アイドルたちの熱い夏がもう始まっている――国内最大級のアイドルイベント「TIF(TOKYO IDOL FESTIVAL)」の出演をかけたオーディションイベント「TIF2017全国選抜LIVE powerd by ニッポン放送」が2月から始まった。4月7日には、HKT48メンバーの指原莉乃のテレビ番組に出演する権利などを争う新たなTIFオーディション・イベントも開始。春真っ盛りの4月、気温の上昇に合わせるように、アイドルたちのバトルもヒートアップし始めた。

 TIFは今年も8月4~6日の3日間、お台場の青海周辺エリアで開かれる。TIF2017全国選抜LIVEは、主催のTOKYO IDOL PROJECTが今年初めて立ち上げたローカルアイドルの全国選抜イベントだ。

地域振興から全国へ ローカルアイドル「新フェーズ」(画像)
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 全国47都道府県を7つのブロックに分け、各ブロックで書類選考や公開オーディション によって選ばれた1グループ、全部で8グループ(関東のみ2グループ進出)がTIF2017への出場権を手にする。「2010年から開催されたTIFに今まで出演したことがない、もしくは1回しか出場したことがなく、現在あるいは過去に定期的に活動していたアイドル」というのが参加資格。仕掛け人は、フジテレビジョン コンテンツ事業局でTIF2017の総合プロデューサーも務める菊竹龍氏だ。

各地で頑張るアイドルにスポットライトを

フジテレビジョンの菊竹氏。TIF2017の総合プロデューサーを務める
フジテレビジョンの菊竹氏。TIF2017の総合プロデューサーを務める
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 菊竹氏は、TIF2017全国選抜LIVEを立ち上げた理由をこう説明する。

 「アイドルたちの中には、東京で頑張っているアイドルもいるし、全国各地で頑張っているアイドルもいる。特に東京以外の場合、メディアなどとのつながりや情報の入手という点で不利なところが多いので、実力があってもなかなか有名になれない。そこで今年、人知れず頑張っているアイドルたちにスポットライトを当てたいという思いで全国選抜企画をスタートしました。2015年の『大阪☆春夏秋冬』みたいに『こんなにすごい子たちがまだまだ全国各地にいるんだ』と教えたい。TIFを踏み台にしてもらって、メジャーへの道や未来が開けたらいいと思っています」

 同様に地方選抜を経て中央で決勝戦を行うイベントには、ホリプロから主催をTHE CROSSが引き継いだ「U.M.U AWARD(ご当地アイドルNo.1決定戦)」や、テレビ朝日ミュージックが主催する「愛踊祭~あいどるまつり~(国民的アニメソングカバーコンテスト)」がある。いずれもTIF同様、全国を複数エリア(ブロック)に分けて地方予選を争い、最終的に中央で決勝戦を行う全国イベント。決勝戦に勝ち残るとさまざまなメディアが取り上げてくれることで出場者の露出が増え、その後の集客に大きな影響を及ぼすことになる。

 こうしたイベントが増える背景には、現在アイドル界を席巻している「坂道」グループ(乃木坂46、欅坂46)に続く次世代大型アイドルの不在という状況がある。一方で地方には「大阪☆春夏秋冬」や「山口活性学園」といった元気あるアイドルが次々と現れている。こうした次世代大型アイドル候補に光を当てれば、全国区のアイドルに引き上げることができる。

 従来ローカルアイドルは、例えば商工会議所などが地場産業の活性化を目的としてグループを作ることも多かった。しかし最近では、地方の経済団体などとは無関係に、個人のプロデューサーや芸能事務所が作る“新型”ローカルアイドルも増えてきた。こうしたアイドルグループは地元に縛られないため、いずれ機が熟せば中央進出を狙え、全国区アイドルとして互角に大型アイドルと集客を競える可能性がある。“地方在住”というハンデをむしろモチベーションに換え、中央のトップアイドルを狙えるレベルに育ってきている。まさに「新フェーズ」に突入しているといえるのだ。

「第2の大阪☆春夏秋冬を見つける」

アイドルグループの大阪☆春夏秋冬。左からYUNA、RUNA、MAINA、EON、ANNA、MANAの6人メンバー 写真/郡谷謙二
アイドルグループの大阪☆春夏秋冬。左からYUNA、RUNA、MAINA、EON、ANNA、MANAの6人メンバー 写真/郡谷謙二
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 「第2の大阪☆春夏秋冬を見つけたい」――TIF2017をプロデュースする菊竹氏は「TIF2017 全国選抜LIVE」に向けて同イベントの役割をそう例えた。

 菊竹氏の言う「大阪☆春夏秋冬」とは何者か。

 2010年、奈良の平城遷都1300年を記念して作られたアイドルグループ「万葉シャオニャン」をルーツとする大阪のローカルアイドルである。その名の通り、メンバーの1人を除く全員が大阪出身・大阪育ちだ(1人は名古屋出身)。TIF2015で「見つかったアイドル」として一気にブレークし、直後の渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブを成功裏に終わらせた。2016年にはTIF、アイドル横丁、@JAM×ナタリーEXPOという大型アイドルフェスのメインステージに立ち、2017年1月には新曲「New Me」をリリース。5月から東名阪ツアーを始める。

※大阪☆春夏秋冬のインタビュー記事はこちら

アイドルグループ 山口活性学園をマネージメントしている玉乃井氏
アイドルグループ 山口活性学園をマネージメントしている玉乃井氏
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 大阪☆春夏秋冬と同様、地方に拠点を置きながらも、中央で人気が急上昇しているのが「山口活性学園」だ。その名の通り、山口県を拠点に活動している山口活性学園は、2016年のU.M.U AWARDで準グランプリとなったローカルアイドルグループだ。同グループをマネージメントしているファイブリッジミュージック代表の玉乃井信彦氏によれば「最初は素人の集まりから始まった」。それが今では、夏の大型アイドルフェスの常連となる成長ぶりを見せている。

 地方色の濃い山口県でアイドル活動を続け、そして育成していくのは、東京や大阪など恵まれた環境に比べてはるかに難しい。しかし、そうした困難こそがアイドルやスタッフの闘争心に火を付け、「中央に負けない」アイドルを育てるキッカケとなったことは、玉乃井氏の言葉からうかがえる。

 「メンバーは、中央のアイドルに負けないよう、めちゃめちゃ厳しく育ててきました。ローカルアイドルは、地方メディアにさえなかなか出られないから、とにかくライブで知名度を上げるしかありません。中央のアイドルに絶対クオリティーで負けたくないという気持ちが強くありました」

 なぜ、そうまでして地方を拠点にアイドルを育成し続けるのか。その理由を玉乃井氏は、以下のように語った。

 「山口県在住の次の世代の子たちにサクセスストーリーを見せてあげたいからです。もし成長の途中で県外に拠点を移してしまったら、そのサクセスストーリーは別物になってしまいます。でも、山口を拠点に活動すれば、県内にお客さんを引っ張ってくることもできます。そういう様子は、山口にいる子たちにもじかに伝わりますよね。だから、山口を拠点に活動すること自体が大切なんです」

地方育成の流れを大手イベントが強化

 大阪☆春夏秋冬と山口活性学園の成長過程を見てみると、いまどきのローカルアイドルの成り立ちが見えてくる。いずれもスタート時点では、有志の集まりや個人経営の会社から始め、地方で地道なアイドル活動を続けるうちに、その地方に盤石なファン層を確立。そうしたコアなファン層が今度はマイクロインフルエンサーとなって、ネット上に情報を拡散していく。これらの情報を中央の大手イベンターやメディアがキャッチし、中央進出へのキッカケを作っていくというものだ。

 こうした流れを積極的にとらえてイベント化するのが、今回のTIFの全国選抜の動きである。従来から同様の地方選抜イベントは複数存在しているが、すでに全国区で知名度が高く集客力も大きい大型アイドルフェスのTIFがこのような地方選抜イベントに参入する意義は大きい。なぜなら、選抜を勝ち抜いて最後に上がることができるステージの規模(集客)が他のイベントよりも大きいからだ。

 数万人規模でアイドルファンを集客する大型アイドルフェスでは、アイドルが10~30分間隔で次々と代わりながら演じていく、いわゆる“対バン”形式を採っている。対バンでは、それぞれのアイドルの持ち時間は短いが、他のアイドルのファンに自分たちのパフォーマンスを見せるメリットは大きい。さらに、最近のどのフェスにも併設されている物販から特典会の流れは、アイドルとファンが直接触れ合うことができる機会となるため、プラスアルファの集客効果が期待できる。もちろん、大型イベントとなれば、メディア露出の機会も増え、全国区でファンを増やすまたとない機会にもなる。

 手法やスタンスは異なるが、こうした“中央制覇”のシナリオを描くローカルアイドルは、大阪☆春夏秋冬や山口活性学園以外にも、ミルクス本物(札幌)やDorothy Little Happy(仙台)、MAPLEZ(広島)、ひめキュンフルーツ缶(愛媛)、LinQ(福岡)など枚挙にいとまがない。また、規模感や成り立ち、全国制覇のシナリオは異なるが、AKBグループ(SKE48、NMB48、HKT48、NGT48など)やスターダストの地方ユニット(チームしゃちほこ、たこやきレインボー、ばってん少女隊など)なども地方に根付きながら、中央アイドルに迫る集客を誇っている。

福岡のローカルアイドルグループ LinQ。所属はジョブ・ネット。写真は@JAM×ナタリーEXPO 2016にて
福岡のローカルアイドルグループ LinQ。所属はジョブ・ネット。写真は@JAM×ナタリーEXPO 2016にて
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スターダストプロモーション福岡営業所に所属するばってん少女隊。写真は@JAM×ナタリーEXPO 2016にて
スターダストプロモーション福岡営業所に所属するばってん少女隊。写真は@JAM×ナタリーEXPO 2016にて
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熱い夏はもう始まっている

 4月の段階でTIF2017全国選抜LIVEは、全国8ブロックの決勝参加グループが決まり、4月2日の「関東Aブロック」を皮切りに最終選考イベントが始まった。最終戦は5月28日の「関東Bブロック」で、計8組がTIF2017への参加権を得る。最終選考では、各ライブの来場者の投票と、“夢を叶える”ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM」での生配信中のユーザー投票によって、各ブロックから1組が選ばれる。

 イベント勝ち抜きの特典として、HKT48メンバーの指原莉乃がMCレギュラーを務める番組「この指と~まれ!」の出演権を獲得できるイベントも4月7日に発表された。4月~7月にかけて行われるこのイベントで1位になったアイドルには番組のエンディングテーマ曲を担当する権利も与えられるという。勝ち抜いたアイドルのうちの6組がTIF2017に出演できる。

 ローカルアイドルから全国区アイドルへ。その道のりは長いようで短い。なぜなら、アイドルたちが輝ける期間には限りがあるからだ。その短い間に、いかに自分たちの名前を全国に知らしめ、集客し、メディアに露出するか。TIF2017全国選抜LIVEや追加された選抜イベントでは、開催直前の7月までという実質たった半年足らずの間にアイドルたちの夢の実現の可否が決まってしまう。アイドルたちの夏は年明けから始まっているのだ。

(文/野崎勝弘=メディアリード)