日本発の新しいジビエの可能性を探る

 では、フランス料理店はみえジビエをどのようにとらえているのだろうか? 三重県立美術館内にあるフランス料理店「ミュゼ ボンヴィヴァン」の代表取締役、出口直希氏は「フランス本国にはない日本独自の味わい」とみえジビエを評し、「現代の嗜好に合っている」と話す。

 そもそも出口氏は、10年以上前からジビエ料理を提供しており、ジビエ料理の作り方を地元の中学や高校で教えることもある“ジビエの伝道師”。「ジビエはフランス料理の花形の食材で、その店のトップのシェフしか扱えないことが多い。若い料理人にとってはあこがれの食材」(同氏)と語るように、ジビエに精通している。

 出口氏は、みえジビエについて、食肉処理のマニュアルがしっかりしているため、「肉の品質や味が安定している」と話す。昔は購入する猟師によって味や品質がまちまちだったという。現在は登録業者から1頭買いでシカを購入し、昨年は70頭分売れたというから驚きだ。

 また、みえジビエは「日本発、世界に発信できるジビエになる」(同氏)とも。ほぼ一年中捕獲できるため、季節に合ったジビエの楽しみ方を提案できることが理由だ。「季節ごとに個体の脂ののりが違ったり、春なら若い個体が入手できるかもしれない。それぞれに味付けを変えたり、旬の野菜を組み合わせたりといった新しいスタイルが提案できる」(同氏)と語る。

 同店の人気メニューは、「美杉産頭買い鹿肉のロティ 食べ頃部位を本日の仕立てで」。1頭買いしたシカを「熟成を加えながら、(特定の部位だけがなくならないように)うまく回している」(同氏)。出口氏によれば、ジビエは「ローストするときの火加減が重要で、オーブンで30秒焼きすぎただけで味や軟らかさが違ってくる」という。

 みえジビエの将来については、現代の嗜好に合っているので、和食などへの展開を期待したいとのこと。「居酒屋でシカ肉のメンチカツが手軽に食べられたら面白いと思う」(同氏)と話してくれた。

ミュゼ ボンヴィヴァンの人気メニュー「美杉産頭買い鹿肉のロティ 食べ頃部位を本日の仕立てで」。ローストのテクニックも味わってほしい一品
ミュゼ ボンヴィヴァンの人気メニュー「美杉産頭買い鹿肉のロティ 食べ頃部位を本日の仕立てで」。ローストのテクニックも味わってほしい一品
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ミュゼ ボンヴィヴァンの代表取締役、出口直希氏
ミュゼ ボンヴィヴァンの代表取締役、出口直希氏
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本場フランスへの輸出を目指す?

 みえジビエは、三重県が中心となって、一般企業でいえば営業となって活躍の場をどんどん広げている。昨年は三越のお歳暮にも採用され、今年は中部国際空港発のJAL国際線の機内食としても提供が始まっている。関係者の目標である「一般の人にもっと広めたい」は着実に前進しているようだ。三重県下の一部スーパーではみえジビエを扱っており、ハンバーグなどの加工食品も登場するなど、一般家庭にも徐々に浸透し始めている。

 今後の課題は、「県外と海外への進出」と、三重県農林水産部 フードイノベーション課の久保村実氏は話す。本場フランスのジビエを食べたことがある方からは「もう少し臭みがあってもいい」という感想をもらうこともあるそうだ。だが、欧州でも都市部を中心にジビエの需要は減っているともいわれている。肉の臭みもその理由のひとつだろう。ならば臭みの少ないみえジビエが“日本発の新たなジビエ”として、県外、海外、そして本場フランスでも注目される可能性はあるのではないか――。今後のみえジビエの広がりに期待したい。

(文/渡貫幹彦=日経トレンディネット)