ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの最新作『ズートピア』が、世界中で大ヒットを記録している。

(c)2016 Disney. All Rights Reserved.
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 日本に先駆け、3月上旬に公開された米国では『アナと雪の女王』(日本公開14年)や、『ベイマックス』(15年)を上回り、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ史上最高のオープニング興行成績を記録。『アナ雪』もなし得なかった3週連続1位も獲得した。

 『美女と野獣』(92年)、『アラジン』(93年)、『ライオン・キング』(94年)。この3作が立て続けにヒットした90年代前半をピークに、ディズニーの長編アニメーション映画は、やや低迷の時期が続いていた。

 しかし、『アナと雪の女王』『ベイマックス』、そして今回の『ズートピア』のヒットで、「再び黄金期を迎えた」とも言われる。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは、いったい何に取り組み、いまを迎えることができたのだろうか。

 4月23日の日本公開を前に来日した、『ズートピア』のプロデューサーのクラーク・スペンサー氏と、同作で脚本と共同監督を務めたジャレド・ブッシュ氏の2人に、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのヒット作品作りのポイントを聞いた。

<b>(左)ジャレド・ブッシュ氏</b><br>アカデミー賞監督ロバート・ゼメキスのスクリプト・リーダーとしてキャリアをスタート。コロンビア、20世紀フォックスにて長編映画の企画などを手がけ、ディズニーではアニメ専門チャンネル「ディズニーXD」のコメディ・アドベンチャー・シリーズ「Penn Zero: Part-Time Hero」(14~15年)の共同クリエイターと製作総指揮とライターを務めた。『ズートピア』では脚本家および共同監督として、作品のベースとなる世界観やキャラクターの性格、ストーリーの全体像を形作る責務を負っている。<br><b>(右)クラーク・スペンサー氏</b><br>90年、財務&プラニング部門のシニア・ビジネス・プランナーとしてディズニーに加入。その後20年以上にわたり、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの様々なエグゼクティブの役割を経験する。プロデューサーを務めた長編映画は、『リロ&スティッチ』(03年)『ボルト』(09年)『シュガー・ラッシュ』(13年)『ズートピア』の4作品。『シュガー・ラッシュ』では、アメリカ・プロデューサー組合賞にて最優秀アニメーション映画賞を獲得している
(左)ジャレド・ブッシュ氏
アカデミー賞監督ロバート・ゼメキスのスクリプト・リーダーとしてキャリアをスタート。コロンビア、20世紀フォックスにて長編映画の企画などを手がけ、ディズニーではアニメ専門チャンネル「ディズニーXD」のコメディ・アドベンチャー・シリーズ「Penn Zero: Part-Time Hero」(14~15年)の共同クリエイターと製作総指揮とライターを務めた。『ズートピア』では脚本家および共同監督として、作品のベースとなる世界観やキャラクターの性格、ストーリーの全体像を形作る責務を負っている。
(右)クラーク・スペンサー氏
90年、財務&プラニング部門のシニア・ビジネス・プランナーとしてディズニーに加入。その後20年以上にわたり、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの様々なエグゼクティブの役割を経験する。プロデューサーを務めた長編映画は、『リロ&スティッチ』(03年)『ボルト』(09年)『シュガー・ラッシュ』(13年)『ズートピア』の4作品。『シュガー・ラッシュ』では、アメリカ・プロデューサー組合賞にて最優秀アニメーション映画賞を獲得している
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メインテーマの一つは、“夢をあきらめない”こと

 動物が人間のように暮らす大都会、ズートピア。「誰でも夢を叶えることができる楽園」と言われるこの街に、史上最大の危機が訪れていた。立ち上がったのは、立派な警察官になることを夢見るウサギのジュディ。ひょんなことから出会った“夢を忘れた”キツネのニックを相棒に、ズートピアに隠された驚くべき秘密に挑む……。

大ヒット連発で黄金期再びのディズニー、“大人の共感”がヒットのカギ(画像)
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クラーク・スペンサー氏
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クラーク・スペンサー氏(以下、
スペンサー氏):
 主人公の一人であるアカギツネのニックは、小さいころから「キツネはずる賢い」という偏見を世間から押しつけられて育った。結局、この偏見を取り払うことをあきらめ、詐欺師まがいなことをして生計を立てている。一方、アナウサギのジュディは、サイやカバなど大きな体格の動物ばかりがそろう警察官に憧れるも、周囲からは「小さなウサギには無理」と言われている。でも「そんなことはない。自分はこんな風になれるんだ」と思い続けて、ついにはウサギ初の警察官になる。この作品で伝えたいテーマの一つは、「世間からどのように見られても、本当に自分を定義づけるのは自分」ということなんです。

 これは、子供に夢と希望を与えるディズニー作品らしいメッセージだ。映画内には、ウサギやキツネのほかにも、さまざまな可愛らしい動物たちが出演。ユーモラスなシーンが随所にちりばめられており、一見、子供向け作品に思えるかもしれない。

 だが、この作品が世界中でヒットを続ける背景には、大人たちからの強い支持がある。

ジャレド・ブッシュ氏
ジャレド・ブッシュ氏
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ジャレド・ブッシュ氏(以下、ブッシュ氏): 
この映画は、決して動物について描いた作品ではないんです。人間社会、特に現代社会の課題を描いています。

 実は本作、主要キャラクターの成長を描くなかに、「偏見」「人種」「差別」といった問題を織り交ぜているのだ。


動物の特徴をそのまま描くことで、“違い”を浮き彫りにする

 『ズートピア』に登場する動物たちは、人間のように服を着て二本足で歩き、それぞれに仕事を持つ。いずれも可愛らしく描かれているが、多くのアニメーション作品にみられる、より人間に近づけるようなデフォルメはされていない。

 例えば、動物ごとの体の大きさはそのまま表現。キリンはとても大きく、ネズミは非常に小さい。そのためキリンは背の高い人、ネズミは低い人に見える。また肉食動物、草食動物という違いや、動物特有の行動や習慣もそのまま取りいれている。

動物の体格の違いをそのまま描く<br>(c)2016 Disney. All Rights Reserved.
動物の体格の違いをそのまま描く
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 笑いを誘うのは、免許証発行センターに勤めるナマケモノたちだ。非常に動作が遅いうえ、すぐに雑談を始める。結果、業務が滞り、行列を作る他の動物たちをイラつかせる。

スペンサー氏: 米国の免許センターは処理が遅いことで有名なんですね。そこで、ナマケモノの習性をあてはめました。米国に限らず、お役所仕事に触れたことがある大人なら共感してくれると思います。ゆっくり動いて、見た目にも楽しいですから、もちろん子供も一緒に笑うシーンです。

免許証発行センターで窓口を勤めるナマケモノは動作が非常に遅い<br>(c)2016 Disney. All Rights Reserved.
免許証発行センターで窓口を勤めるナマケモノは動作が非常に遅い
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 このように動物の習性をユーモアに生かす一方で、体格や性格などの「違い」を浮き彫りにする狙いもある。「ナマケモノはトロイ」「キツネはズルイ」といったように、『ズートピア』に登場する動物たちは、それぞれ何らかのイメージや偏見を持たれているのだ。

 映画のなかでウサギのジュディは、ある動物に対する「偏見」を思わず露呈しまう。普段は意識していないが、心の奥底にあった偏見が自然に口に出て、傷つけてしまう。このシーンは、大人こそ強く身につまされるだろう。

ブッシュ氏: 我々ディズニーの語るストーリーには、普遍的な悩みや感情は不可欠です。「世界の人々が普遍的に感じることはなにか」「いま、どのようなことに感動しているか」。そういったものを、常にアンテナを張って感じていなければいけない。これらを、娯楽性を失わずに人々に伝えるストーリーテリングを模索しています。

最大の賛辞は「鑑賞後に大人が語り合うこと」

 『アナと雪の女王』では人と違うことのコンプレックス、『ベイマックス』では大切な人を失う哀しみ。そして本作では偏見。特に、近年のウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ作品は、大人こそ共感する普遍的な問題や悩みが、強くストーリーに反映されている。

スペンサー氏: アニメーション作品と聞くと、「子供向け」「ファミリー向け」と思う人もいるかもしれません。でも携わっている我々にとって、アニメーションは一つの表現方法。見てくれた誰もが何かを得られる、そんな作品を常に目指しています。さまざまなアイデアを盛り込んで、大人も共感できる作品になるよう取り組んでいます。

 大人も共感するメッセージ性と、子供も喜ぶ娯楽性の両立。これを実現するために役立っているのが、「ストーリートラスト」という仕組みだ。

ブッシュ氏: ストーリートラストは、その企画に携わってないスタッフも参加して、作品がより良くなるアイデアを出しあう場です。

スペンサー氏: この手法は、(ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオとピクサー・アニメーション・スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務める)ジョン・ラセターがウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオにやってきた10年前(06年)から取り入れられましたが、我々の映画作りやアプローチ方法を根本から変えました。

 『シュガー・ラッシュ』(13年)あたりからさらに機能しはじめ、『アナ雪』や『ベイマックス』のような作品の誕生につながったと思います。

ブッシュ氏: ストーリートラストはさまざまな段階で行うのですが、『ズートピア』では、まず僕が台本を書き、それを基に絵コンテを書いて編集したものを「第一試写」として上映し、ほぼ全ての従業員が見て意見を出し合いました。

 その後は10~20人の先鋭が集まって、特定のことを話し合う。例えば、「もう少し自然に、ジョディとニックを仲たがいさせるようなストーリー展開はないか」など、細かい点について意見を交わします。このとき、肩書は関係ないんです。ベストアイデアであれば、誰のアイデアであっても採用されます。 私も、『アナ雪』や『ベイマックス』のストーリートラストに参加したんですよ。

大ヒット連発で黄金期再びのディズニー、“大人の共感”がヒットのカギ(画像)
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 夢が叶う楽園“ズートピア”に隠された事件を追うウサギのジュディとキツネのニックに、どんな結末が待ち構えるのだろうか。

ブッシュ氏: 偏見といった普遍的な問題であるからこそ、簡単な答えはありません。見た人がそれぞれに何かを感じ、考えてもらうきっかけになるだけでも作った甲斐があります。最大の賛辞は、鑑賞後に大人同士で話し合ってくれること。そういう作品を目指しましたし、そういう作品であってほしいと思っています。

『ズートピア』
『ズートピア』
製作総指揮:ジョン・ラセター
製作:クラーク・スペンサー
監督:バイロン・ハワード『塔の上のラプンツェル』/リッチ・ムーア『シュガー・ラッシュ』
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
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2016年4月23日(土)全国ロードショー
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(文/羽田健治 写真/吉澤咲子)