの原付バイクだった。それが今は年間16万台まで落ち込んでいる(日本自動車工業会調べ/2016年)。

 300万台は異常な数字だとしても、16万台では量産効果も確保しづらいだろう。しかも、身近なのりものであるべき原付なのだから、価格を上げるわけにはいかない。例えば、排気ガス対策がきちんと施されたごく普通の原付スクーターが40万円で売られたとして、それをあなたは買うだろうか?

左の図は2016年の排気量別販売台数と構成比。右はここ10年の二輪車販売台数の推移。排気量50cc以上の販売台数は微増だが、50cc以下は減少していることが分かる(出展:日本自動車工業会)
左の図は2016年の排気量別販売台数と構成比。右はここ10年の二輪車販売台数の推移。排気量50cc以上の販売台数は微増だが、50cc以下は減少していることが分かる(出展:日本自動車工業会)
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 市場は多少異なるものの、電動アシスト自転車の台頭も無視できない。運転免許もヘルメットも不要で、座席を備えたモデルなら2人乗り・3人乗りも可能だ。駅前の駐輪場もバイクより自転車のほうが安いはずだ。短距離なら、原付バイクよりも電動自転車のほうが便利なことも多い。

 皮肉なことに、この電動アシスト自転車を開発し、一般に認知させたのは数々のバイクを生み出してきたヤマハなのである。

電動アシスト自転車といえばヤマハの「PAS」。日本の法規では、動力のついたのりものは基本的に免許が必要と定められているが、それを覆したヤマハの努力に拍手
電動アシスト自転車といえばヤマハの「PAS」。日本の法規では、動力のついたのりものは基本的に免許が必要と定められているが、それを覆したヤマハの努力に拍手
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原付バイクはずっと50ccのまま

 たとえば四輪の軽自動車。多くの人に受け入れられたのは排気量360ccの時代だった。「スバル 360」(1958年発売)や「ホンダ N360」(1967年発売)などが爆発的にヒットし、多くの人がクルマの便利さや楽しさを学んでいった。しかし1970年代、マスキー法をきっかけに排気ガス規制がやってくると、360ccでは対応できないということで、排気量550ccにアップする。その後、安全性の確保などの理由から660ccまで大きくなった。そして今も軽自動車は日本中を駆け回り、産業を根本から支える重要なクルマとなっている。

1958年に発売された「スバル 360」。安さと高い走行性能で、当時のモータリゼーションを推進した
1958年に発売された「スバル 360」。安さと高い走行性能で、当時のモータリゼーションを推進した
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1967年に発売されたホンダの「N360」。前輪駆動による広い室内空間と、二輪技術をベースにした高出力エンジンで大ヒットした
1967年に発売されたホンダの「N360」。前輪駆動による広い室内空間と、二輪技術をベースにした高出力エンジンで大ヒットした
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 対して原付バイクは、戦後すぐのころからずっと50ccのままだ。初期には50ccでは馬力が足りないともいわれたが、ホンダのスーパーカブによって50ccでも十分実用になることが証明され、原付は利便性の高いのりものとして認知されていった。こうした歴史を顧みると、二輪メーカーは頑張ってきたと思う。わずか卵1個分程度の排気量しかないエンジンで、繰り返しやってくる排出ガス規制の波を乗り越えてきたのだから。

 しかし、そうした努力がもう限界にきているということなのだ。

 もし過去の規制に対して、「原付は排出ガス対策のために70ccにアップする」「90ccまでを原付とする」といった方策が採られていたら、原付バイクは現在とはまた違ったのりものに進化していたのかもしれない。

1958年に登場したホンダの初代「スーパーカブ」。アンダーボーンフレームで女性でも乗りやすく、全体がカバーされているため、未舗装路でも安心して乗ることができた
1958年に登場したホンダの初代「スーパーカブ」。アンダーボーンフレームで女性でも乗りやすく、全体がカバーされているため、未舗装路でも安心して乗ることができた
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変わる原付バイクの位置づけ

 もう少し原付バイクについて述べておく。

 排気量が50ccに制限されていることで税金が非常に安く、誰でも乗れ、利便性の高い原付だが、一方で原付の特殊性も目立つようになっている。30km/h制限という最高速度の制限があるため、交通の流れに乗りづらい。フルパワーで頑張れば乗れなくもないが、常に速度違反を犯していることになる。交差点では二段階右折が必要で、2人乗りもできない。こうした点を考えると、時代に取り残されているのも確かだ。

 少し前までは、その扱いやすさから原付には入門用バイクという存在意義があった。50ccでバイクの運転を覚え、250ccや400cc、さらに大型のバイクに乗り換えていくというステップアップのフローがあったからだ。ところが最近は、入門用に50ccの原付を買うバイクユーザーはあまりいないらしい。

 「欲しいバイクがあれば、最初からそのバイクを買われます。若い人には『YZF-R25』などが人気ですね」(ヤマハ 広報担当)というのだ。

 入門用という意味でも、原付の存在意義は下がっている。

人気のヤマハ「YZF-R25」。スタイリッシュでパフォーマンスも高いが、乗りやすく作られている。昔のレプリカモデルとは違う
人気のヤマハ「YZF-R25」。スタイリッシュでパフォーマンスも高いが、乗りやすく作られている。昔のレプリカモデルとは違う
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ホンダの大型ネイキッド「CB1300 SuperFour」。巨大なバイクだが驚くほど乗りやすい。免許を持っていて、またがってみて足さえつけば、いきなり乗っても大丈夫
ホンダの大型ネイキッド「CB1300 SuperFour」。巨大なバイクだが驚くほど乗りやすい。免許を持っていて、またがってみて足さえつけば、いきなり乗っても大丈夫
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 さらにこのクラスでは、エンジンで走る原付バイクが減るにつれて、電動バイクが主流になる可能性がある。すでにホンダ「EV-neo」、ヤマハ「E-Vino」などが販売されており、モーターショーでは電動バイク(関連記事)のコンセプトモデルの出展が相次いでいる。

 まだフル充電での走行距離が短いといった課題はあるが、近所への買い物や駅までの通勤といった用途なら十分なレベルだろう。実際にのってみると、エンジンの爆発によるトルク変動がないためか、小回りが利くのが印象的だった。電動バイクは可能性の高いのりものだと思う。

ホンダの電動バイク「EV-neo」。現在はリース販売専用車。二輪のクラスとしては、原付(50cc)とほぼ同じ
ホンダの電動バイク「EV-neo」。現在はリース販売専用車。二輪のクラスとしては、原付(50cc)とほぼ同じ
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ヤマハの電動バイク「E-Vino」。価格は21万9000円。1回の充電で約29km走行できる
ヤマハの電動バイク「E-Vino」。価格は21万9000円。1回の充電で約29km走行できる
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スーパーカブは残ると見られるものの

 では、ガソリンエンジンで走る原付が完全になくなるかというと、それはなさそうだ。2016年10月、ホンダとヤマハが原付の協業、つまりはOEM配給を進めるという発表があった。「ホンダとヤマハが手を組むとは、一体どういうことだ?」と話題になったが、これは原付を残すための秘策。生産を一元化することで量産効果を上げ、排出ガス対策によるコストアップを吸収しようというわけだ。

 また、ホンダの「スーパーカブ」は110ccモデルが継続されるのは当然ながら、50ccのスーパーカブも残るという予想もある。根拠は確かではないが、強いて理由を挙げるなら「ホンダの旗艦モデル」だから残るはずと筆者は想像する。

世界的名車、ホンダ「スーパーカブ」。よく走り、燃費がよく、壊れない。現在は中国で生産されており、50ccと110ccモデルで、同じボディーを使用する
世界的名車、ホンダ「スーパーカブ」。よく走り、燃費がよく、壊れない。現在は中国で生産されており、50ccと110ccモデルで、同じボディーを使用する
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 スーパーカブが残るのなら、同系のエンジンを使用するモンキーも残っていいように思えるのだが、話は簡単ではない。

 「レジャーバイクを受け入れてくれる市場がないんです。現在、モンキーは最も値段の高い原付バイクになりました。いちばん小さくて、いちばん高いんです」(ホンダ 広報担当)という現実が立ちはだかる。結果、メーカーは苦渋の決断を迫られる。

 確かに、安価な50ccスクーターなら十数万円で買えるが、モンキーの「50周年アニバーサリー」は軽く30万円を超える。2009年にインジェクションを搭載してモンキーが復活した際、「この時勢によく作った」と、賞賛の声が上がったのを覚えている。それだけ手間とコストのかかったモデルなのだ。

 通常、クルマにしてもバイクにしても、わざわざ生産終了がメーカーからアナウンスされることはない。人知れず消えていくなり、次のモデルにバトンタッチされるのが常だ。しかしモンキーは正式に生産終了がアナウンスされた。それだけでもモンキーがいかに多くのユーザーに愛され、いかにメーカーに大切に育てられてきたか分かるだろう。

 モンキーは、オーナーはもちろん、関わる人すべてにとって幸せなバイクだった。見ているだけでも楽しくなった。こんなバイク、これからはもう登場しないだろう。いいバイクだった。

初代モデル「モンキーZ50M」のイメージを踏襲したホンダの「モンキー・50周年アニバーサリー」。モンキーの生産終了が発表されたためか、発売から3カ月ほどで売り切れてしまった
初代モデル「モンキーZ50M」のイメージを踏襲したホンダの「モンキー・50周年アニバーサリー」。モンキーの生産終了が発表されたためか、発売から3カ月ほどで売り切れてしまった
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黒と赤が印象的な「モンキー・くまモン バージョン」。現在、ホンダの日本での二輪生産は、すべて熊本製作所で行なわれている。残念ながら、このモデルも売り切れ
黒と赤が印象的な「モンキー・くまモン バージョン」。現在、ホンダの日本での二輪生産は、すべて熊本製作所で行なわれている。残念ながら、このモデルも売り切れ
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最終モデルとなるホンダの「モンキー・50周年スペシャル」。その昔ヒットしたメッキモンキーの現代版。全身メッキ加工のため非常に高価だが、最後らしいゴージャスなモデルとなった。500台限定で生産され、希望者はオーダー専用サイトから申し込む
最終モデルとなるホンダの「モンキー・50周年スペシャル」。その昔ヒットしたメッキモンキーの現代版。全身メッキ加工のため非常に高価だが、最後らしいゴージャスなモデルとなった。500台限定で生産され、希望者はオーダー専用サイトから申し込む
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(文/西尾 淳=WINDY Co.)

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