2016年4月20日、三菱自動車工業(以下、三菱自)が燃費試験において不正な操作を行っていたことが明らかになった。対象は軽自動車の「eKワゴン」「eKスペース」、そして日産自動車(以下、日産)にOEM供給されている「デイズ」「デイズルークス」だ。

 記者は2013年6月、eKワゴンが発売された直後に、同車とそのライバル車種3台を借り、一般道を500㎞ほど走行。その際の実燃費をもとに、日経トレンディ2013年8月号に「エコ軽自動車完全テスト」という記事を掲載した。

三菱「eKワゴン」の実燃費は発売直後からスペックと乖離(画像)
[画像のクリックで拡大表示]

 その際、公表されている数値(JC08モード)と実燃費の乖離(かいり)が最も大きかったのが、実はeKワゴンだった。不正が行われているとまではさすがに思わなかったが、燃費の測定方法に合わせてエンジンを最適化する“テスト対策”くらいは行ったのだろうとは推測していた。

三菱「eKワゴン」の実燃費は発売直後からスペックと乖離(画像)
[画像のクリックで拡大表示]

 実燃費テストは、2013年6月に3日間にわたって行った。場所として選んだのは、東京・日本橋から大阪へと向かう旧東海道。一般道を走ることで、街乗りが多い軽自動車の利用実態に少しでも近づけようと考えた。ガソリンを満タン状態にして日本橋を出発し、燃料残量警告灯が点灯するまで無給油で走行。その走行距離から実燃費を割り出す。特に燃費を意識せずに運転し、エアコンの温度は25度で固定した。

 次のページでは日経トレンディ2013年8月号「エコ軽自動車実力テスト」の一部を転載する。

東京・日本橋を出発し、旧東海道をどこまで無給油で走れるかチェックした
東京・日本橋を出発し、旧東海道をどこまで無給油で走れるかチェックした
[画像のクリックで拡大表示]
実燃費はカタログ値トップが最下位
 税金が安く、燃費もいい軽自動車が人気だ。特に、車高がある「トールワゴン」タイプは室内空間が広めで、乗用車などから乗り換える「ダウンサイジング」の候補になり得る。

 このカテゴリーでは昨今、激烈な燃費競争が勃発しており、2012年9月にスズキがJC 08モード燃費28.8㎞/Lの「ワゴンR」を発売すると、ダイハツ工業は同年12月に「ムーヴ」をマイナーチェンジして29㎞/Lに。そして、2013年6月には三菱自動車が日産自動車と共同開発した「eKワゴン」(日産「デイズ」)が29.2㎞/Lを達成して首位に躍り出た。だが果たして、実燃費はどれほどの差があるのだろうか。

 そこで今回、この3台にホンダ「N-ONE」を加えた4台の実燃費チェックを敢行した。市街地での運転が中心という軽自動車の利用実態に即し、テストコースとして選んだのは旧東海道をたどる一般道。商店街あり、細い路地あり、峠越えありのルートだ。

 3日間で約500㎞を走り抜いたところ、クラストップのはずのeKワゴンが最下位に沈むという意外な結果になった。トップはワゴンRで21.9㎞/L。ムーヴが17.2㎞/L、N–ONEが16・3㎞/Lと続き、eKワゴンは15.6㎞/Lと振るわなかった。

 差が出た理由は、加速性能の違いにありそうだ。ワゴンRはエンジン出力は4台のなかで平均的な水準だが、車体重量が最も軽く、よく加速した。ムーヴはやや重めだが問題ない走り。N–ONEは最も重いものの、エンジン出力が高くストレスは感じなかった。ところがeKワゴンは、重いうえにエンジン出力が最も低い。今回は4台で車列を組んで走行したため、他の3台に追い付くためにアクセルを強く踏むことが多く、燃費が悪化した。「加速よりも燃費を重視している」(三菱自動車)といい、性能を引き出すにはエコ運転を心掛ける必要がありそうだ。
注)ガソリンを満タンにし、燃料残量警告灯が点灯するまで4台同時に走行。走行距離と使ったガソリンの量から実燃費を算出した。タンクの容量から燃料残量警告灯が点灯したときのガソリン残量(取扱説明書記載値)を差し引いた消費ガソリン量は以下の通り。ワゴンR21L、ムーヴ24L、N-ONE31L、eKワゴン25.5L。運転の仕方で差が出ないよう、約50㎞ごとに運転手を交代させた<br>注)アイドリングストップの持続時間は、停止前の走行状況やエアコンの設定温度、外気温などによって異なる。実測時は外気温27℃で、エアコンを25℃に設定。4台同時に停車して、エンジンが再始動するまでの時間を計った
注)ガソリンを満タンにし、燃料残量警告灯が点灯するまで4台同時に走行。走行距離と使ったガソリンの量から実燃費を算出した。タンクの容量から燃料残量警告灯が点灯したときのガソリン残量(取扱説明書記載値)を差し引いた消費ガソリン量は以下の通り。ワゴンR21L、ムーヴ24L、N-ONE31L、eKワゴン25.5L。運転の仕方で差が出ないよう、約50㎞ごとに運転手を交代させた
注)アイドリングストップの持続時間は、停止前の走行状況やエアコンの設定温度、外気温などによって異なる。実測時は外気温27℃で、エアコンを25℃に設定。4台同時に停車して、エンジンが再始動するまでの時間を計った
[画像のクリックで拡大表示]
三菱「eKワゴン」の実燃費は発売直後からスペックと乖離(画像)
[画像のクリックで拡大表示]

(日経トレンディ2013年8月号「エコ軽自動車完全テスト」より転載)

三菱と日産が初めて共同開発した重要なモデルだった

 eKワゴンはその後、2014年のマイナーチェンジで1リットル当たり30㎞の燃費を達成。減速時のエネルギーを蓄電池にため、加速時に補助的に利用する回生システムや、変速プログラムの最適化、エンジン吸気ダクトの改良などを行った。それで加速性能なども改善されたのだろうと思い、その後は気にも留めていなかった。ちなみに2015年のマイナーチェンジではさらに燃費が向上し、同30.4㎞とされている。

 三菱自の発表によると、今回の不正の該当車は「2013年6月から生産している車両」ということなので、最初の段階から“水増し”された数値が公表されていたということなのだろう。たった500㎞程度の試乗ではあったが、その結果は間違ってはいなかったのだ、と感じた。

 このeKワゴンは、三菱自が日産と初めて共同開発した戦略的に重要なモデルだった。開発の舞台裏を紹介したドキュメンタリー番組では、当初の目標燃費はもっと低かったが、ライバルメーカーが想定を上回る燃費のモデルを先に発売したため、急きょ目標が変更されるというエピソードが紹介されていた。ちなみに今回の不正が発覚した発端は、日産からの問い合わせだったという。

三菱「eKワゴン」の実燃費は発売直後からスペックと乖離(画像)
[画像のクリックで拡大表示]
三菱「eKワゴン」の実燃費は発売直後からスペックと乖離(画像)
[画像のクリックで拡大表示]
発売時の、三菱自の発表会と日産の発表会。双方とも燃費の良さを力説していたのだが

 個人的な話で恐縮だが、記者の妻の実家は岡山県にある。それだけに、岡山県倉敷市にある水島製作所で生産されるeKワゴンには親近感を持っている。三菱自の販売低迷で青息吐息の状態だった同製作所は、eKワゴンをはじめとする軽自動車を日産へ供給することで生産量が伸び、息を吹き返した経緯がある。

 今回の問題は三菱自、日産だけでなく、周辺自治体に点在する部品メーカーにとっても大きな問題だ。一日も早い真相究明と信頼回復への取り組みを期待したい。

(文/佐藤嘉彦=日経トレンディ、写真/高山 透、山本琢磨)