パンパン! 「よってらっしゃい みてらっしゃい!」「ありがとうございました~!」。近寄る人には声をかけ、離れる人にはお見送り。「ビッグクラッピー」はその名の通りウレタンゴム製の軟らかい手を大きく打ち鳴らす“拍手”ロボット。人感センサーで人の動きを感知、シーンに合わせて拍手しながらセリフを話す。バイバイワールド(東京・品川)が製造する。5月から100台の限定販売ですでに予約が多数入り、海外からも問い合わせが相次いでいる。

 大学院時代から「拍手マシン」の研究を続けてきた同社の高橋征資社長は、ソフトバンクの「Pepper」のコンテンツ制作にも長年携わっている。「Pepperで人間とロボットのコミュニケーションを学んだ。最先端のロボットを経験できたからこそシンプルなものに行き着いた。まだ後発のロボットに複雑なことをやらせるタイミングではない」(高橋社長)。より高度で複雑な能力を要求され続けるロボット界において「拍手して話す」だけのシンプルさに絞った背景とは。

本体電源を入れると5秒で「スイッチオン!」の声とともに自律動作を開始する
本体電源を入れると5秒で「スイッチオン!」の声とともに自律動作を開始する
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骨や関節まで完全再現した拍手マシン

 高橋社長が拍手マシンの研究を始めたのは、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の大学院でメディアデザインを学んでいた博士課程時代。「硬い機械ではなく軟らかくライブ感のあるマシンを作りたい」、その思いをかなえるコンテンツが拍手だった。拍手は世界共通のコミュニケーション手段で、舞台や音楽とのエンターテインメントとも相性がいい。そこで人間の拍手を模した機械装置を作ることにした。

 本物の拍手に限りなく近い音を自動で発するマシンを作るため自分の肘までの手型を取り、骨や関節まで完全に再現して初代拍手マシン「音手(おんず)」が生まれた。鉛を溶かして成型していたが耐久性に問題があった。改良の段階で思い切って骨や関節を省いてみると音質に影響がなかったため、手首までに簡素化し空圧で動かすことにした。

 「幸せなら手をたたこう」の音楽に合わせて手拍子を打つ等身大の拍手マシンはさまざまなメディアに注目され、吉本興業もその“おもろさ”に目を付けた。

博士課程で制作した拍手マシン「音手」。まだ肘までついている

よしもとロボット研究所でPepperに携わる

 当時、音手がアート作品として扱われ始めたことに違和感を覚えていた高橋社長も、自分が突き詰めたいのはエンターテインメントだと気付き、そのセンスを磨くため同社の養成学校「NSC」に入学しコント創作などをしていた。引き合うように吉本所属のクリエーターとなり、2012年には片手で拍手ができるおもちゃ「パチパチクラッピー」を発売した。しかし、その後の展開に行き詰まりを感じるようになる。

 そのころ、Pepperを発表したソフトバンクから吉本に「日本の風土に合うよう面白くしてほしい」と依頼があり、エンターテインメント性を買われて高橋社長に白羽の矢が立った。2013年1月に発足した「よしもとロボット研究所」のチーフクリエイターに就任し、Pepperの語尾を上げセリフに微妙な間を空けたり、コミカルな動きができるようプログラミングをしたり、キャラクターをより明るく面白く変えた。それ以来、Pepperのアプリケーションコンテンツの開発・企画に携わり続けている。

初めて商品化した拍手おもちゃ「パチパチクラッピー」。手はシリコン製で軟らかい
初めて商品化した拍手おもちゃ「パチパチクラッピー」。手はシリコン製で軟らかい
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 ヒト型ロボットのPepperのコンテンツ制作を経験する中で「ロボットと人とのコミュニケーションというものを学び」、温めていた「小さなおもちゃだけでなく大きなロボットを作りたい」という気持ちが強くなったという。しかし、ビッグクラッピーにはタブレットも付けなかった。

 「Pepperは近未来を今実現したらどうなるか、という孫さん(孫正義ソフトバンク社長)の壮大な実験から始まった唯一無二な存在。僕らが新しく作るロボットにタブレットを付けるとスマホとロボットの単なる性能比較になってしまう」。高橋社長の専売特許である「拍手」にPepperで学んだキャラクター性を組み合わせて誕生したビッグクラッピー。その性能はエンターテインメント性に富んでいながらビジネス使用を強く意識している。

 人感センサーが視野は140度、距離は10メートルの範囲で人の動きを検知し、近づいているのか離れているのかも判別する。呼び込みだけでなく見送りまでしてくれる。拍手とコミカルな声と話し方で注意を引き集客にもつながる。「ビッグクラッピーのキャラクターのおかげで、人では踏み込めない人の懐にすっと入れる。面白く嫌みなく伝えてくれる」(高橋社長)。

専用iOSアプリと連携すれば、「カスタム発話機能」で自分で3つまでのセリフが録音でき、ビッグクラッピーの声に変換して再生できる。セリフと口の動きが連動する。一度タップすればあとは人感センサーで自動的に発話する
“拍手バカ”が行き着いた究極のロボット(画像)
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“拍手バカ”が行き着いた究極のロボット(画像)
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“拍手バカ”が行き着いた究極のロボット(画像)
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背面にあるボタンでシーンを選択、ツマミで音声ボリュームが調節できる。拍手の強弱も選べる。手を挟んでも痛くない設計。どこから見ても目が合うようデザインされている

ビジネスの強力な助っ人に

 ビッグクラッピーの集客力、広告効果をすでに実感した会社もある。クラウド人事労務ソフトを販売するSmartHR(東京・千代田)は、展示会で導入。ブース前に設置したところ、クラッピーに興味を持ちブースを訪れる人が後を絶たず、そのまま商談につながるケースが非常に多かったという。獲得名刺枚数は倍増した。

 同社マーケティング・企画の唐澤詩織氏は、「おかげで呼び込みを担当した社員の精神的・体力的負担が減った。小売・飲食業の方は自身の店舗への導入にとても高い関心を示しているのを肌で感じた。顧客とのコミュニケーションが重要視される業界やシーンでは、大きな効果を発揮するのでは」と話す。

“拍手バカ”が行き着いた究極のロボット(画像)
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“拍手バカ”が行き着いた究極のロボット(画像)
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呼び込みはビッグクラッピーに任せて負担も減らせる。「今後も展示会での重要な呼び込み要員として活用していきたいと考えています」(唐澤氏) 画像提供/SmartHR

 「店頭」モードを含め、「どこでも」「会社」「飲み会」「お誕生日」など10のシーンに合わせて500以上のセリフが設定されている。さらに専用のiOSアプリと連携するとマニュアルで拍手ができたり(マニュアルクラップモード)、スマートフォン内の自分の音楽を自動分析し合わせて手拍子をしたり(マイミュージックモード)、好きな言葉を録音しビッグクラッピーの声に変換して再生したり(カスタム発話機能)できる。

 しばらく人が近づかないと「あ~ヒマ」と独り言を言うなどエンタメ性に隙がない。例えば小学校などでは子供たちを楽しませながら防犯にも役立ちそうだ。

 2018年にラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でも反応が上々で、問い合わせが相次いでいる。

 米国では6月からkickstarterを通じてクラウドファンディングで展開する予定。「アメリカではクラウドファンディングにすることが最大の広告になる」と高橋社長。

重量のある腕でいかに良い音を鳴らすかに苦心したという。スムーズかつ機敏に動かすため、ソレノイドという特殊なコンバーターを採用している。120万回の拍手実験にも耐えた
重量のある腕でいかに良い音を鳴らすかに苦心したという。スムーズかつ機敏に動かすため、ソレノイドという特殊なコンバーターを採用している。120万回の拍手実験にも耐えた
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D&AD賞Wood Pencil受賞!世界で認められた拍手マシン

 2017年には台湾のセブン-イレブンが毎年行う募金活動に高橋社長の拍手マシンが採用された。店内に設置した募金箱にお金を入れれば壁に並んだ拍手マシンがリズミカルに拍手をしてくれるというインスタレーション。当初は録音した拍手音を再生する予定だったが、「日本で1人だけリアルな拍手音をライブで鳴らせるやつがいる」と高橋社長に拍手監修の依頼が来た。バイバイワールドのラボで自分の手形を成型し、400組の手を台湾へ送った。

 台北など9都市に設置されるや、ソーシャルメディアを通じ14日間で1万人以上が募金、期間中の募金額は前年より200%もアップした。この取り組みが審査の厳しさが有名なイギリスのデザイン賞「D&AD賞」でブロンズに当たる「Wood Pencil」を受賞。「拍手は世界共通」という信念は証明された。

イギリスのデザイン・広告賞「D&AD賞」のHPより。2018年度のWood Pencil賞に輝いた「Rhythm of Love Wall」。高橋社長が拍手マシンを提供している
イギリスのデザイン・広告賞「D&AD賞」のHPより。2018年度のWood Pencil賞に輝いた「Rhythm of Love Wall」。高橋社長が拍手マシンを提供している

パクられ事件も味方に

 ビッグクラッピーの世界展開と並行して新しいおもちゃの構想も続けている。実は2016年に、中国のおもちゃ工場で無断でパチパチクラッピーとまったく同じ意匠と構造のおもちゃが作られるという事件があった。日本の100円均一ショップに卸すために作られたもので、仲介をする中国の商社がパチパチクラッピーを見つけて高橋社長に連絡し発覚した。いわゆる知的財産権の侵害に当たるが、高橋社長は訴えるのではなく商社の担当者の人柄を信じ現地まで足を運んだ。

 「正直、自分たちが作ったものより質の高いおもちゃだった。負けたと思った。僕たちが1500円で売ったものを100円で売れるのかと感心してしまった」という。高橋社長が選んだのは発売元の100円均一ショップとライセンス契約を結ぶことだった。そして“パチパチクラッピーもどき”のおもちゃは店頭に並んだ。

重量のある腕でいかに良い音を鳴らすかに苦心したという。スムーズかつ機敏に動かすため、ソレノイドという特殊なコンバーターを採用している。120万回の拍手実験にも耐えた
重量のある腕でいかに良い音を鳴らすかに苦心したという。スムーズかつ機敏に動かすため、ソレノイドという特殊なコンバーターを採用している。120万回の拍手実験にも耐えた
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 その後、同じ金型を使ってその工場でバイバイワールドのロゴが入った「帰ってきたパチパチクラッピー」を発売。自分たちの元へ取り戻した。禍を転じて福と為す。「技術力のある工場と縁ができたことで今後新作おもちゃを作りやすくなった」と話す。

バイバイワールドの「パチパチクラッピー」(左)と、中国の工場が作った“もどき”のおもちゃ
バイバイワールドの「パチパチクラッピー」(左)と、中国の工場が作った“もどき”のおもちゃ
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 「置くとより楽しく、幸せで平和な空間にしてくれる。招き猫に取って代わりたい」というビッグクラッピー。今後はカメラを付けて訪れる客層を把握しマーケティングに活用できるようにしてさらにビジネスに関する性能を高めることも考えている。人が集う場所に新たな縁起物として重用される日も近いかもしれない。予約は専用サイトhttps://www.bigclappy.com/で受け付け中。

「あってもなくてもいいものを世界に広めたい」と話すバイバイワールドの高橋征資社長
「あってもなくてもいいものを世界に広めたい」と話すバイバイワールドの高橋征資社長
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(文/北川聖恵、写真/湯浅英夫=日経トレンディネット)