海外も注目する日本のかき氷

 氷の食感とシロップの工夫で、現在ではすっかり定着した感のあるかき氷ブーム。今後もユニークなかき氷が登場するなどして、人気は加速するだろう。例えば昨年、台湾の人気かき氷店「アイスモンスター」が上陸して表参道に大行列を作った。アイスモンスターをきっかけにかき氷に興味を持った人も増えたのではないだろうか。

 冒頭のかき氷コレクションを主宰する、イベントの企画・製作などを手がけるフィッシュレコードの代表取締役、小池隆介氏は、「現在のかき氷の多様化をしっかりと受け止めて、さらにかき氷を広めていきたい」と語る。日本のフワフワ食感のかき氷は外国人にも人気で、フレンチやイタリアンのデザートとしても注目されており、実際に輸出も始まっている。その一方で、地方の製氷業者などが設備投資ができずに廃業するケースもあるという。「かき氷に関わるすべての業界を盛り上げるために、今後は国や地方自治体の支援が不可欠になる」(小池氏)。

 明治以降、庶民を楽しませてきたかき氷。「日本からかき氷がなくなることはないでしょう」と小池氏。今年の夏はどんなかき氷が話題になるのだろうか? 今から楽しみだ。

天然氷の蔵元「松月氷室」を訪ねて
 まだまだ肌寒い3月上旬、栃木県日光市にある天然氷の蔵元、松月氷室を訪れた。自然の力で凍らせた天然氷を食べたいという人々の興味が現在のかき氷ブームの背景のひとつにあるのは間違いない。
明治27年創業の松月氷室。夏場にはかき氷を求める人で行列ができる
明治27年創業の松月氷室。夏場にはかき氷を求める人で行列ができる
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 お店は営業していると聞いていたが、「こんな寒い日に日光までかき氷を食べに来る人がいるのだろうか?」と思っていた。だが実際にお店に入ると先客がいた。若い女性のグループで、かき氷を口に入れるたびに「オイシー!」と叫んでいる。そんな彼女たちを笑顔で接客していたのが、今回取材に応じてくれた松月氷室の代表取締役、吉新昌夫氏だ。実は日光には天然氷の蔵元が3カ所もある。

 「昔は日光を観光して、そのついでにかき氷を食べにきていたが、今は逆転してしまった。日光でかき氷を食べて、そのついでに日光を観光していく」と、昨今のかき氷ブームの盛り上がりを冗談交じりに話す。

 全国に数カ所しか蔵元がないのになぜ日光に集中しているのだろうか。

 「日光は氷を作るのに適した土地。関東平野の山沿いは雪や雨があまり降らないのに寒い。これが天然氷を作るのに理想的」(吉新氏)と解説してくれた。

 実は天然氷にとって雪や雨は天敵。せっかくの天然氷に不純物が混じってしまったり、透明度が低くなる原因になるからだ。

 天然氷作りは9月下旬から始まる。専用の池とその周囲の掃除、氷室の修繕、水源の整備など準備段階から忙しい。12月に入ると水が凍るようになるが、まだまだ寒さが安定しないため割って捨ててしまう。そして12月下旬のクリスマスのころから寒さが安定する。ここからが勝負だ。

 「無風で池が全面結氷する日をひたすら待つ。なぜ無風かというと木の枝などが池に落ちていないから。落ちていたらやり直し。割って捨てるしかない」(吉新氏)。

 氷は1日に約8ミリ~1センチ程度成長する。数日経って、厚さが4センチから5センチになればしめたもの。ここまで厚くなれば、人が氷の上に乗ることができる。乗れれば雪や木の枝などを掃いて掃除できるようになる。それでも途中で大雨が降ったりすれば割って捨てるしかないという。無事に15センチまで氷が成長したら切り出して、氷室や冷凍庫に保存する。
天然氷を切り出しているところ(写真提供/松月氷室)
天然氷を切り出しているところ(写真提供/松月氷室)
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冷凍庫に保管されている天然氷
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 実際には一つの池で2回切り出す場合が多い。1回目に切り出した天然氷を一番氷、2回目を二番氷と呼ぶという。例年であれば1月10日前後に1回目を切り出し、1月下旬から2月上旬に2回目の切り出しを行う。

 「今年は1月22日に1回目を切り出した。いつもよりも10日くらい遅かったけど、2月に無事2回目も切り出せた。これだけ取れれば、十分に夏の需要にも応えられる」(吉新氏)。

 今年の夏も松月氷室の天然氷が楽しめそうでひと安心した。

 取材の後半にかき氷をごちそうになった。フワフワの食感と口どけがたまらない。しかも温度管理された氷なので、次々口に運んでも頭がキーンとしないどころか、体がまったく冷えないのに驚いた。
真冬に行列! なにが人々をかき氷に走らせる?(画像)
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松月氷室のかき氷。「きな粉とホイップミルクのかき氷」(左)、「生メロン」(写真提供/松月氷室)。このほか吉新氏が「かき氷の本来の姿」と話す、昔ながらの駄菓子屋のかき氷も提供している

(文/渡貫幹彦=日経トレンディネット)