業態って誰が決めたのでしょうか?

――トーハン時代には、心理学や統計学も勉強されたと伺っています。

鈴木:出版界は遅れていたから、ようやくマーケティングリサーチを取り入れようかという段階だったんです。それで会社の命令で大学の先生を招き、統計学や心理学を勉強したんです。

――心理学や統計学で今、役立てられていることがありますか?

鈴木:プライベートブランド(PB)は、心理的な盲点を突いたと思います。PBは、ナショナルブランドより安いという暗黙の定義があった。それはおかしいと思い、うちでPBを始めるときには、質のいいものを開発するよう指示したんです。しかもグループのデパート、スーパー、コンビニのどこでも同じ価格で販売するように、と。

 みんな反対しましたね。百貨店のそごう・西武は、スーパーやコンビニと同じものは売れないと言うし、ヨーカドーやコンビニも、同じ値段では売れないと言う。私は、「商売を知らなすぎる」と怒りましたね。今の世の中は、ものが十分に足りていますが、一方で人は新しいものを常に求めています。人の欲望は無限です。だから質のいいものを出せば、同じ値段でも売れるんですよ。みんなは不服そうでしたけど、私がやれと言うから、仕方ないですよね。おかげさまで、今年でPBの売上高は、業界トップの1兆円超になります。安さじゃないんですよ。

――そうした発想が、グループの販路を統一するオムニチャネルの取り組みにつながるのでしょうか?

鈴木:ものを買うという行為の最終形態がオムニチャネルだと、私は思っています。実店舗とオンラインを統合しますから、オムニチャネルが進めば、どこにいても商品を注文できます。購入した商品は全国1万7000店超のセブン-イレブンで受け取れるし、返品もできる。どうです? 便利でしょ。一人住まいの女性も、自宅で荷物を受け取らなくてよくなります。もし購入前に商品の詳細を確認したかったら、実店舗で見られるのも強みです。

 とにかく本当の意味のオムニチャネルができるのは、うちだけです。同じ資本でデパート、スーパー、コンビニ、そして専門店までそろっているグループは外国にだってないですよ。

――消費者は、目的によって業態を使い分けていると思いますが、グループ内でのデパート、スーパー、コンビニの位置づけは変わりますか?

セブン鈴木敏文会長インタビュー〈後編〉「みんなが反対することに価値がある」(画像)
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鈴木:業態って誰が決めたのでしょうか? 実は、お客さんが決めたわけじゃないんですよ。今日、私が着ているワイシャツは、ヨーカドー、そごう・西武が共同で開発した、4900円(税別)の商品です。今これが、西武でもヨーカドーでも、一番売れています。お客さんからすれば、生地の肌触りが良くて着やすいことが重要で、どこで売っていてもいいんです。

――5年後のコンビニは、どのように進化しているでしょうか?

鈴木:オムニチャネルに対応する形で、扱う品物が増えるでしょう。衣料品なども売るようになります。それとサービス面では、「配達」ということが相当増えていくと思います。

――今も食事を宅配する「セブンミール」というサービスがありますが、さらに昔のご用聞きのように、配達する品目が増えるということですか?

鈴木:そうです。思えば、セブン-イレブンを始めた頃は、お声を掛けた酒屋さんに「配達する時代は終わった。コンビニなら、お客さんから買いにきていただけます」と説得したものです。だけど40年たって、またガラッと逆転し、コンビニも配達しなければいけない時代になりました。それが世の中の変化に対応するということです。

――仕事を持つ女性や高齢者など、いわゆる“買い物弱者”への対応も強化していくお考えでしょうか?

鈴木:そうです。定期的に配達するご家庭も増えてきています。配達時に、お年寄りの健康状態などもチェックできるようになるでしょう。

――今後、ますますサービスの質がきめ細やかになりそうですね。

鈴木:地域性がカギになるということです。チェーンストアの時代は終わったという話をしましたが、本部であらゆる方針を決めるやり方は通用しません。実際、コンビニでもスーパーでも、業績の良くない店は思い切って店長任せにしたほうが、売り上げが伸びます。だって今では、地方の人だって東京土産を喜ぶという時代ではないでしょ。むしろ地元のものをもらったほうがありがたいと思われます。

――時代の変化に対応するのが、顧客への一番のサービスでしょうか?

鈴木:社会は常に変化する。過去は否定し続けなければ前に進めません。

セブン鈴木敏文会長インタビュー〈後編〉「みんなが反対することに価値がある」(画像)
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聞き手/鹿毛康司氏
エステーの執行役・エグゼクティブクリエイティブディレクター兼第三事業本部長。1959年、福岡県生まれ。早稲田大学商学部卒業。米ドレクセル大学でMBA取得。CM代表作は「ミゲルの消臭力」他。著書に『愛されるアイデアのつくり方』

〈インタビューを終えて〉
鈴木会長の挑戦を続けられる姿勢にかねてから感銘を受けてきた。実際にお会いして、ぶれない志をお聞きするにつれ、世の中に対する鈴木会長の実直な愛情を垣間見た。巨大企業のトップとして厳しい決断も必要と思われるが、判断基準は常に「お客さんが喜ぶかどうか」。“常識”に縛られずに「顧客視点」で突き進むお姿は、企業の経営者を超えた社会のプロデューサーだと私の目に映りました。

(企画・構成/奥井真紀子、写真/大髙和康)


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