店舗数が100を超えたときが一つの節目でした

――大きな流通改革に、POS(販売時点情報管理)の導入があります。

鈴木:これも必要に迫られたものですね。店数が増えると、商品の発注も相当な数になります。最初は電話でやりとりをし、それからオートバイを飛ばして伝票を集めるようにした。だけど、こんな方式はすぐに限界が来ますよね。それで通信技術の知識なんか何もありませんでしたが、大手の電機メーカーに相談に行ったんです。

 私は単純に、大きな電算機を作っているメーカーなら、小さなものは簡単にできるだろう、と思い込んでいた。ところが小さいものでも難しく、開発にかなりの金がかかるという話になりました。すると当時、日本電気(NEC)の小林宏治会長が、自分たちの技術を上げるためにも必要な挑戦だと、共同開発を引き受けてくださったんです。

 それで1台80万から100万円になるという設備も、40万円で作っていただけた。そういうご支援があったから、新しいことへも挑戦してこられたんです。

――POSに欠かせないバーコードの普及は円滑に進みましたか?

鈴木:それぞれの業界にお願いするしかなかったですね。一番抵抗を示したのは、出版界なんです(笑)。

――そうなんですか。それはなぜ?

鈴木:バーコードは裏表紙に入れるんですけど、そこは今でもそうですが、全面広告のページなんです。そこに自社のバーコードを入れるわけにはいかないと、だいぶ言われました。いろいろありますが、目の前の壁を一つずつ破っていくしかなかったですね。

セブン鈴木敏文会長インタビュー〈前編〉「いつも転機の連続だった」(画像)
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――これまでに壁は無数に存在したわけですよね。諦めずに破ってこられた原動力は何ですか?

鈴木:それはやはり、お客さんの立場に立って考えること。その一点に尽きます。お客さんに受け入れていただければ、どんな開発もコストが合うんですよ。今、セブン-イレブンは全国に1万7000店以上あり、1店当たりの平均日販は67万円ほどです。他チェーンとは10万円以上の開きがあります。それはお客さんが評価してくださっているおかげです。ちょっとでも手を抜けば、ガクッと売り上げが落ちるでしょう。今は商品のライフサイクルが短くなっていますから、極端に言ったら日々、求められるものは変わります。

――その変化に対応したから、業界トップを維持してこられた。

鈴木:一時は、コンビニの時代なんていわれたこともありましたけど、何とか変化に対応してこられました。こう言ってはなんですけど、売り上げが前年同月をずーっと上回っているのは、セブン-イレブンだけです。

――これまでで、大きな転機を一つ挙げるとすれば、何ですか?

鈴木:いつも転機の連続です。ただ、あえて言えば、開業から2年たち、店舗数が100を超えたときは、一つの節目に来たと感じました。私は最初、5店舗くらい出したら自分たちが考えた通りの可能性があるかどうか、多少わかるんじゃないかと思っていたんです。だけど5店舗くらいじゃ何もわからない。10店舗、20店舗と増やしていっても、やっぱりわからない。結局、100店舗になってようやく、「あ、これで何とかやっていけるんじゃないか」と自信が持てたんです。小さなコンビニの店舗ですが、チェーン全体で100を超えるのは、当時としても大変なことでした。だから100店舗開店パーティを開いたんです。そのとき私は初めて感無量になって、皆さんに挨拶しながら涙を流しましたね。今振り返ってもうれしいことで、本当に一つの山を乗り越えられたと実感しました。

 実は、私は小売り現場の経験がない“素人”だった。それがいろいろなことに幸いしたのでしょう。

――そうでしたか。次回の後編では、会長の経営哲学や業界の将来について、詳しくお聞きしたいと思います。

2015年3月、東京都千代田区のセブン&アイ・ホールディングス本社応接室にてインタビュー。左は聞き手の鹿毛康司氏
2015年3月、東京都千代田区のセブン&アイ・ホールディングス本社応接室にてインタビュー。左は聞き手の鹿毛康司氏
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聞き手/鹿毛康司氏
エステーの執行役・エグゼクティブクリエイティブディレクター兼第三事業本部長。1959年、福岡県生まれ。早稲田大学商学部卒業。米ドレクセル大学でMBA取得。CMの代表作は「ミゲルの消臭力」他。著書に『愛されるアイデアのつくり方』

(企画・構成/奥井真紀子、写真/大髙和康)


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